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第2章〜クラウンへの道〜
誕生日③
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クルーズの後は3人で街のバーに繰り出した。最初は3人で窓際の丸テーブルを囲んでいたが、ジュリエッタが好みの男性を見つけカウンター付近で楽しそうに立ち話していたので、私とシンディだけで打ち明け話をした。そこで私は思い切ってシンディにケニーの印象を聞いてみることにした。
「シンディ、ケニーのことをどう思う?」
シンディは小首を傾げ、「優しそうよね」と答えた。
「他には? その……異性としてはどう感じる?」
シンディはそうねぇ、と顎に人差し指を当てて考える素振りをした後、「嫌いじゃないわ」と笑顔で頷いた。
「本当?!」
「うん。私、禿げてて太った年上の人が好きなのよ。あと、優しい人ね」
これをケニーが聞いたら小躍りして喜ぶに違いない。世界は広いし女性は星の数だけいて、その分好みというのは多様だ。ケニーをタイプと思う人がいても何らおかしくはない。帰ったら早速伝えなくては。
「ケニーの優しさは折り紙付きだよ。彼と付き合ったら絶対幸せになれる、僕が保証するよ」
シンディは「まだそんなに先のことなんて考えてないわ」と苦笑いして首を振った。
「見た目も好きだし、凄くいい人そうだから話してみたいわね。いつか機会があればね」
カクテルグラスを空にしたシンディに私は気になっていたことを尋ねた。
「そういえば、君は何でサーカスを始めたの?」
「友達がカナダのキッズサーカスにいて、見学に行った時にすごく身体の柔らかい男の子がいてね。私もやってみたいなって思ったの」
「そうなんだ」
「ずっと新体操をやってたんだけど、人と競うのが好きじゃなかったの。友達と敵対心を燃やしあってギクシャクしたりするのがどうも苦手で……」
「僕もそうだよ。習い事でも勉強でも、誰かと競うことが当たり前になると楽しくなくなってしまうんだ。それで何も続かなかった」
「分かるわ、嫌よね。友達でもライバルになるのって」
小学校の時にやっていたサッカーも、中学まで習っていたバレーもそうだった。普段は仲良しの友達同士でバチバチと火花を散らしあって、発表会に出られる枠を奪い合う。バレエは好きなのに、ピリピリ空気に耐えられなくて結局やめてしまった。皆みたいに大会で勝ちたいとか、負けたくないという気持ちもなかった。そんな感じだから、どの習い事も長く続かなかった。
競争社会に馴染めない子どもというのは、存外沢山いるのかもしれない。母には「あなたはもっと向上心を持ちなさい」とか「友達に負けちゃダメ」「飽きっぽいわね」などと呆れられていた。今まで話しても理解してくれる人がいなかったから、シンディが同じ経験をしていたことが嬉しかった。
「私たちにはサーカスがピッタリだと思うわ。誰と競わなくてもいい、自分の技をひたすら磨いて極める。それだけじゃなくて、仲間と力を合わせて一つのショーを作り上げる。私はサーカスに出会えて本当によかったと思ってる」
子ども時代の習い事の話をしていたらジュリエッタが小走りでやってきて、満面の笑みで折り畳まれた紙ナプキンを見せた。
「彼の連絡先ゲットしちゃった~! ねぇ聞いて、彼音楽家なんですって! 明日デートに行こうって誘われちゃったわ」
「おめでとう! 上手くいくといいね」
「良かったじゃない」
祝福を受けたジュリエッタは上機嫌でドリンクをもう一杯奢ってくれたが、シンディはどこか浮かない顔をしていた。
ジュリエッタがトイレに立ったときシンディが呟いた。
「彼女が傷つかないか心配だわ」
その言葉の意味について私は深く考えなかったが、後でここでとらなかった行動について深く後悔することになるのだった。
18時を過ぎたあたりでシンディが「そろそろ帰る時間ね」と言った。お腹が空いて何か軽く食べたかったけれど、2人が何故か急いでいる様子で言い出せなかった。
