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第2章〜クラウンへの道〜
デビューの日③
しおりを挟む「よかったわよ、ネロ!」
オフ・ステージに戻った私にジュリエッタがウィンクをした。
「ありがとう、ひとまずは成功して安心したよ」
先ほどまでの不安感と恐怖はどこへやら。パフォーマンスを終え、ひと時の安堵と達成感を享受する。まだ終わりではないから気は抜けない。でも一つ目の出番は終わった。
再び暗闇に包まれたリングに目をやる。スタッフの手によってオートバイショーの準備が着々と進められている。
オートバイショーが始まると観客の興奮が最高潮に達する。
「ネロ、控え室に行って着替えるぞ」
ルーファスに声をかけられ控え室へ急ぐ。中では仲間たちが衣装に着替えたりメイクをしている。
急いで茶色の作業着に着替える。今日やる寸劇のための衣装だ。目の周りと口の周りだけ白く塗ったルーファスには赤鼻がついている。
パイプレットショーもスムーズに進み、次のヤスミーナとジェロニモのジャグリングショーのあとに私が出ていく予定だ。
「頑張れよ、ネロ!」
ジェロニモは私の肩をポンと叩いてヤスミーナとリングに出て行く。
2人のジャグリングが終わると、今度は私とルーファスの出番だ。
「行くぞ」とルーファスが私の肩に手を置いた。
『お前ら、早く集合しろ~!』
録音していた音声が再生され、テントに響く。これは隊長の声という設定になっている。いつもピアジェの物真似をするジャンの声を本人に許可を取り録音させてもらったものだ。
作業着を纏ったホワイトフェイスと小人のオーギュスト。このチグハグなコンビがツルハシを担いリングに掛けてくると、それだけで笑いが起こる。
ルーファスは観客に手を振ってハローをし、私はやる気がなさそうにツルハシを持った手を軽く挙げて見せた。
笑いが起こると安堵感から緊張がほぐれる。
今日やるのは、『銀河鉄道の夜』と関係のある寸劇だ。
この寸劇の大事な箇所については、ピアジェには内緒で作っている。
※下記のパフォーマンスは宮沢賢治作『銀河鉄道の夜』プリシオン海岸のクルミ発掘場面をモチーフにしていますが、実際の内容とはかけ離れた寸劇になっていることをご了承ください。
私たちはプリシオン海岸のクルミの掘削隊の作業員という設定だ。私とルーファスはリングセンターで2人でクルミの化石を発掘するために、ツルハシを使って地面を掘る振りをする。ちなみにクルミに使われるのは2つに割いたのをマジックテープでくっつけたラグビーボールだ。
私はルーファスと一緒にツルハシを地面に振り下ろし作業を続けていたが、疲れた私は扇子を取り出して地面に座り顔を仰ぐ。
『真面目にやらんかぁ~!!』
内部の事情など全く知らない観客から笑い声が上がる。
怒られた私は仕方なく作業を開始するが、途中で飽きてクルミでジャグリングをし始める。
『お前、何をやっている?! ワシを馬鹿にしてるのか?!』
また隊長の怒鳴り声が響く。
エントランスの前でピアジェが止めろと私たちに向かって口を動かしているが、知らないふりをして寸劇を続けた。
ルーファスが手のひらをポンと拳で叩き、いいことを思いついたという顔をして地面に置かれたラグビーボールを手に取り、割って食べようとジェスチャーで私に伝える。ルーファスは地面にクルミを置いてツルハシで割ろうとするが、間違って私の足に刺さってしまう。私は足を押さえピョンピョンと飛び跳ねる。観客は皆その滑稽な様に笑いを堪えられない。
怒った私はルーファスにスラップする。頭に来たルーファスがお返しにジャンプしてスラップしようとするが届かない。ここでもまた笑いが起こる。
今度はルーファスがクルミに向かって振り下ろしたツルハシが地面に刺さってしまい、必死に抜こうとする。私は呆れた顔をして、協力しようと膝をついてルーファスの身体を引っ張る。ツルハシは抜けたものの、勢い余って2人で仰向けに倒れてしまう。数秒間仰向けのまま倒れていたが、私の方が先に意識を取り戻し、練習でやった要領でしゃがんで肩の間に手を入れ、ルーファスの身体を後ろからゆっくり起こす。
ルーファスが今度はリング右の離れた場所に落ちている鞭(実際は黒く塗ったリボン)を指さして、アレで割ろうと言い出す。
お前が取りに行け、いやお前だと相手と鞭を指差してジェスチャーだけの喧嘩が勃発し、また私がルーファスにスラップをする。怒ったルーファスは私の膝に蹴りを入れ、私は膝を抑えてピョンピョン飛び跳ねて痛がる。伝染した笑いは次の笑いを生み、このときには爆笑の渦になっていた。
結局ジャンケンで負けた私がそろりそろりと近づく。が、見つかりかけてヤバい! という表情をしながら手脚を大袈裟に振り駆け戻ってきて2人で真面目に発掘作業をするフリをする。それを2度繰り返し、最後匍匐前進で鞭を手に入れた私は鞭を掲げて観客に不敵に笑いかけ、リングセンターに戻ってくる。
そして『鞭使い』クルミ割りバージョンが始まる。
クルミを持って私にくっついて歩くルーファス、怒って正しい立ち位置を教える私というやりとりを2回繰り返したあと、ルーファスは離れてクルミを持って立つ。
私は鞭を振り上げ、振り下ろす。するとクルミが上手く2つに割れる。
調子に乗って鏡に映して割る。割ったクルミを2人で食べているときに、隊長に見つかってしまう。
『こらっ、お前ら何やってるんだぁ~!!』
私は慌てて逃げ出すが、ルーファスは捕まってしまい、パントマイムで前傾姿勢でムーンウォークのように両脚を交互に動かしながら後退する。
「待て! 置いて行くな!」と叫んで手を伸ばすルーファスを尻目に、薄情な私はエントランスへ逃げてしまう。
笑い声に包まれたリングは暗転する。
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