ライオンガール

たらこ飴

文字の大きさ
上 下
10 / 193
第1章〜サーカス列車の旅〜

絵本②

しおりを挟む
 猫のカルメンはある日、森を散歩していたとき、白黒猫の女の子と出会う。鼻が黒くてとてもお転婆だが、賢く優しい女の子だった。二人はしばらく追いかけっこや木登りをして遊んで別れたが、カルメンは彼女のことが忘れられず、どうしてももう一度会いたいと思うようになり、ある日彼女を探す旅に出ることに決める。

 旅の途中、カルメンは豚のエリーゼに出会う。カルメンの話を聞いたエリーゼは、カルメンにこう言う。

「美味しいパンをくれたら、白黒猫の居場所を教えてあげるわ」

 カルメンは牧場に向かい、友達の馬のサンドにどこかに美味しいパンはないかと聞く。サンドはこう答える。

「僕の家のおばあさんは、とびきり美味しいパンを焼く名人なんだ」

「本当かい? そのおばあさんからパンをもらうには、どうしたらいい?」

 カルメンが尋ねると、サンドは言った。

「何か芸を見せればいいよ」

 カルメンはサンドに教わったとおり、おばあさんに犬がやるようなお手と、二本足で歩く技を披露してみせる。それを見たおばあさんは喜んで、カルメンに美味しいパンを一切れくれた。カルメンはそれを口に咥えてエリーゼの元へ走るも、途中意地悪な犬に見つかってしまう。カルメンはこの犬が苦手だった。

「よお、カルメン。うまそうなもん持ったんじゃねえか。俺によこせ!」

 カルメンは犬に追いかけられ、パンをドブに落としてしまう。

 がっくりとして歩いていると、木の上からスズメのチュンに声をかけられる。

「あらカルメン、元気がないわね。一体どうしたの?」

 事情を話すと、チュンは言った。

「私はその猫と友達だから、住んでる場所まで案内してあげるわ』

「本当かい? ありがとう」

 喜んだのも束の間、チュンは不安そうな顔をした。

「だけど、途中怖いワニのいる沼を超えていかなければいけないの。私は空を飛ぶから大丈夫だけど、あなたは食べられてしまうかもしれないわ。それでもいい?」

「いいよ、僕はどうしてもあの子に会いたいんだ」

 カルメンは言った。

 二人は大きなサソリのいる暑い砂漠を抜け、熊のいる深い森を抜け、ついにワニのいる沼地へ足を踏み入れた。ワニたちはギラギラした目でカルメンたちを見た。カルメンはあまりの怖さに引き返そうと思ったが、白黒猫の顔を思い浮かべて勇気を奮い立たせた。

「僕にはどうしても会いたい女の子がいるんだ。彼女に会いたくてはるばるやってきた。どうか、そこを通してくれないかな?」

「ダメだダメだ!」と若いワニが言った。

「そうだ、ここは俺たちのすみ家だ! 知らない猫を入れるわけにはいかない!」

「帰れ、帰れ!」

 ワニたちは牙の沢山生えた口を大きく開けて、2人を追い払おうとした。

 そこにワニの長老がやってきて言った。

「ワシが出すなぞなぞに答えられたら、ここを通してやろう。とても難しいなぞなぞだが、用意はいいかい?」

 カルメンはうなずいた。長老ワニはゆっくりと口を開いた。

「この世界で、一番美しいものは何だと思う?」

 カルメンはしばらく考えたあと、答えた。

「それは、愛です」

「ほほう。どうしてそう思うのかね?」

「なぜなら、愛は何にも負けることがないからです。簡単に壊れることもありません。愛があるから、大きな恐怖や、どんな困難にも立ち向かうことができる。だからこそ、愛は何よりも尊くて美しいのです」

 長老は優しく微笑んだ。そして、一言こう言った。

「ここを通りなさい。そして、一刻も早く愛する人の元へ行くがいい」

 長老は他のワニたちに、カルメンが通れるように橋を作れと命じた。ワニたちは沼の上に橋のように一列に並んだ。カルメンはワニたちにお礼を言いながら、彼らの作ってくれた緑色のでこぼこな橋を渡って向こう岸に着いた。

