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第2章〜クラウンへの道〜
別れ④
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リマの公演が終わり、観光の合間に市場で母にプレゼントを買った。高いものじゃなく、普段使いできるような猫の髪留めだが。
昨日母に書いた手紙を読み返す。
『ママへ
手紙無事に届いたかしら?
今ボリビアのスクレにいるわ。ケニーも一緒よ。現地での公演がちょうど終わったところ。
私ね、サーカスでクラウンを演じることになったの。衣装も少しずつ決まって、これから楽しくなりそう。会場の引越し作業はキツイし練習は毎日大変だけど、楽しくて素敵な仲間たちに囲まれて充実してるわ。
今まで沢山心配かけてごめんなさい。あと、ずっと期待に応えられなくてごめん。私は駄目な娘だったけど、今は自分のやりたいことを見つけられた。人を笑わせるのが好きなんだって気づいた。誰かを笑顔にしたいって思うことは、すごく幸せなことだって仲間が教えてくれたの。ママにもいつかショーを見せてあげたい。きっと感動すると思うから。
ママとパパが離婚したのは辛かったけど、2人なりの事情があったと思うし、ママも沢山苦しんだのを知ってる。2人には幸せになってほしい。
ママはずっと自分の人生に後悔してるみたいだった。私もそうよ。ここに来る前はずっと人生に退屈してて、もっと別の道があったかもなんて思ってた。視野が狭くて見えるはずのものを見落としてたんだって今になると分かる。すぐ近くの目に見える世界しか見えてなかったんだと。
ママも私みたいにもっと外に出て世界を見て、いろんな人と出会って。きっと考えが変わるはず。いつからでも人生はやり直せるわ。
遠くから幸せを願ってる。
アヴリル』
郵便局から手紙とプレゼントを一緒に送り一息ついたので、列車に戻ってトレーニングルームでジャグリングの練習をした。ジェロニモも来たので教えてもらいながら一緒にやった。彼は今度のエクアドルのグアヤキル公演でデビューなのだという。
「めちゃくちゃ緊張するよ、上手くできるかな」
「大丈夫だよ、君なら。今まで沢山練習してきたじゃないか」
「リングに立つのは夢だった。俺は人より覚えが悪くてさ、ピアジェに下手くそとか、まだショーに出せないって散々言われたよ。辞めたくもなった」
「僕からしたら十分上手いけどな」
ジェロニモで下手くそというのなら、私などミジンコのフンのようなものだ。
「ピアジェはランク付けが得意なんだ。アイツはAランク、こいつはFで自分より格下とかさ。ショーに出るにはBやCじゃ駄目だ。AやS、SSランクくらいにスキルが付かないと出さない。お陰で俺は1年間も雑用ばっかやらされたよ」
「君で1年かかったんなら、僕はまだまだ出られそうにないな」
「それはどうかな」とジェロニモは顎に拳を当てた。
「ジャグラーは他にもいるからいいけど、このサーカスにはショーに出られるクラウンがいない。お客さんからも公演のあと『このサーカスにクラウンはいないの?』ってよく聞かれるんだ。『クラウンがいないサーカスなんて、面白くない!』って言う子どももいる。ピアジェの本音としては早くお前を出したいはずだ。お前のスキルがある程度育ちさえすればな」
遥か彼方に見えていたデビューが、頑張り次第では早まる可能性もあることを知って俄然やる気が出た。
「よし、早くデビューできるように技を磨くぞ!」
ジェロニモも「負けるもんか!」と続いた。結局2人で夜まで練習に明け暮れた。何時間も練習していたおかげで、習得できなかったハーフシャワーやテニス、オーバーヘッドという3ボールの基本技がいくつもできるようになった。
昨日母に書いた手紙を読み返す。
『ママへ
手紙無事に届いたかしら?
今ボリビアのスクレにいるわ。ケニーも一緒よ。現地での公演がちょうど終わったところ。
私ね、サーカスでクラウンを演じることになったの。衣装も少しずつ決まって、これから楽しくなりそう。会場の引越し作業はキツイし練習は毎日大変だけど、楽しくて素敵な仲間たちに囲まれて充実してるわ。
今まで沢山心配かけてごめんなさい。あと、ずっと期待に応えられなくてごめん。私は駄目な娘だったけど、今は自分のやりたいことを見つけられた。人を笑わせるのが好きなんだって気づいた。誰かを笑顔にしたいって思うことは、すごく幸せなことだって仲間が教えてくれたの。ママにもいつかショーを見せてあげたい。きっと感動すると思うから。
ママとパパが離婚したのは辛かったけど、2人なりの事情があったと思うし、ママも沢山苦しんだのを知ってる。2人には幸せになってほしい。
ママはずっと自分の人生に後悔してるみたいだった。私もそうよ。ここに来る前はずっと人生に退屈してて、もっと別の道があったかもなんて思ってた。視野が狭くて見えるはずのものを見落としてたんだって今になると分かる。すぐ近くの目に見える世界しか見えてなかったんだと。
ママも私みたいにもっと外に出て世界を見て、いろんな人と出会って。きっと考えが変わるはず。いつからでも人生はやり直せるわ。
遠くから幸せを願ってる。
アヴリル』
郵便局から手紙とプレゼントを一緒に送り一息ついたので、列車に戻ってトレーニングルームでジャグリングの練習をした。ジェロニモも来たので教えてもらいながら一緒にやった。彼は今度のエクアドルのグアヤキル公演でデビューなのだという。
「めちゃくちゃ緊張するよ、上手くできるかな」
「大丈夫だよ、君なら。今まで沢山練習してきたじゃないか」
「リングに立つのは夢だった。俺は人より覚えが悪くてさ、ピアジェに下手くそとか、まだショーに出せないって散々言われたよ。辞めたくもなった」
「僕からしたら十分上手いけどな」
ジェロニモで下手くそというのなら、私などミジンコのフンのようなものだ。
「ピアジェはランク付けが得意なんだ。アイツはAランク、こいつはFで自分より格下とかさ。ショーに出るにはBやCじゃ駄目だ。AやS、SSランクくらいにスキルが付かないと出さない。お陰で俺は1年間も雑用ばっかやらされたよ」
「君で1年かかったんなら、僕はまだまだ出られそうにないな」
「それはどうかな」とジェロニモは顎に拳を当てた。
「ジャグラーは他にもいるからいいけど、このサーカスにはショーに出られるクラウンがいない。お客さんからも公演のあと『このサーカスにクラウンはいないの?』ってよく聞かれるんだ。『クラウンがいないサーカスなんて、面白くない!』って言う子どももいる。ピアジェの本音としては早くお前を出したいはずだ。お前のスキルがある程度育ちさえすればな」
遥か彼方に見えていたデビューが、頑張り次第では早まる可能性もあることを知って俄然やる気が出た。
「よし、早くデビューできるように技を磨くぞ!」
ジェロニモも「負けるもんか!」と続いた。結局2人で夜まで練習に明け暮れた。何時間も練習していたおかげで、習得できなかったハーフシャワーやテニス、オーバーヘッドという3ボールの基本技がいくつもできるようになった。
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