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第2章〜クラウンへの道〜
別れ⑥
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午後は綱渡り練習のあとピアジェに罵倒されながら筋トレのノルマをこなした。ルチアが見学しているからか、ホクに鞭を壊されたからか。今日のピアジェは比較的大人しく、得意の鞭も使わなかった。
自主練ではジャグリング練習のあとクラウンウォークで登場からハロー、退場までの動きを色んなバリエーションをつけてやってみた。場越し作業のために全身が筋肉痛だったが、弱音など吐いていられない。
何度か繰り返しているうちネタ切れしてしまった。お辞儀をして微笑む、楽器演奏、日本舞踊ーー。どんな動きを試しても、果たしてこれは観客の興味を引くものだろうかと疑問が生まれてしまう。
悩んでいたところ、ジュリエッタがドアを開けて手招きをした。
彼女に続いてクローゼットに向かうと、なんと衣装が着せられたマネキンがあるではないか。灰色の着物の上にこの間の赤い羽織を着て、下は黒の袴、足袋と下駄まである。思い描いていた詩の和風で中性的、気高い雰囲気によくマッチする。
「ジュリエッタ、これは……」
「ふふ、公演の合間に露店で布をかき集めて作ったのよ。和服を仕立てたことなんてなかったんだけど、パソコン借りてYouTube観て作ったわ」
そういえばジュリエッタは公演が終わったあとも夜遅くまでサーカステントの控え室に残り、秘密で何か作業をしていた。彼女も練習やら公園で忙しいのに、この10日ほどの間にこんな素敵な衣装を作ってくれていただなんて。和服を仕立てるのはただでさえも繊細で根気の要る作業のはずだ。経験したことがなくても分かる。彼女の腕前に舌を巻くとともに、思いやりに深く感謝した。
「ジュリエッタ、君は本当にすごいよ。お礼は必ず……」
「いいのよ」とジュリエッタはとんでもないという風に首を振った。
「あなたが喜んでくれることと、これを着てショーに出てくれるのが1番のお礼だから」
彼女の真心を肌で感じ、じんわり胸に温かいものが広がる。彼女の気持ちを無駄にしないために精一杯頑張らないといけない。教えてくれたルーファスや、これまでたくさん支えてくれた仲間のためにも。
衣装を身に纏いベレー帽も被って鏡に映す。花火の柄の臙脂色の羽織、灰色の着物と烏の羽を思わせる漆黒の袴、化粧と衣装の雰囲気もイメージ通りだ。髪が短いのおかげもあり、女性にも見えるし男性にも見える。高貴で華麗で、だが掴めない謎めいた空気感が気に入った。
「やっぱり似合うわ~、綺麗すぎる!!」
ジュリエッタが興奮して仲間たちを連れてきた。ジャンは「似合う、すげー似合う!!」と騒ぎ立てカメラを持ってきて写真を撮り始め、シンディは「わぁ、素敵!! 私も着てみたい!!」と感激していた。アルフレッドは「ああ、目の保養だ」と微笑み、肩の上のコリンズは誰だこいつとでもいうような不審な目を向けてくる。ホタルは「これ私が着るより似合うわ」と言った。
メイクをして衣装を纏って練習すると、とても雰囲気が出る。下駄で歩くのはかなり難しいけれど。
「みんな、ちょっと観ていてくれない?」
「いいわよ」
ここがリングのつもりで、クラウンの詩になったつもりでツンと澄まして歩いてきて正面を向く。お辞儀をして小さく微笑む。
「サマになってんな!」というジャンの声が聞こえ、「シッ、静かにしなさい!」とジュリエッタが注意した。
披露したのは三味線の『さくら』だった。ただ出鱈目に演奏して礼をしてもそれなりにウケたが、「これ、ある程度ちゃんと弾いた方が面白いぞ」というジャンのアドバイスにより、微妙に高音を外して弾いてみたらそっちのほうがウケが良かった。仲間からの客観的なアドバイスは役立つ。
「しかし、こんなに変わるんだな。最初誰だか分かんなかったよ」
アルフレッドが言った。
「いいわね、着物。私もジュリーにお金払って作ってもらおうかしら」とシンディは真顔で言った。
「いいわよ、ご飯奢ってくれれば」とジュリエッタが答え、「じゃあ俺にも作ってくれよ!」とジャンが言って返事も聞かずに紙に下手くそなオカメの顔を描いた。
「これ、この柄がいいんだ!」
その顔があまりに不格好すぎてシンディとジュリエッタは大爆笑し、ホタルに「福笑いに失敗したみたいね」と呆れられていた。が、当のジャンは大真面目で笑われている理由が分からないみたいだった。
「僕は河童柄がいいな。皆で和装で出るっていうのもいいんじゃないか?」アルフレッドが面白い提案をし、周りの皆が「いいね、やろう!」と賛同した。
