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第1章〜サーカス列車の旅〜
勤務初日⑤
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動物たちの世話が終わると、ジェロニモという17歳の少年に車内の掃除と、全員分の服やタオルなどの洗濯を教わった。シャワー室横の狭い洗濯室にはコインランドリーにあるみたいな全自動の大きな洗濯機が5台身を寄せ合うようにして置かれている。カゴに入れられた大量の洗濯物を見たら気が遠くなった。これを毎朝洗うのかと思うと気が遠くなる。
感情が伝わったのか、ジェロニモは「うんざりするだろ。だけど、一人前のアーティストになるまでは下っ端はこうやって雑用をやる。それがここの決まりさ」
ジェロニモはスコットランド訛りの英語を喋った。童顔で、鼻の周りにそばかすが浮いている。見るからに朴訥そうな少年だった。背は私より少し高いくらいで、白い半袖に破れたブルージーンズを履き、頭にはベージュのハンチング帽を被っている。
「君は何になりたいの? 曲芸師? それともブランコ乗り?」
「違う、ジャグラーさ」と少年は胸を張った。
「子どもの頃からサーカスが好きで、近くに来るたびに観に行ってた。家にあるゴムボールでジャグリングの真似事もよくやってたよ」
「僕もやってみたいな、ジャグリング」
「後でヤスミーナに教えて貰えばいい。彼女は天才的に上手いんだ」
そのあとジェロニモは業務の説明に戻った。
「基本的に洗濯は君と俺で一日交代でやる。タオルはタオル、服は柄物とそうじゃないのに分けてくれ。洗濯が終わったら、種類ごとに分けて洗濯カゴに入れてテーブルに置いておくんだ。そうしたら、みんなが各々とりにくる。どんなに血が騒いでも、女物の下着を盗もうなんて考えるなよ」
何歳かと聞いたら、「18だよ。君も同じくらいだろ?」と聞かれたから、「まあね」と濁しておいた。若く見られるに越したことはない。
「18ってことは、ルチアと同じくらいだね?」と聞いたら、ジェロニモは途端に顔を赤く染めた。
「……ああ、そうだよ」
「もしかして彼女のことが好きなの?」と冷やかしたら、「うるさい!」と怒られた。その後で我にかえり恥ずかしくなったのか、「彼女には内緒にしといてくれ」と付け足した。
「やっぱりね。可愛いもんね、彼女。すごく良い子そうだし」
「うん、良い子だよ。だけどあの親父が目を光らせてる限り、俺にはチャンスがない」
「そんなの分からないよ、協力しようか?」
「遠慮しとくよ。ピアジェは恐ろしい奴さ、愛娘をそこらの冴えない小僧にやすやすとやるはずなんてない」
残った時間で掃除を教えてもらった。通路やら事務室やらトレーニングルームやらシャワー室やらトイレやら、掃除をする場所がたくさんありすぎて目が回りそうだ。
「基本的に掃除は俺たち2人の他に、掃除当番のやつ3人で場所を決めてやるんだ。流石に2人じゃ大変だしな」
この短時間で全ての車両を掃除するなんて無謀だと感じていたから、5人でやるという事実にホッとした。
もう洗濯と掃除だけでクタクタだった。体力的にというより、心の方が。時々ピアジェが進歩を確認しにやってくるのも緊張する。
感情が伝わったのか、ジェロニモは「うんざりするだろ。だけど、一人前のアーティストになるまでは下っ端はこうやって雑用をやる。それがここの決まりさ」
ジェロニモはスコットランド訛りの英語を喋った。童顔で、鼻の周りにそばかすが浮いている。見るからに朴訥そうな少年だった。背は私より少し高いくらいで、白い半袖に破れたブルージーンズを履き、頭にはベージュのハンチング帽を被っている。
「君は何になりたいの? 曲芸師? それともブランコ乗り?」
「違う、ジャグラーさ」と少年は胸を張った。
「子どもの頃からサーカスが好きで、近くに来るたびに観に行ってた。家にあるゴムボールでジャグリングの真似事もよくやってたよ」
「僕もやってみたいな、ジャグリング」
「後でヤスミーナに教えて貰えばいい。彼女は天才的に上手いんだ」
そのあとジェロニモは業務の説明に戻った。
「基本的に洗濯は君と俺で一日交代でやる。タオルはタオル、服は柄物とそうじゃないのに分けてくれ。洗濯が終わったら、種類ごとに分けて洗濯カゴに入れてテーブルに置いておくんだ。そうしたら、みんなが各々とりにくる。どんなに血が騒いでも、女物の下着を盗もうなんて考えるなよ」
何歳かと聞いたら、「18だよ。君も同じくらいだろ?」と聞かれたから、「まあね」と濁しておいた。若く見られるに越したことはない。
「18ってことは、ルチアと同じくらいだね?」と聞いたら、ジェロニモは途端に顔を赤く染めた。
「……ああ、そうだよ」
「もしかして彼女のことが好きなの?」と冷やかしたら、「うるさい!」と怒られた。その後で我にかえり恥ずかしくなったのか、「彼女には内緒にしといてくれ」と付け足した。
「やっぱりね。可愛いもんね、彼女。すごく良い子そうだし」
「うん、良い子だよ。だけどあの親父が目を光らせてる限り、俺にはチャンスがない」
「そんなの分からないよ、協力しようか?」
「遠慮しとくよ。ピアジェは恐ろしい奴さ、愛娘をそこらの冴えない小僧にやすやすとやるはずなんてない」
残った時間で掃除を教えてもらった。通路やら事務室やらトレーニングルームやらシャワー室やらトイレやら、掃除をする場所がたくさんありすぎて目が回りそうだ。
「基本的に掃除は俺たち2人の他に、掃除当番のやつ3人で場所を決めてやるんだ。流石に2人じゃ大変だしな」
この短時間で全ての車両を掃除するなんて無謀だと感じていたから、5人でやるという事実にホッとした。
もう洗濯と掃除だけでクタクタだった。体力的にというより、心の方が。時々ピアジェが進歩を確認しにやってくるのも緊張する。
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