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第2章〜クラウンへの道〜
クラウンへの道③
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ルーファスからOKを貰ったところで次の練習に移行した。フリーズという、身体を意図的に静止させる練習だ。
ルーファスが提案したのは「だるまさんがころんだ」という日本の遊びだった。ルーファスがルールを説明している途中で、ピアジェが見るからに不服そうに遮った。
「そんな子どもの遊びで練習になるか!」
「いや、これは俺が考えついた一番効果的ですごい練習だ。見ていれば分かる」
ルーファスはピアジェの剣幕に動じる様子もない。
ルールはこうだ。まず1人鬼を決める。壁を背に立ち、鬼は反対側の壁に顔を当てて、「だるまさんが転んだ!」と唱える。その間にそれ以外の人間たちは鬼に近づいていく。さっき練習したことを意識して 身体の力を抜いて大きく手を振って歩く。鬼が最後の「だ!」のタイミングで振り向いた時、皆一斉にそのままの体勢で動きを止める。もし少しでも動いてしまった人は鬼にならなければならない。誰も動くことなく誰かが鬼にタッチすることができれば、もう一度同じ人が鬼になり同じ遊びを繰り返す。
本来なら和気藹々とやっていたかもしれないが、ピアジェが部屋の隅で目を光らせているためにデスゲームの如き恐怖と緊張感の漂うだるまさんがころんだになってしまった。
ルーファスのだるまさんがころんだの唱和が始まるなり、先のことを考えずに走り出してしまったがために「だ!」の音で上手く止まり切れず前のめりに身体が動いてしまった。
「ネロ鬼な」とルーファスがニヤリとした。ふんとピアジェが鼻で笑うのが聞こえて何だか悔しい。
やがて課題は人間を表現するから、動物を表現するに変わった。
ルーファスが出した課題の動物ーー猿なら猿、猫なら猫になりきって鬼に向かって歩いていく。
鬼になって3回目の「だるまさんがころんだ」の台詞の後、ミラーが私にタッチしようと張り切りすぎて転んでしまい笑いが起きた。恥をかいたミラーは出て行ってしまい、しばし気まずいムードが流れる中ゲームは続いた。
私は途中ミラーのことが気がかりになってきたが、ピアジェがいつまでもいなくならないから部屋を出ようにも出られない。
やがてトレーニングはワンステップ上に移行した。
「じゃあ、次は表現力を高める練習も入れるぞ。まず、俺の言った形容詞をイメージするポーズをとれ。その言葉をイメージした銅像になるつもりでな」
ルーファスが最初に言ったのは、「意地悪な」という形容詞だった。
シンディは「ひっひっひ」と魔女のように笑ってしゃもじで何かをかき混ぜる仕草をしたが、ルーファスは「ポーズだけなんだがな……」とそれじゃない感漂うつぶやきをした。
「頭で考えるな。要は、意地悪な感じを出せればいいんだ」
意地悪と聞いたときパッと浮かんだのがディアナだった。彼女が路地裏で私を見た時を思い出しながら腕組みをして顔を傾け、蔑むような目をしてみせた。
「おお、すごく嫌な奴感が出てていいな」とルーファスに褒められたが、果たして喜んでいいのか分からない。
ルーファスは「陰気な」「陽気な」「高貴な」「貧しい」「臆病な」「偉そうな」などといった形容詞を出し、それに合わせたポージングを考え出した。フィーリングで考えるのは、頭を使うのが苦手な私に向いているかもしれない。
その後それまで鬼のルーファスが出した形容詞のお題に合わせた歩き方でだるまさんがころんだをやった。「高貴」と言われたらは上品な歩き方をして、フリーズするときは、胸を張ってつんと澄ましいかにもプライドが高そうな人を意識したポージングをとる。「臆病な」ではスラムに行く前のケニーのようにおどおどと挙動不審に歩き、フリーズする時もライオンを目の前にした彼のように身体をビクッと震わせ、怯えた目つきをしてみせる。段々と別の形容詞に切り替わるタイミングが速くなっていく。終わる頃には額に汗をかいていた。
「静止=死じゃない。これは内面のエネルギーを殺さずに生かしたまま動作を止める練習だ。動作にフリーズを上手く組み合わせて使いこなすことができれば、動きにメリハリが生まれる。そして、特定のイメージを働かせることで、表現力にも繋がるんだ」
練習の後にルーファスが教えてくれた。そう考えると確かにこれはゲーム感覚でクラウンの大切な動作を学べる、優れたトレーニングだ。これを思いついたルーファスは天才なんじゃないだろうか。
ピアジェが電話対応のために呼ばれていなくなったタイミングで、ルーファスに断りを入れて部屋を出た。昨日、今日と彼には悪いことをしてしまった。いくら日頃の鬱憤が溜まっていたとはいえ、いささかやりすぎた。
ミラーの姿をしばらく探したが見つからない。通路でランニングをしていたアルフレッドに聞いたら、「彼なら俺の部屋にこもってるよ」と答えた。