「大神楽みたいになりそう」
ホタルがつぶやいた。
皆和装のサーカス。何だかすごく華やかで楽しそうだな。
自主練ではジャグリング練習のあとクラウンウォークで登場からハロー、退場までの動きを色んなバリエーションをつけてやってみた。場越し作業のために全身が筋肉痛だったが、弱音など吐いていられない。
何度か繰り返しているうちネタ切れしてしまった。お辞儀をして微笑む、楽器演奏、日本舞踊ーー。どんな動きを試しても、果たしてこれは観客の興味を引くものだろうかと疑問が生まれてしまう。
悩んでいたところ、ジュリエッタがドアを開けて手招きをした。
彼女に続いてクローゼットに向かうと、なんと衣装が着せられたマネキンがあるではないか。灰色の着物の上にこの間の赤い羽織を着て、下は黒の袴、足袋と下駄まである。思い描いていた詩の和風で中性的、気高い雰囲気によくマッチする。
「ジュリエッタ、これは……」
「ふふ、公演の合間に露店で布をかき集めて作ったのよ。和服を仕立てたことなんてなかったんだけど、パソコン借りてYouTube観て作ったわ」
そういえばジュリエッタは公演が終わったあとも夜遅くまでサーカステントの控え室に残り、秘密で何か作業をしていた。彼女も練習やら公園で忙しいのに、この10日ほどの間にこんな素敵な衣装を作ってくれていただなんて。和服を仕立てるのはただでさえも繊細で根気の要る作業のはずだ。経験したことがなくても分かる。彼女の腕前に舌を巻くとともに、思いやりに深く感謝した。
「ジュリエッタ、君は本当にすごいよ。お礼は必ず……」
「いいのよ」とジュリエッタはとんでもないという風に首を振った。
「あなたが喜んでくれることと、これを着てショーに出てくれるのが1番のお礼だから」
彼女の真心を肌で感じ、じんわり胸に温かいものが広がる。彼女の気持ちを無駄にしないために精一杯頑張らないといけない。教えてくれたルーファスや、これまでたくさん支えてくれた仲間のためにも。
衣装を身に纏いベレー帽も被って鏡に映す。花火の柄の臙脂色の羽織、灰色の着物と烏の羽を思わせる漆黒の袴、化粧と衣装の雰囲気もイメージ通りだ。髪が短いのおかげもあり、女性にも見えるし男性にも見える。高貴で華麗で、だが掴めない謎めいた空気感が気に入った。
「やっぱり似合うわ~、綺麗すぎる!!」
ジュリエッタが興奮して仲間たちを連れてきた。ジャンは「似合う、すげー似合う!!」と騒ぎ立てカメラを持ってきて写真を撮り始め、シンディは「わぁ、素敵!! 私も着てみたい!!」と感激していた。アルフレッドは「ああ、目の保養だ」と微笑み、肩の上のコリンズは誰だこいつとでもいうような不審な目を向けてくる。ホタルは「これ私が着るより似合うわ」と言った。
メイクをして衣装を纏って練習すると、とても雰囲気が出る。下駄で歩くのはかなり難しいけれど。
「みんな、ちょっと観ていてくれない?」
「いいわよ」
ここがリングのつもりで、クラウンの詩になったつもりでツンと澄まして歩いてきて正面を向く。お辞儀をして小さく微笑む。
「サマになってんな!」というジャンの声が聞こえ、「シッ、静かにしなさい!」とジュリエッタが注意した。
披露したのは三味線の『さくら』だった。ただ出鱈目に演奏して礼をしてもそれなりにウケたが、「これ、ある程度ちゃんと弾いた方が面白いぞ」というジャンのアドバイスにより、微妙に高音を外して弾いてみたらそっちのほうがウケが良かった。仲間からの客観的なアドバイスは役立つ。
「しかし、こんなに変わるんだな。最初誰だか分かんなかったよ」
アルフレッドが言った。
「いいわね、着物。私もジュリーにお金払って作ってもらおうかしら」とシンディは真顔で言った。
「いいわよ、ご飯奢ってくれれば」とジュリエッタが答え、「じゃあ俺にも作ってくれよ!」とジャンが言って返事も聞かずに紙に下手くそなオカメの顔を描いた。
「これ、この柄がいいんだ!」
その顔があまりに不格好すぎてシンディとジュリエッタは大爆笑し、ホタルに「福笑いに失敗したみたいね」と呆れられていた。が、当のジャンは大真面目で笑われている理由が分からないみたいだった。
「僕は河童柄がいいな。皆で和装で出るっていうのもいいんじゃないか?」アルフレッドが面白い提案をし、周りの皆が「いいね、やろう!」と賛同した。
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ホタルがつぶやいた。
皆和装のサーカス。何だかすごく華やかで楽しそうだな。
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