 スズメに案内されて、カルメンは白黒猫のいる家に向かった。家主は日本人らしく、白黒猫はこたつの中で寝ているらしかった。こたつの前にはチェリーという白黒猫のお姉さんがいて、名を名乗るようにと言った。カルメンは自分の名前を答え、白黒猫に会うためにはるばるやってきたことを伝えた。

「中に入ってもいいけれど、彼女に失礼なことを言ってはダメよ」

 チェリーはカルメンに忠告をした。

 カルメンはこたつの中に入った。電気こたつの中はとてもあたたかかった。こたつの真ん中では、あの時の白黒の鼻の黒い猫の女の子がすやすやと眠っていた。カルメンは彼女を起こしては悪いと思い、彼女が起きるまで隣で眠ることにした。旅の疲れのために、カルメンはぐっすり眠った。目を覚ますと、白黒猫は先に起きていた。彼女はカルメンに向かって微笑んでいた。カルメンは彼女とまた会って話せることがとても嬉しかった。

「他の猫たちは私が寝ているのを起こして自分の気持ちを告げて、恋人になって欲しいと言ったわ。だけどあなたは違った。あなたは私を起こさないで、ただ隣にいてくれた。きっとあなたは、すごく優しい人ね」

 白黒猫はプラムという名前だった。カルメンはプラムに、彼女にどうしても会いたくて遠くからやってきたのだと伝えた。彼が山を越え、砂漠を越え、ワニのいる湿地を渡ってきたことを知った彼女は、余計に心を動かされた。

「私と会うためだけに、あなたは危険を犯して遠くから来てくれた。本当にありがとう。あなたこそ、私が待っていた人だわ」

 カルメンはこれを夢ではないかと思った。試しに自分の前足の肉球を齧ってみたが、ちゃんと痛かった。

 その後、二人には5匹の子どもが生まれた。カルメンとプラムは歳をとるまで、大家族で幸せに暮らした。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ヤマネ姫の幸福論

ふくろう
青春
秋の長野行き中央本線、特急あずさの座席に座る一組の男女。 一見、恋人同士に見えるが、これが最初で最後の二人の旅行になるかもしれない。 彼らは霧ヶ峰高原に、「森の妖精」と呼ばれる小動物の棲み家を訪ね、夢のように楽しい二日間を過ごす。 しかし、運命の時は、刻一刻と迫っていた。 主人公達の恋の行方、霧ヶ峰の生き物のお話に添えて、世界中で愛されてきた好編「幸福論」を交え、お読みいただける方に、少しでも清々しく、優しい気持ちになっていただけますよう、精一杯、書いてます! どうぞ、よろしくお願いいたします!

拝啓、あしながおじさん。 ~令和日本のジュディ・アボットより~

日暮ミミ♪
恋愛
現代の日本。 山梨県のとある児童養護施設に育った中学3年生の相川愛美(あいかわまなみ)は、作家志望の女の子。卒業後は私立高校に進学したいと思っていた。でも、施設の経営状態は厳しく、進学するには施設を出なければならない。 そんな愛美に「進学費用を援助してもいい」と言ってくれる人物が現れる。 園長先生はその人物の名前を教えてくれないけれど、読書家の愛美には何となく自分の状況が『あしながおじさん』のヒロイン・ジュディと重なる。 春になり、横浜にある全寮制の名門女子高に入学した彼女は、自分を進学させてくれた施設の理事を「あしながおじさん」と呼び、その人物に宛てて手紙を出すようになる。 慣れない都会での生活・初めて持つスマートフォン・そして初恋……。 戸惑いながらも親友の牧村さやかや辺唐院珠莉(へんとういんじゅり)と助け合いながら、愛美は寮生活に慣れていく。 そして彼女は、幼い頃からの夢である小説家になるべく動き出すけれど――。 (原作:ジーン・ウェブスター『あしながおじさん』)

日給二万円の週末魔法少女 ~夏木聖那と三人の少女~

海獺屋ぼの
ライト文芸
ある日、女子校に通う夏木聖那は『魔法少女募集』という奇妙な求人広告を見つけた。 そして彼女はその求人の日当二万円という金額に目がくらんで週末限定の『魔法少女』をすることを決意する。 そんな普通の女子高生が魔法少女のアルバイトを通して大人へと成長していく物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

金魚たちのララバイ

紫 李鳥
現代文学
父さん、兄さん、ふるさとの会津、そして、悪夢よ、さようなら。与志子は車窓に流れる山並みを眺めながら、心の中でそう呟いた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...