「嫌なことがあるとよく来るんだ。父親にーーピアジェに見つからないように」
「ありがとう、アルフ」
アルフレッドにお礼を伝え彼の部屋に向かう。
ルーファスが提案したのは「だるまさんがころんだ」という日本の遊びだった。ルーファスがルールを説明している途中で、ピアジェが見るからに不服そうに遮った。
「そんな子どもの遊びで練習になるか!」
「いや、これは俺が考えついた一番効果的ですごい練習だ。見ていれば分かる」
ルーファスはピアジェの剣幕に動じる様子もない。
ルールはこうだ。まず1人鬼を決める。壁を背に立ち、鬼は反対側の壁に顔を当てて、「だるまさんが転んだ!」と唱える。その間にそれ以外の人間たちは鬼に近づいていく。さっき練習したことを意識して 身体の力を抜いて大きく手を振って歩く。鬼が最後の「だ!」のタイミングで振り向いた時、皆一斉にそのままの体勢で動きを止める。もし少しでも動いてしまった人は鬼にならなければならない。誰も動くことなく誰かが鬼にタッチすることができれば、もう一度同じ人が鬼になり同じ遊びを繰り返す。
本来なら和気藹々とやっていたかもしれないが、ピアジェが部屋の隅で目を光らせているためにデスゲームの如き恐怖と緊張感の漂うだるまさんがころんだになってしまった。
ルーファスのだるまさんがころんだの唱和が始まるなり、先のことを考えずに走り出してしまったがために「だ!」の音で上手く止まり切れず前のめりに身体が動いてしまった。
「ネロ鬼な」とルーファスがニヤリとした。ふんとピアジェが鼻で笑うのが聞こえて何だか悔しい。
やがて課題は人間を表現するから、動物を表現するに変わった。
ルーファスが出した課題の動物ーー猿なら猿、猫なら猫になりきって鬼に向かって歩いていく。
鬼になって3回目の「だるまさんがころんだ」の台詞の後、ミラーが私にタッチしようと張り切りすぎて転んでしまい笑いが起きた。恥をかいたミラーは出て行ってしまい、しばし気まずいムードが流れる中ゲームは続いた。
私は途中ミラーのことが気がかりになってきたが、ピアジェがいつまでもいなくならないから部屋を出ようにも出られない。
やがてトレーニングはワンステップ上に移行した。
「じゃあ、次は表現力を高める練習も入れるぞ。まず、俺の言った形容詞をイメージするポーズをとれ。その言葉をイメージした銅像になるつもりでな」
ルーファスが最初に言ったのは、「意地悪な」という形容詞だった。
シンディは「ひっひっひ」と魔女のように笑ってしゃもじで何かをかき混ぜる仕草をしたが、ルーファスは「ポーズだけなんだがな……」とそれじゃない感漂うつぶやきをした。
「頭で考えるな。要は、意地悪な感じを出せればいいんだ」
意地悪と聞いたときパッと浮かんだのがディアナだった。彼女が路地裏で私を見た時を思い出しながら腕組みをして顔を傾け、蔑むような目をしてみせた。
「おお、すごく嫌な奴感が出てていいな」とルーファスに褒められたが、果たして喜んでいいのか分からない。
ルーファスは「陰気な」「陽気な」「高貴な」「貧しい」「臆病な」「偉そうな」などといった形容詞を出し、それに合わせたポージングを考え出した。フィーリングで考えるのは、頭を使うのが苦手な私に向いているかもしれない。
その後それまで鬼のルーファスが出した形容詞のお題に合わせた歩き方でだるまさんがころんだをやった。「高貴」と言われたらは上品な歩き方をして、フリーズするときは、胸を張ってつんと澄ましいかにもプライドが高そうな人を意識したポージングをとる。「臆病な」ではスラムに行く前のケニーのようにおどおどと挙動不審に歩き、フリーズする時もライオンを目の前にした彼のように身体をビクッと震わせ、怯えた目つきをしてみせる。段々と別の形容詞に切り替わるタイミングが速くなっていく。終わる頃には額に汗をかいていた。
「静止=死じゃない。これは内面のエネルギーを殺さずに生かしたまま動作を止める練習だ。動作にフリーズを上手く組み合わせて使いこなすことができれば、動きにメリハリが生まれる。そして、特定のイメージを働かせることで、表現力にも繋がるんだ」
練習の後にルーファスが教えてくれた。そう考えると確かにこれはゲーム感覚でクラウンの大切な動作を学べる、優れたトレーニングだ。これを思いついたルーファスは天才なんじゃないだろうか。
ピアジェが電話対応のために呼ばれていなくなったタイミングで、ルーファスに断りを入れて部屋を出た。昨日、今日と彼には悪いことをしてしまった。いくら日頃の鬱憤が溜まっていたとはいえ、いささかやりすぎた。
ミラーの姿をしばらく探したが見つからない。通路でランニングをしていたアルフレッドに聞いたら、「彼なら俺の部屋にこもってるよ」と答えた。
「嫌なことがあるとよく来るんだ。父親にーーピアジェに見つからないように」
「ありがとう、アルフ」
アルフレッドにお礼を伝え彼の部屋に向かう。
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