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第3章〜新たな出発〜
第54話 一人旅
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ケニーからDVDが届いたのは、それから2日後のことだった。手紙も添えられていた。
『アヴィーへ
元気か?
君のお母さんから君が無事だと聞いて本当に安心した。
最近仕事にも慣れた。職場で仲の良い人もできた。だけどよくサーカスの仲間たちのことを思い出す。今もしょっちゅう夢に出てくるよ。彼らと旅した日々のこと、巡った世界のことを。あの1年間は僕の一番の宝物だ。
1人の旅は大変だろう? 心細くもなるだろうし、辛いこともあるだろう。何か困ったことがあったらいつでも連絡してくれよ。僕はいつだって君の味方だ。
そうそう、この間、君のお母さんが面白いものを見つけてきたんだ。君が5歳のときの映像だよ。送るからよかったら観てみてくれ』
ケニーの丁寧な字を見て懐かしい気持ちになった。ケニーがアルゼンチンで頑張っていると思うと、私も頑張れる気がした。
メルテムさんの家にデッキがあったので、DVDを観てみることにした。
テレビの電源を入れチャンネルを合わせ、ディスクをデッキに挿入する。砂嵐が数秒続いたあと、幼い私の姿が映し出される。当たり前だがとても小さい。髪をお団子にして、水色のワンピースを着てリビングのソファーにペンギンやクマ、ライオン、シャチなどのぬいぐるみを乗せている。
映像がたびたび揺れる。父の笑い声が大きく聴こえるから、撮影しているのは父だろう。隣から母の話す声も聴こえる。
私は動物たちの横に腰掛ける。そしておもちゃのマイクを手に、ハキハキとした口調で話し始める。
『こんばんは、みなさん。「アヴィーズ・ショー」のお時間です。今日はゆかいな動物たちとお届けします。おっと、ペンギンは鳥でしたね。失礼しました』
5歳児とは思えぬボキャブラリーと口ぶりだ。
小さな私は司会と動物のアフレコをこなしながらショーを進めていく。
マイクをペンギンに向け、『ペンギンさん、最近とてもショックなことがあったそうですね』と訊く。
『はい。実は、私を鳥じゃないっていじめるひとがいるんです』
『まぁ、ひどいですね。いじめているのはだれですか?』
私はペンギンの翼を手で操り一方向に向けさせ、『それは、シャチさんです』とアフレコする。そこで父から『「シャチは哺乳類だよ、魚じゃないよ」って言ってやれ!』とヤジが入り母の笑い声が響く。
『だそうですよ、シャチさん。どうですか?」
ミニアヴリルはマイクをシャチに向け、ガラガラ声に変えて『うるせぇ!! 俺は魚だ!! だって泳げるもんね!!』とシャチのぬいぐるみを動かして答える。
すると、『まぁまぁ、落ち着きなさい』とライオンが仲裁をする。
『魚だって鳥だって何だっていいじゃないか。皆仲間なんだから』
『でもライオンさん、昨日シマウマさんを食べようとしていたのはどうして?』と小さな私が尋ねる。
『うっ……それは生きるためさ!』とたじたじなライオン。雲行きが怪しくなってきたところで、「アヴリル、じゃあお歌を歌って終わりにしましょう」と母がフォローを入れる。
最後は『アニマル魂』という謎の歌を、私と両親と動物たちで合唱してショーが終わる。
DVDを観終えたメルテムさんは「なんて可愛らしいの」と感激していた。
「子どもは面白いことを考える天才だわ。とりわけあなたには生まれつきそういう才能があったのね」
子どもの頃の私も今の私も、誰かの笑顔を作るのが好きという部分では全く変わっていない。誰かの笑顔を見ることは心が安らぐ。明るい気持ちになる。例えそれがただのエゴだとか自分を慰めるための手段に過ぎないと言われようとも、尊い想いに変わりはないのだ。
『アヴィーへ
元気か?
君のお母さんから君が無事だと聞いて本当に安心した。
最近仕事にも慣れた。職場で仲の良い人もできた。だけどよくサーカスの仲間たちのことを思い出す。今もしょっちゅう夢に出てくるよ。彼らと旅した日々のこと、巡った世界のことを。あの1年間は僕の一番の宝物だ。
1人の旅は大変だろう? 心細くもなるだろうし、辛いこともあるだろう。何か困ったことがあったらいつでも連絡してくれよ。僕はいつだって君の味方だ。
そうそう、この間、君のお母さんが面白いものを見つけてきたんだ。君が5歳のときの映像だよ。送るからよかったら観てみてくれ』
ケニーの丁寧な字を見て懐かしい気持ちになった。ケニーがアルゼンチンで頑張っていると思うと、私も頑張れる気がした。
メルテムさんの家にデッキがあったので、DVDを観てみることにした。
テレビの電源を入れチャンネルを合わせ、ディスクをデッキに挿入する。砂嵐が数秒続いたあと、幼い私の姿が映し出される。当たり前だがとても小さい。髪をお団子にして、水色のワンピースを着てリビングのソファーにペンギンやクマ、ライオン、シャチなどのぬいぐるみを乗せている。
映像がたびたび揺れる。父の笑い声が大きく聴こえるから、撮影しているのは父だろう。隣から母の話す声も聴こえる。
私は動物たちの横に腰掛ける。そしておもちゃのマイクを手に、ハキハキとした口調で話し始める。
『こんばんは、みなさん。「アヴィーズ・ショー」のお時間です。今日はゆかいな動物たちとお届けします。おっと、ペンギンは鳥でしたね。失礼しました』
5歳児とは思えぬボキャブラリーと口ぶりだ。
小さな私は司会と動物のアフレコをこなしながらショーを進めていく。
マイクをペンギンに向け、『ペンギンさん、最近とてもショックなことがあったそうですね』と訊く。
『はい。実は、私を鳥じゃないっていじめるひとがいるんです』
『まぁ、ひどいですね。いじめているのはだれですか?』
私はペンギンの翼を手で操り一方向に向けさせ、『それは、シャチさんです』とアフレコする。そこで父から『「シャチは哺乳類だよ、魚じゃないよ」って言ってやれ!』とヤジが入り母の笑い声が響く。
『だそうですよ、シャチさん。どうですか?」
ミニアヴリルはマイクをシャチに向け、ガラガラ声に変えて『うるせぇ!! 俺は魚だ!! だって泳げるもんね!!』とシャチのぬいぐるみを動かして答える。
すると、『まぁまぁ、落ち着きなさい』とライオンが仲裁をする。
『魚だって鳥だって何だっていいじゃないか。皆仲間なんだから』
『でもライオンさん、昨日シマウマさんを食べようとしていたのはどうして?』と小さな私が尋ねる。
『うっ……それは生きるためさ!』とたじたじなライオン。雲行きが怪しくなってきたところで、「アヴリル、じゃあお歌を歌って終わりにしましょう」と母がフォローを入れる。
最後は『アニマル魂』という謎の歌を、私と両親と動物たちで合唱してショーが終わる。
DVDを観終えたメルテムさんは「なんて可愛らしいの」と感激していた。
「子どもは面白いことを考える天才だわ。とりわけあなたには生まれつきそういう才能があったのね」
子どもの頃の私も今の私も、誰かの笑顔を作るのが好きという部分では全く変わっていない。誰かの笑顔を見ることは心が安らぐ。明るい気持ちになる。例えそれがただのエゴだとか自分を慰めるための手段に過ぎないと言われようとも、尊い想いに変わりはないのだ。
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