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第3章〜新たな出発〜
ヨーロッパ④
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郵便局で手紙を出した帰り、本屋に入った。『赤毛のアン』の文庫本を手に取る。オーロラは中学のときによくアンを読んでいた。
「アンは多くの女の子と一緒で完璧じゃないの。おかしな妄想をしたり癇癪を起こしたり、突拍子もない行動をする。すごく自分に似ていて共感できるのよ」
オーロラはそう言っていた。
「アンが住んでいた『プリンス・エドワード島』は凄く綺麗な島なのよ。まだ写真集でしか見たことがかいけれど、いつか行ってみたいわ」とも。
絵本のコーナーを眺めていたら、オーロラの『猫のカルメン』の並ぶ本棚の隣に、面出しされて並べられている絵本がある。作者はオーロラ・エルスワースで、『がんばっているあなたへ』というタイトルだった。表紙には子どもの描いたようなカラフルな女の子の顔が描いてある。
この絵に見覚えがあった。小学5年のとき、『友達の顔を描いてみよう!』という課題で私とオーロラは美術の時間に互いの顔を描いたのだ。そのときに描いてくれた絵を、大人になってから部屋の机の中から見つけた私はスマートフォンで写真に撮ってオーロラに送ったのだった。
そっと絵本を手に取って開く。
絵本の最初のページにはカラフルなサーカステントが描かれている。
次のページには赤鼻の女の子がカラフルなボールでジャグリングをしている。
それを黒い可愛らしい猫が客席に座って見守るように見つめている。
がんばっているあなたへ
あなたはいつも
好きなことに一生懸命で
まわりが見えなくなるくらい
一途な人です
だけどあなたのがんばりを
おおくのひとはしりません
だけど私は知っています
あなたがとおいどこかで
夢にむかって
せいいっぽい
がんばっていることを
あなたはいつも無理をして
心配しないでって言うけれど
あなたが傷ついていることくらい
私にはかんたんに分かってしまう
あなたはいつも私に
あたたかい言葉をくれる
明るい笑顔と勇気をくれる
だけど私があなたにあげられるものは
とても少ない
私はあなたがしあわせでいることを
お腹を空かしていないことを
誰かに傷つけられていないことを
願うことしかできない
がんばっているあなたへ
あなたが困ったときに
だれかに助けを求められるように
あなたがひとりで苦しむことのない
世界になるように
あなたが泣いているときに
この本がよりどころになるように
とおくから祈っています
しゃがみ込んで泣いている私に店員や客が訝しげな目を向ける。だがなりふり構ってなんかいられない。
オーロラは遠くから私を応援してくれていた。私が頑張っているのも苦労しているのも知っていて、絵本という形でメッセージをくれたのだ。私だけではない、誰にでも届くような言葉で。
これが全く関係のない誰かが書いたとして、こんなに胸がいっぱいになることはなかっただろう。やっぱり私はオーロラのことが好きだ。彼女から贈られた言葉でなければ、きっとこんなに人目を憚らず泣きじゃくることもなかっただろう。
もしもこの想いが届かなかったとしても、私が心から大切に想う人は彼女以外にいないだろう。
いつかオーロラと一緒にプリンス・エドワード島を訪れたい。彼女に会うことができたら自分の想いを真っ直ぐに伝えたい。この絵本の感想もお礼も、何一つ偽ることなんてしないで。
オーロラは以前ある女性と交際していたときに言っていた。「彼女と家族を作りたい」と。だがその美しい夢は相手の裏切りによって無惨にも打ち砕かれた。オーロラは絶望して泣いた。
もし私が彼女の恋人なら、彼女をあんなに深く傷つけはしないだろう。彼女以外の誰かに目を向けることすら愚かで浅ましいことのように思える。彼女と家族になれるのなら、それ以上に幸せなことはない。
例え私たちの間柄に恋人という名前すら付けられなかったとしても、1番幸せでいてほしい人は、誰よりも笑顔にしたいと感じるのは彼女1人だけだ。こんな気持ちを教えてくれたオーロラに、いつも素敵な物語を運んできてくれる彼女に私はありがとうと伝えたかった。
