ライオンガール

たらこ飴

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第3章〜新たな出発〜

クラウンアヴリル③

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 夜遅くまで脚本を書いて、次の日の朝再び公園で披露した。

 抽象的であるが、これまで私が経験したことを表現しようと思った。

『パントマイム始まるよ!』と書いたノートを持って立っていたら、幼い女の子と両親の親子連れ、腰の曲がった老人、出勤前のサラリーマンが集まってきた。

 地面に片膝をつき鉄砲を撃つ真似をしたあと、場所を移動し、怯えた表情を作り慌てて走って逃げる動作をする。1人2役だ。

 次に両腕をL字に曲げて両手の指先を伸ばし、円を描くように動かす。そうして歩くことで列車の走る真似をする。子どものような表現だが、観ている人には通じるだろう。

 やがて左から走って行き、両手で列車の梯子を交互に掴んで脚を高く上げて動かして上る動作をする。

 再び走る列車の振りをする。

 クスクスと子どもの笑い声が聴こえる。

 箒を動かして床を履く動作で掃除を表現する。

 次に両腕を使いドラム缶を胸に抱くような円形を作ってみせたあと、右手で空気をかき混ぜるように大きな円を描いてみせ、回る洗濯機を表現した。今度は横に移動して洗濯機に服を放り投げる仕草をする。ほとんど素人のマイムだが、皆真剣に観ている。

 今度はまた2役で、右手の人差し指を立てて激しく動かし、1人の人間が誰かを怒っている様子を表現する。そのあと反対側に立ち怒られて項垂れる人になりきる。

 やがて相手の男が鞭を振り下ろす。もう1人の人ーー私が地面に倒れる。涙を手で拭う仕草をする。

 10秒ほどの沈黙。サーカスリングに立っているつもりでジャグリングや傘回しをジェスチャーだけで披露したあと、左右の客席に向かって手を振り礼をする。

 マイムが終わったとき、パチパチパチパチとサラリーマンが手を叩いた。老人と親子連れも拍手を送ってくれた。サラリーマンと親子連れの女性の方が、地面に逆さにして置いたベースボールキャップの中にお金を入れてくれた。

 夕方まで噴水前に立ち続け、稼いだ額は250トルコリラ(円に換算すると約1200円)だった。

 イスタンブールの図書館でパソコンを借り、自分のパソコン用のメールアドレスからイスラエルのキッズサーカスのメールアドレス宛てにメールを送った。キーボード長い間触れていないために打鍵が死ぬほど遅くなっていて、1通のメールを完成させるまでに以前より倍の時間がかかってしまった。

『アンジェラへ

 この間はありがとう。

 実はあなたに話したいことがあるの。イスラエルで怪我をした私を助けてくれた男の人がいた。その人があなたの恋人だったミハイルだってあとから分かったの。

 彼はあなたとのことを詳細に話してくれたわ。まだあなたのことを愛しているみたいだったけれど、会いに行く資格はないと思っているみたいだった。

 もし彼があなたのところに行っていたら教えてほしい。実は彼が私の荷物を持って逃げてしまって、その中に凄く大切なものが入っていた。どうしても彼に返してもらいの。

 よろしくね。

            アヴリル』
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