ライオンガール

たらこ飴

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第3章〜新たな出発〜

アフリカ③

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 翌朝早くから街へ繰り出した。薄茶けた建物が立ち並ぶ、雑然とした街並みはイメージ通りだ。

 見たことのない緑色の謎のフルーツを大きな箱に並べ売っている男の人もいる。

 スカーフのようなものを顔の周りに巻いた女性たちが通り過ぎていく。

 あちこちに物売りがいて声をかけられるが、タネルは無視して歩いていく。

 私の希望で街のジャグリング専門店に入った。店内には自分でカスタマイズできるディアボロの部品や、様々な種類のジャグリングボール、クラブなどが置いてあった。デビルスティックと呼ばれるものもあった。手品用のハットやマント、タキシードなどの衣装も。見ていると全然飽きなくて、ここで一晩泊まれそうだと思ったほどだ。タネルも真剣な眼差しで店内を物色していた。そうしてかれこれ2時間ほど居座った。

 店を出たあとエジプトの名物料理が食べられるというレストランに立ち寄った。タネルに勧められて食べたのはクシャリという料理だった。米にマカロニとトマトソースとひよこ豆、フライドオニオンを混ぜたそれはシドニーでは食べないような代物だった。タネルはあまり好きではないと言ったが、私は嫌いじゃない。

 タネルにリュックに入っていたクラウンをしていたときの写真を観せたら、「何じゃこりゃ」と大爆笑していた。こんなに腹を抱えて笑われるなんて。しかも可笑しくて笑っているというより完全に馬鹿にしている笑いだった。一気に気持ちが萎んだ。

「この白塗りメイクはやめた方がいいな、自分の良さが出てこない」

『伯父には素顔の方がいいと言われたの』

「ノーメイクのクラウンか。新鮮でいいかもな。あのメイクは酷い、もう辞めることだ」

 散々こき落とされておいてまたあの白塗りメイクをするつもりはないけれど、せめて赤い鼻を買ってクラウンっぽさは出しておきたい。ルーファスが赤鼻をつけているのを見るたびに可愛いくて羨ましいと感じていたのだ。ルーファスは実際赤鼻がよく似合った。彼は元気にしているだろうか。

 レストランを出た後は20キロほど離れたギザという街に向かった。

 車で向かっているときから既に建物の間から砂漠にある巨大ピラミッドが見えた。

 街の路肩にはぎっしりと車が停められていて、縦列駐車している車の隣に縦列駐車するなど、とんでもない停め方をしている車もざらにある。 

 呆然としていると「こんな場所、世界にはいくらでもあるぜ」とタネルが言った。

 交通量はそれほど多くはないが横断歩道が少ないため、道路を渡ろうとするたびに車に轢かれかけた。

 最初は2人で古代史博物館を訪れた。「大して面白くもないな」と言いながら、タネルは入り口付近にあるびっしりと象形文字が彫られた大きな長方形の石を見つめていた。象形文字ってよくわからないけれど、勉強したら面白そうだ。多分しないけど。

 ミイラの展示なんかも観たあと、ギザのピラミッドを見るために早々に引き上げた。

 ピラミッドは市街地からあまり離れていない砂漠の中にあった。着くまでに現地の人に何度も馬やラクダに乗っていかないかと声をかけられたが、チップ目的だとタネルが教えてくれた。

 この超巨大ピラミッドは、紀元前2500年ごろの古代エジプト第四王朝の王であるクフ王の墓といわれているらしい。高さは約140メートル。こんな高いピラミッドを当時の人たちは人力だけで建てたんだから、すごいとしかいいようがない。

 すぐそばには巨大なスフィンクスの彫像が建っていた。

「相変わらずでかいな」とタネルは呟いた。何度か観ているために全く興味がないのが透け透けで、何のために来たのだろうという気持ちになる。私を楽しませようと思ったのか、とりあえず行ってみようという気持ちだったのか。
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