持っていたお金を全て使って絵本を買った。感想はオーロラに会って直接伝えよう。それまでに声が元に戻っていればいいけれど、例えこのままだとしても伝える手段はある。
「アンは多くの女の子と一緒で完璧じゃないの。おかしな妄想をしたり癇癪を起こしたり、突拍子もない行動をする。すごく自分に似ていて共感できるのよ」
オーロラはそう言っていた。
「アンが住んでいた『プリンス・エドワード島』は凄く綺麗な島なのよ。まだ写真集でしか見たことがかいけれど、いつか行ってみたいわ」とも。
絵本のコーナーを眺めていたら、オーロラの『猫のカルメン』の並ぶ本棚の隣に、面出しされて並べられている絵本がある。作者はオーロラ・エルスワースで、『がんばっているあなたへ』というタイトルだった。表紙には子どもの描いたようなカラフルな女の子の顔が描いてある。
この絵に見覚えがあった。小学5年のとき、『友達の顔を描いてみよう!』という課題で私とオーロラは美術の時間に互いの顔を描いたのだ。そのときに描いてくれた絵を、大人になってから部屋の机の中から見つけた私はスマートフォンで写真に撮ってオーロラに送ったのだった。
そっと絵本を手に取って開く。
絵本の最初のページにはカラフルなサーカステントが描かれている。
次のページには赤鼻の女の子がカラフルなボールでジャグリングをしている。
それを黒い可愛らしい猫が客席に座って見守るように見つめている。
がんばっているあなたへ
あなたはいつも
好きなことに一生懸命で
まわりが見えなくなるくらい
一途な人です
だけどあなたのがんばりを
おおくのひとはしりません
だけど私は知っています
あなたがとおいどこかで
夢にむかって
せいいっぽい
がんばっていることを
あなたはいつも無理をして
心配しないでって言うけれど
あなたが傷ついていることくらい
私にはかんたんに分かってしまう
あなたはいつも私に
あたたかい言葉をくれる
明るい笑顔と勇気をくれる
だけど私があなたにあげられるものは
とても少ない
私はあなたがしあわせでいることを
お腹を空かしていないことを
誰かに傷つけられていないことを
願うことしかできない
がんばっているあなたへ
あなたが困ったときに
だれかに助けを求められるように
あなたがひとりで苦しむことのない
世界になるように
あなたが泣いているときに
この本がよりどころになるように
とおくから祈っています
しゃがみ込んで泣いている私に店員や客が訝しげな目を向ける。だがなりふり構ってなんかいられない。
オーロラは遠くから私を応援してくれていた。私が頑張っているのも苦労しているのも知っていて、絵本という形でメッセージをくれたのだ。私だけではない、誰にでも届くような言葉で。
これが全く関係のない誰かが書いたとして、こんなに胸がいっぱいになることはなかっただろう。やっぱり私はオーロラのことが好きだ。彼女から贈られた言葉でなければ、きっとこんなに人目を憚らず泣きじゃくることもなかっただろう。
もしもこの想いが届かなかったとしても、私が心から大切に想う人は彼女以外にいないだろう。
いつかオーロラと一緒にプリンス・エドワード島を訪れたい。彼女に会うことができたら自分の想いを真っ直ぐに伝えたい。この絵本の感想もお礼も、何一つ偽ることなんてしないで。
オーロラは以前ある女性と交際していたときに言っていた。「彼女と家族を作りたい」と。だがその美しい夢は相手の裏切りによって無惨にも打ち砕かれた。オーロラは絶望して泣いた。
もし私が彼女の恋人なら、彼女をあんなに深く傷つけはしないだろう。彼女以外の誰かに目を向けることすら愚かで浅ましいことのように思える。彼女と家族になれるのなら、それ以上に幸せなことはない。
例え私たちの間柄に恋人という名前すら付けられなかったとしても、1番幸せでいてほしい人は、誰よりも笑顔にしたいと感じるのは彼女1人だけだ。こんな気持ちを教えてくれたオーロラに、いつも素敵な物語を運んできてくれる彼女に私はありがとうと伝えたかった。
持っていたお金を全て使って絵本を買った。感想はオーロラに会って直接伝えよう。それまでに声が元に戻っていればいいけれど、例えこのままだとしても伝える手段はある。
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