給料が出たら2人に奢らないといけないなと考えながら、私は夢見心地のほろ酔い状態で2人とジョークを交わし大笑いしながら夜の街を歩いて帰った。
「シンディ、ケニーのことをどう思う?」
シンディは小首を傾げ、「優しそうよね」と答えた。
「他には? その……異性としてはどう感じる?」
シンディはそうねぇ、と顎に人差し指を当てて考える素振りをした後、「嫌いじゃないわ」と笑顔で頷いた。
「本当?!」
「うん。私、禿げてて太った年上の人が好きなのよ。あと、優しい人ね」
これをケニーが聞いたら小躍りして喜ぶに違いない。世界は広いし女性は星の数だけいて、その分好みというのは多様だ。ケニーをタイプと思う人がいても何らおかしくはない。帰ったら早速伝えなくては。
「ケニーの優しさは折り紙付きだよ。彼と付き合ったら絶対幸せになれる、僕が保証するよ」
シンディは「まだそんなに先のことなんて考えてないわ」と苦笑いして首を振った。
「見た目も好きだし、凄くいい人そうだから話してみたいわね。いつか機会があればね」
カクテルグラスを空にしたシンディに私は気になっていたことを尋ねた。
「そういえば、君は何でサーカスを始めたの?」
「友達がカナダのキッズサーカスにいて、見学に行った時にすごく身体の柔らかい男の子がいてね。私もやってみたいなって思ったの」
「そうなんだ」
「ずっと新体操をやってたんだけど、人と競うのが好きじゃなかったの。友達と敵対心を燃やしあってギクシャクしたりするのがどうも苦手で……」
「僕もそうだよ。習い事でも勉強でも、誰かと競うことが当たり前になると楽しくなくなってしまうんだ。それで何も続かなかった」
「分かるわ、嫌よね。友達でもライバルになるのって」
小学校の時にやっていたサッカーも、中学まで習っていたバレーもそうだった。普段は仲良しの友達同士でバチバチと火花を散らしあって、発表会に出られる枠を奪い合う。バレエは好きなのに、ピリピリ空気に耐えられなくて結局やめてしまった。皆みたいに大会で勝ちたいとか、負けたくないという気持ちもなかった。そんな感じだから、どの習い事も長く続かなかった。
競争社会に馴染めない子どもというのは、存外沢山いるのかもしれない。母には「あなたはもっと向上心を持ちなさい」とか「友達に負けちゃダメ」「飽きっぽいわね」などと呆れられていた。今まで話しても理解してくれる人がいなかったから、シンディが同じ経験をしていたことが嬉しかった。
「私たちにはサーカスがピッタリだと思うわ。誰と競わなくてもいい、自分の技をひたすら磨いて極める。それだけじゃなくて、仲間と力を合わせて一つのショーを作り上げる。私はサーカスに出会えて本当によかったと思ってる」
子ども時代の習い事の話をしていたらジュリエッタが小走りでやってきて、満面の笑みで折り畳まれた紙ナプキンを見せた。
「彼の連絡先ゲットしちゃった~! ねぇ聞いて、彼音楽家なんですって! 明日デートに行こうって誘われちゃったわ」
「おめでとう! 上手くいくといいね」
「良かったじゃない」
祝福を受けたジュリエッタは上機嫌でドリンクをもう一杯奢ってくれたが、シンディはどこか浮かない顔をしていた。
ジュリエッタがトイレに立ったときシンディが呟いた。
「彼女が傷つかないか心配だわ」
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18時を過ぎたあたりでシンディが「そろそろ帰る時間ね」と言った。お腹が空いて何か軽く食べたかったけれど、2人が何故か急いでいる様子で言い出せなかった。
給料が出たら2人に奢らないといけないなと考えながら、私は夢見心地のほろ酔い状態で2人とジョークを交わし大笑いしながら夜の街を歩いて帰った。
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