ライオンガール

たらこ飴

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第3章〜新たな出発〜

第50話 アフリカ

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 タネルはパントマイムや大道芸をしながら世界を旅しているのだという。

「車で一人旅をするのも悪くない。俺はそういう生き方が合ってるんだな」

 1人の時間も大切にしたい。でも誰かと一緒もいい。サーカス列車で暮らしていたときによく抱いた気持ちだった。1人で音楽を聴いたり本を読んだりして自分の世界に浸るのも好きだけれど、1人の時間が長すぎると孤独を感じる。そんなときサーカスの団員たちはごく自然に私を仲間に入れてくれた。男性が女性か、どんな過去のある人間かなんて関係なく、まるで元からそこにいたかのように。

 この1年半以上もの間ショーと生活が表裏一体に存在している場所で仲間たちと切磋琢磨し合い、くだらない話をして笑ったり助け合ったりした。夢を見つけ、目標に向かってひたすらに努力し続けた。私の全てだった世界がなくなった今、漠然とした虚しさに襲われている。

 タネルの車がエジプトの国境を越え砂漠を走り始めたとき、私はノートにあることを書いた。

『パントマイムをどこで覚えたの?』

「若い頃一人で世界を旅してたときに、アルゼンチンのスラムに住んでるじいさんから教わった。そのじいさんは片目が悪くて言葉も話せなかったが、身振り手振りで物を伝えるのが上手くてな」

 片目が悪いスラムの老人。

 もしかしてーー。

『その人、ペネムって名前じゃなかった?』

 タネルは驚いたようにチラリと私に目を向けた。

「なんであのジジイを知ってる?」

『アルゼンチンに住んでた頃、スラムで会ったの。物売りをしてたわ』

「ロクな奴じゃなかったろ?」と問われて『まぁね、1枚のCDに2万ペソもぼったくられたし』と書いたらタネルはふっと笑った。初めて彼の笑顔を見た。

「嫌なジジイだが、マイムの腕だけは確かだった」

『私にマイムを教えて』

「嫌だね」

『どうして?』

「人に教えんのには向いてねぇんだ」

『下手でもいいから教えてよ』

「そのうちな」

 パントマイムなら尚更、言葉が喋れなくてもできる。タネルがイスラエルの診療所の地下で披露したマイムのように人々に感動を与えられるなら、習得しない理由はない。
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