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第1章〜サーカス列車の旅〜
動物ショー②
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第二部の始まりが近づくと、観客がパノラマのような客席に戻ってくる。動物のショーを観られるとあって、とりわけ子どもたちの顔は期待に輝いているように見える。
アリーナの周りは安全のために鉄のゲートで囲われている。
私とケニーは、また登場口の裏で動物たちの演技を見守ることにした。
やがて明るかったテントは再び暗転し、ピアジェの口上が始まる。
『Ladies and gentleman!! これからサーカスショー第二部の幕開けです!! 皆さん、楽しんでおられるでしょうか?
第二部はお待ちかね、動物たちのショーです。我がサーカスには沢山の動物がいて、団員たちと一緒に生活しています。
皆優秀で、才能に溢れた仲間です。
トップバッターを飾るのは、猿のコリンズのモンキーショーです!!
それでは、驚きに満ちた動物たちのショーをとくとご覧ください!』
エントランスから出る直前のルチアとコリンズに頑張れと声をかけた。彼女は緊張した面持ちで微笑み、コリンズの手を引いてアーチ型の登場口からアリーナに駆け出した。
やがて、ヘッドセットマイクをつけたルチアの声が響き渡る。
『みなさん、こんにちは! 今日は楽しい友達のコリンズと一緒にびっくりするような芸をお見せします!』
ルチアは隣のコリンズに目配せをし、『じゃあコリンズ、自転車に乗ってみましょうか!』と声をかける。
コリンズはリングに用意された子ども用の小さな自転車をいとも簡単に漕いでみせた。
途中、バランスを失って自転車が音を立てて倒れた。地面に投げ出されたコリンズは、うつ伏せでぐったりしている。
「大変だ!」
助けようと駆け出した私の腕を後ろにいたトムが掴んで止めた。
「大丈夫じゃ」
そう言うトムの顔は意味深に笑っている。
ルチアが慌てて駆け寄り、コリンズの身体を揺する。客席からは心配する声が響いている。泣き出しそうな顔の子どもまでいる。
観客のざわめきが最高潮に達したところで、コリンズはむくりと起き上がり「ききっ」と一声鳴いてしてやったりといった顔で頭をかいた。
何とコリンズは死んだふりをしていたのだ。あの感じだと、転んだのも芸のうちでワザとだったのだろう。ほっと息が漏れた。さっきまで青くなっていたケニーも「何だ、びっくりしたよ」と安心した様子だ。
「あの死んだふりは、ワシが仕込んだんじゃ」とトムは得意げだ。「心臓に悪いよ」と私はつっこんだ。
『死んだふりをしてたのね、コリンズ! ああ、びっくりした! もうしちゃだめよ。一体誰から覚えたの?』
ルチアに訊かれたコリンズは、誤魔化すように手を後ろで組んで口笛を吹いてみせた。
客席からは一斉に胸を撫で下ろすような声と、安堵の笑いが上がる。さっきまで泣きそうになっていた子どもたちも笑顔を取り戻した。
コリンズはその後もルチアと滑稽でテンポの良いやり取りを繰り返しながら、最前列の席の前に円形に巡らされた1メートルほどの高さのリングカーブの上を逆立ちで歩いたり、雲梯をしたり、1.5Mの高さにかけられた3メートルほどの2本の棒の上を前歩きや後ろ歩きで渡ったり、日本の昔の遊び道具だという竹馬という道具を使って、1Mほどの高さのハードルを軽々と飛び越えて見せたりした。
「猿は抜群の運動神経がある。猿の筋肉というのは、優れた持久力を生み出すんじゃ。ワシもこの通りじいさんじゃ、年齢とともに疲れやすくなる。あの筋肉が1%でもあればいいなといつも思う」
