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第2章〜クラウンへの道〜
消えた手紙とマフィン⑤
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翌日、ケニーをシドニーの空港まで見送りに行った。シドニーの4月は秋だ。今日のケニーは水色の半袖シャツにベージュのパンツを履いている。前よりも痩せたけれど、優しい笑顔のつぶらな目は彼のままだ。
「ママに私は夢を見つけて元気でやってるって伝えておいて。オーロラにも……」
「ああ、もちろん伝えるよ。任せておけ」
ケニーは私の頭をぽんぽんと撫でた。幼い頃から今まで、彼の温かさにどれだけ救われたことだろう。
「あなたを巻き込んで本当にごめん。大変な思いをさせてごめん。ここまでついてきてくれてありがとう」
「いいんだよ、僕だって後悔してない。お陰で一歩踏み出す勇気が出たんだ。君がいなけりゃ、部屋にこもってゲームばかりする人生だったよ。ここでサーカスのみんなに出会えて毎日大変だったけど同じくらい楽しかった。それに、僕でも働くことができるって分かった。まだまだ弱々だけどな」
寂しさで言葉に詰まった私に向かってケニーはニコリと笑った。
「アヴィー、君は強くなったよ。もう僕がいなくても平気だ。以前、僕はこのまま1人で寂しく死ぬんだと思ってた。だけどサーカス団に入ってそんな絶望は綺麗さっぱり消えたよ。僕には君がいて皆がいる。離れていても、いつも世界のどこかでお互いを気にかけて応援できる仲間が。何より自信がついた。自分には何もないと思っていたけど、僕にもできることがあると分かった」
「あなたも強くなったわ。きっと大丈夫、あなたなら世界一面白いゲームが作れる」
ケニーは私を抱きしめた。あまりに温かい体温だった。涙が抑えきれなかった。
「じゃあアヴィー、元気でな」
ケニーは目に涙を溜めて微笑んだ。
「うん、元気で」
ケニーの背中が遠くなっていく。何度も振り返るケニーの顔が涙で滲んで見えなかった。その姿が小さくなって搭乗口へと急ぐ人混みに消えて行くと、私は涙を拭って歩き出した。
「ママに私は夢を見つけて元気でやってるって伝えておいて。オーロラにも……」
「ああ、もちろん伝えるよ。任せておけ」
ケニーは私の頭をぽんぽんと撫でた。幼い頃から今まで、彼の温かさにどれだけ救われたことだろう。
「あなたを巻き込んで本当にごめん。大変な思いをさせてごめん。ここまでついてきてくれてありがとう」
「いいんだよ、僕だって後悔してない。お陰で一歩踏み出す勇気が出たんだ。君がいなけりゃ、部屋にこもってゲームばかりする人生だったよ。ここでサーカスのみんなに出会えて毎日大変だったけど同じくらい楽しかった。それに、僕でも働くことができるって分かった。まだまだ弱々だけどな」
寂しさで言葉に詰まった私に向かってケニーはニコリと笑った。
「アヴィー、君は強くなったよ。もう僕がいなくても平気だ。以前、僕はこのまま1人で寂しく死ぬんだと思ってた。だけどサーカス団に入ってそんな絶望は綺麗さっぱり消えたよ。僕には君がいて皆がいる。離れていても、いつも世界のどこかでお互いを気にかけて応援できる仲間が。何より自信がついた。自分には何もないと思っていたけど、僕にもできることがあると分かった」
「あなたも強くなったわ。きっと大丈夫、あなたなら世界一面白いゲームが作れる」
ケニーは私を抱きしめた。あまりに温かい体温だった。涙が抑えきれなかった。
「じゃあアヴィー、元気でな」
ケニーは目に涙を溜めて微笑んだ。
「うん、元気で」
ケニーの背中が遠くなっていく。何度も振り返るケニーの顔が涙で滲んで見えなかった。その姿が小さくなって搭乗口へと急ぐ人混みに消えて行くと、私は涙を拭って歩き出した。
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