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第2章〜クラウンへの道〜
探求⑤
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ブラジルを出たら次の国はペルーだ。クスコ、アレキパ、リマの3都市をまわる。
クスコに着くと恒例の怒涛の場越し作業が始まる。今回は遊園地でなくて、劇場跡地の空き地を使わせてもらうことになった。この場越しがあまりにキツすぎて、全ての作業を人力で行っていた昔は場越しだけで脱落者が何人も出たという。その理由もよく分かる。
今回ケニーが中心となってサーカス団のホームページをリニューアルし、大々的に広告を出し募集をかけたお陰で、千人を超えるボランティアが集まってくれた。その大半がボディビルダーや漁師、レスラーなど屈強な男たちで、これまでよりも作業がスムーズに進んだ。
手袋を嵌めた手でテントの外周に釘を打ち込む作業をしていたら、突然背後で「ぐおぉ~!!」と魔物が死ぬ時のような凄まじい叫び声が轟いた。振り向いたら段ボールを抱えたケニーが中腰の姿勢のまま固まっていた。
「ケニー!!」
駆け寄って段ボールを受け取り地面に置く。
「腰が……腰が折れたああぁ!! 複雑骨折だあぁぁ!!」
背中が地面に平行のまま叫ぶ伯父の声が夜の闇を引き裂く。これはギックリ腰と確信した。以前母も、メルボルンの畑の西瓜を抜こうとして同じ状態になったのだ。
「骨は折れてないはずよ、多分ギックリ腰だわ」
騒ぎを聞いたシンディがホタルを呼んできてくれたが、ホタルもギックリ腰には詳しくないという。
「とりあえず安静にしてるしかないわね」
ケニーはジャンとアルフレッドに抱えられ、サーカステントの裏に張られた宿泊用テントに連れて行かれた。
怪我のことを聞きつけたピアジェは「役立たず」だの「こんなときに怪我なんぞしおって」と憤慨していた。私は流石に怒りが湧いて、団長に詰め寄った。
「団長、ケニーには事情があって、まだ外に出て間もないんです。パフォーマーでもないし、体力が追いつかないのは当たり前です。それに、この過酷なスケジュールで怪我をするのも無理はないです」
ピアジェはピクッと頬を震わせた。
「何だ小僧、この俺に意見しようってのか? 下っ端のくせにいい度胸だな」
「本当のことを言ったまでです」
「いいか小僧」
ピアジェは私の胸に人差し指を突き立てた。
「俺に付いていけない無能はクビ。役立たずも、口ごたえをする奴も然りだ。覚えておけ」
カッと血が昇って言い返そうとしたところにルーファスが仲裁に入った。
「まぁまぁ、落ち着け。場越しはプロのパフォーマーでも次の日全身筋肉痛になるくらいの作業だ。怪我人が出ることもある。あの新しいホームページのお陰でチケットも売れたしボランティアもたくさん集まった。今までたくさん頑張ってもらったから、ケニーには2日くらい休んでもらおう」
不服そうに舌打ちをする団長にルーファスがまだ何かを言い聞かせていた。
クスコに着くと恒例の怒涛の場越し作業が始まる。今回は遊園地でなくて、劇場跡地の空き地を使わせてもらうことになった。この場越しがあまりにキツすぎて、全ての作業を人力で行っていた昔は場越しだけで脱落者が何人も出たという。その理由もよく分かる。
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「ケニー!!」
駆け寄って段ボールを受け取り地面に置く。
「腰が……腰が折れたああぁ!! 複雑骨折だあぁぁ!!」
背中が地面に平行のまま叫ぶ伯父の声が夜の闇を引き裂く。これはギックリ腰と確信した。以前母も、メルボルンの畑の西瓜を抜こうとして同じ状態になったのだ。
「骨は折れてないはずよ、多分ギックリ腰だわ」
騒ぎを聞いたシンディがホタルを呼んできてくれたが、ホタルもギックリ腰には詳しくないという。
「とりあえず安静にしてるしかないわね」
ケニーはジャンとアルフレッドに抱えられ、サーカステントの裏に張られた宿泊用テントに連れて行かれた。
怪我のことを聞きつけたピアジェは「役立たず」だの「こんなときに怪我なんぞしおって」と憤慨していた。私は流石に怒りが湧いて、団長に詰め寄った。
「団長、ケニーには事情があって、まだ外に出て間もないんです。パフォーマーでもないし、体力が追いつかないのは当たり前です。それに、この過酷なスケジュールで怪我をするのも無理はないです」
ピアジェはピクッと頬を震わせた。
「何だ小僧、この俺に意見しようってのか? 下っ端のくせにいい度胸だな」
「本当のことを言ったまでです」
「いいか小僧」
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不服そうに舌打ちをする団長にルーファスがまだ何かを言い聞かせていた。
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