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第3章〜新たな出発〜
アフリカ⑩
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タネルは3週間かけて私をトルコのイスタンブールまで車で送ってくれた。
1月末の冷たい風が吹き付ける巨大な市場は、生き生きとした客引きの声と観光客の声で賑わっている。
店先に並んだ大きな透明な箱に入ったいろんな種類のグミが大量に並ぶ店や、色とりどりの模様の絨毯を売る店、大量のトルコランプが天井に飾られた店もある。お香を売る店から植物とも石鹸ともいえない不思議な匂いが漂ってくる。
タネルは何も欲しいものはないかと私に聞いたが、お腹が空いたとだけ答えた。朝食はパンを食べたけれどあまり量が食べられなかったから、とにかく空腹だった。
オープンテラスのトルコ料理のレストランに入って、レジでチキン料理とチャイティーを注文したあと、飲み物やデザートまで頼んだら「いい加減にしろ」と怒られた。
「これからどうする?」
料理を美味しくなさそうに食べながらタネルは言った。前に彼に『不味そうに食べるね』と聞いたら「そういう顔なんだ」と答えていた。
『野宿でもしながらロンドンまで行く』と答えると、タネルは驚いたように顔を顰めた。
「馬鹿言うな。若い女が野宿だなんて襲われに行くようなもんだ」
『何とかなるっしょ、これまでもそうだったし』
「これからもそうとは言えない。気をつけるんだな」
タネルにこれからどこに行くのかと私は尋ねなかった。アンジェラに会いに行くのかもしれないと思っていた。だからここで私と別れるのだろうと。
「とにかく野宿だけはやめろ。誰か信用できそうな人間の家に泊めてもらうかモーテルを探せ」
『へいへい、分かったよ』
間もなく運ばれてきた料理を貪るように食べた。デザートのアイスクリームまで平らげた。
そういえば小学生のとき、夏休みになるとオーロラとよく公園に来るアイスクリーム屋さんでアイスクリームを1つお金を出し合って買って、2人で代わりばんこに舐めたっけ。一度クリスティが来て取られちゃって、オーロラが本気で怒ってたな。
オーロラはたまに怒ると凄く怖かった。私はそんなに本気で怒られたことはないけれど、私が悪い方向に行きそうになると一番最初に注意をしてくれるのはオーロラだった。私たちはお互いにとってちょうどいい距離で関わっていた。もしオーロラに会えて時間を作れたら2人で旅行に行こう。今まで私が見てきた、そしてこれから見る世界の景色を彼女にも見せたいと思った。
タネルはアイスクリームを食べる私を神妙な顔で見ていた。
何でこの人はこんなに私の世話をしてくれるんだろうと途中で何度も不思議に思った。見ず知らずの女を手当てして旅に道連れにしてくれ、こうしてご飯もご馳走してくれている。自分で思うよりよほど良い人なのだろう。
『何で私を助けてくれたの?』
私は訊いた。タネルはわずかに笑ったみたいに見えた。
「お前は何となく若い頃の俺に似てる気がしてな。大きな理想を持って、何かの目的に向かってまっしぐらに進む。だから傷つく。世の中の本当を知ってな」
ここ数ヶ月の私の心理状態を目の前の男はいとも簡単に当ててしまった。
『あなた霊媒師か何か?』
「基本的に占いは信じねぇ、あーゆうのは金儲けのためのインチキさ」
『そうとも限らないと思うわ』
「中には本物もいるかもしれないが、ほんの一握りだ」
タネルは『会計をしてくる』と席を立ち、私はタネルに今日教わったことをノートにまとめた。
1月末の冷たい風が吹き付ける巨大な市場は、生き生きとした客引きの声と観光客の声で賑わっている。
店先に並んだ大きな透明な箱に入ったいろんな種類のグミが大量に並ぶ店や、色とりどりの模様の絨毯を売る店、大量のトルコランプが天井に飾られた店もある。お香を売る店から植物とも石鹸ともいえない不思議な匂いが漂ってくる。
タネルは何も欲しいものはないかと私に聞いたが、お腹が空いたとだけ答えた。朝食はパンを食べたけれどあまり量が食べられなかったから、とにかく空腹だった。
オープンテラスのトルコ料理のレストランに入って、レジでチキン料理とチャイティーを注文したあと、飲み物やデザートまで頼んだら「いい加減にしろ」と怒られた。
「これからどうする?」
料理を美味しくなさそうに食べながらタネルは言った。前に彼に『不味そうに食べるね』と聞いたら「そういう顔なんだ」と答えていた。
『野宿でもしながらロンドンまで行く』と答えると、タネルは驚いたように顔を顰めた。
「馬鹿言うな。若い女が野宿だなんて襲われに行くようなもんだ」
『何とかなるっしょ、これまでもそうだったし』
「これからもそうとは言えない。気をつけるんだな」
タネルにこれからどこに行くのかと私は尋ねなかった。アンジェラに会いに行くのかもしれないと思っていた。だからここで私と別れるのだろうと。
「とにかく野宿だけはやめろ。誰か信用できそうな人間の家に泊めてもらうかモーテルを探せ」
『へいへい、分かったよ』
間もなく運ばれてきた料理を貪るように食べた。デザートのアイスクリームまで平らげた。
そういえば小学生のとき、夏休みになるとオーロラとよく公園に来るアイスクリーム屋さんでアイスクリームを1つお金を出し合って買って、2人で代わりばんこに舐めたっけ。一度クリスティが来て取られちゃって、オーロラが本気で怒ってたな。
オーロラはたまに怒ると凄く怖かった。私はそんなに本気で怒られたことはないけれど、私が悪い方向に行きそうになると一番最初に注意をしてくれるのはオーロラだった。私たちはお互いにとってちょうどいい距離で関わっていた。もしオーロラに会えて時間を作れたら2人で旅行に行こう。今まで私が見てきた、そしてこれから見る世界の景色を彼女にも見せたいと思った。
タネルはアイスクリームを食べる私を神妙な顔で見ていた。
何でこの人はこんなに私の世話をしてくれるんだろうと途中で何度も不思議に思った。見ず知らずの女を手当てして旅に道連れにしてくれ、こうしてご飯もご馳走してくれている。自分で思うよりよほど良い人なのだろう。
『何で私を助けてくれたの?』
私は訊いた。タネルはわずかに笑ったみたいに見えた。
「お前は何となく若い頃の俺に似てる気がしてな。大きな理想を持って、何かの目的に向かってまっしぐらに進む。だから傷つく。世の中の本当を知ってな」
ここ数ヶ月の私の心理状態を目の前の男はいとも簡単に当ててしまった。
『あなた霊媒師か何か?』
「基本的に占いは信じねぇ、あーゆうのは金儲けのためのインチキさ」
『そうとも限らないと思うわ』
「中には本物もいるかもしれないが、ほんの一握りだ」
タネルは『会計をしてくる』と席を立ち、私はタネルに今日教わったことをノートにまとめた。
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