しみじみ語るトムは今年で65歳になるというが、高齢には見えないほど若々しい。
コリンズの愛嬌と豊かな芸に、観客たちは笑い声と惜しみない拍手を送った。
ルチアと猿のコリンズの息のあった芸の途中で、シーザーとヘイリーが乗ったプレッツェルと、トムが乗ったジョンが乱入する。トムがジョンの背から降り鞭の動きで指示を出すと、艶やかな毛並みを持つ2頭の馬は長い立髪を靡かせ蹄の音を響かせながら、くっつきそうな至近距離で並走を始めた。シーザーがプレッツェルとジョンの背中に片足ずつ置いて立ち、ヘイリーはシーザーと息のあったコンビネーションで、シーザーに肩車をしたあと肩の上で逆立ちをしてみせ、今度はシーザーに腕に横抱きにされたあと車輪のように頭の上でピザ生地を作るときのように2回回された。
ルチアはやがてヘイリーと一緒にプレッツェルに乗り、コリンズはシーザーに引き上げられてジョンの背中に飛び乗り何周か駆け回った。
人間たちが馬から降りて退場したあと、2頭はバーを飛び越えたりフープをくぐり抜ける曲芸を披露し、最後同時に二本脚で立ってアリーナを歩いてみせた。観客は馬たちの芸に熱狂している。
「みんな凄いな。人も動物も、すごくキラキラしてる」
「そうだね、すごい。これがサーカスの世界か」
ケニーが感嘆した。
馬たちが颯爽と走り去ったあとは、ツキノワグマのニックのショーだ。
明転したリングには、木のベッドの上に半裸でうつ伏せに眠るピアジェの姿がある。足元には蒸気の上がるお湯の入った木のタライが2つと、その上にセージの葉がおいてある。
そこにトムに連れられたニックがやってきて、ベッドの横に二本脚で立つと、セージの葉を両手で持って邪気払いをする神職のように左右に振ってみせた。
かと思うと、タライを持って病人にするみたいにピアジェの身体に何度か水をかけ、セージの葉を更に大きく振り回す。
大爆笑の中、可笑しくも愛らしい寸劇を演じてみせたニックはトムと一緒にお辞儀をして退場した。
アリーナの周りは安全のために鉄のゲートで囲われている。
私とケニーは、また登場口の裏で動物たちの演技を見守ることにした。
やがて明るかったテントは再び暗転し、ピアジェの口上が始まる。
『Ladies and gentleman!! これからサーカスショー第二部の幕開けです!! 皆さん、楽しんでおられるでしょうか?
第二部はお待ちかね、動物たちのショーです。我がサーカスには沢山の動物がいて、団員たちと一緒に生活しています。
皆優秀で、才能に溢れた仲間です。
トップバッターを飾るのは、猿のコリンズのモンキーショーです!!
それでは、驚きに満ちた動物たちのショーをとくとご覧ください!』
エントランスから出る直前のルチアとコリンズに頑張れと声をかけた。彼女は緊張した面持ちで微笑み、コリンズの手を引いてアーチ型の登場口からアリーナに駆け出した。
やがて、ヘッドセットマイクをつけたルチアの声が響き渡る。
『みなさん、こんにちは! 今日は楽しい友達のコリンズと一緒にびっくりするような芸をお見せします!』
ルチアは隣のコリンズに目配せをし、『じゃあコリンズ、自転車に乗ってみましょうか!』と声をかける。
コリンズはリングに用意された子ども用の小さな自転車をいとも簡単に漕いでみせた。
途中、バランスを失って自転車が音を立てて倒れた。地面に投げ出されたコリンズは、うつ伏せでぐったりしている。
「大変だ!」
助けようと駆け出した私の腕を後ろにいたトムが掴んで止めた。
「大丈夫じゃ」
そう言うトムの顔は意味深に笑っている。
ルチアが慌てて駆け寄り、コリンズの身体を揺する。客席からは心配する声が響いている。泣き出しそうな顔の子どもまでいる。
観客のざわめきが最高潮に達したところで、コリンズはむくりと起き上がり「ききっ」と一声鳴いてしてやったりといった顔で頭をかいた。
何とコリンズは死んだふりをしていたのだ。あの感じだと、転んだのも芸のうちでワザとだったのだろう。ほっと息が漏れた。さっきまで青くなっていたケニーも「何だ、びっくりしたよ」と安心した様子だ。
「あの死んだふりは、ワシが仕込んだんじゃ」とトムは得意げだ。「心臓に悪いよ」と私はつっこんだ。
『死んだふりをしてたのね、コリンズ! ああ、びっくりした! もうしちゃだめよ。一体誰から覚えたの?』
ルチアに訊かれたコリンズは、誤魔化すように手を後ろで組んで口笛を吹いてみせた。
客席からは一斉に胸を撫で下ろすような声と、安堵の笑いが上がる。さっきまで泣きそうになっていた子どもたちも笑顔を取り戻した。
コリンズはその後もルチアと滑稽でテンポの良いやり取りを繰り返しながら、最前列の席の前に円形に巡らされた1メートルほどの高さのリングカーブの上を逆立ちで歩いたり、雲梯をしたり、1.5Mの高さにかけられた3メートルほどの2本の棒の上を前歩きや後ろ歩きで渡ったり、日本の昔の遊び道具だという竹馬という道具を使って、1Mほどの高さのハードルを軽々と飛び越えて見せたりした。
「猿は抜群の運動神経がある。猿の筋肉というのは、優れた持久力を生み出すんじゃ。ワシもこの通りじいさんじゃ、年齢とともに疲れやすくなる。あの筋肉が1%でもあればいいなといつも思う」
しみじみ語るトムは今年で65歳になるというが、高齢には見えないほど若々しい。
コリンズの愛嬌と豊かな芸に、観客たちは笑い声と惜しみない拍手を送った。
ルチアと猿のコリンズの息のあった芸の途中で、シーザーとヘイリーが乗ったプレッツェルと、トムが乗ったジョンが乱入する。トムがジョンの背から降り鞭の動きで指示を出すと、艶やかな毛並みを持つ2頭の馬は長い立髪を靡かせ蹄の音を響かせながら、くっつきそうな至近距離で並走を始めた。シーザーがプレッツェルとジョンの背中に片足ずつ置いて立ち、ヘイリーはシーザーと息のあったコンビネーションで、シーザーに肩車をしたあと肩の上で逆立ちをしてみせ、今度はシーザーに腕に横抱きにされたあと車輪のように頭の上でピザ生地を作るときのように2回回された。
ルチアはやがてヘイリーと一緒にプレッツェルに乗り、コリンズはシーザーに引き上げられてジョンの背中に飛び乗り何周か駆け回った。
人間たちが馬から降りて退場したあと、2頭はバーを飛び越えたりフープをくぐり抜ける曲芸を披露し、最後同時に二本脚で立ってアリーナを歩いてみせた。観客は馬たちの芸に熱狂している。
「みんな凄いな。人も動物も、すごくキラキラしてる」
「そうだね、すごい。これがサーカスの世界か」
ケニーが感嘆した。
馬たちが颯爽と走り去ったあとは、ツキノワグマのニックのショーだ。
明転したリングには、木のベッドの上に半裸でうつ伏せに眠るピアジェの姿がある。足元には蒸気の上がるお湯の入った木のタライが2つと、その上にセージの葉がおいてある。
そこにトムに連れられたニックがやってきて、ベッドの横に二本脚で立つと、セージの葉を両手で持って邪気払いをする神職のように左右に振ってみせた。
かと思うと、タライを持って病人にするみたいにピアジェの身体に何度か水をかけ、セージの葉を更に大きく振り回す。
大爆笑の中、可笑しくも愛らしい寸劇を演じてみせたニックはトムと一緒にお辞儀をして退場した。
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