ライオンガール

たらこ飴

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第1章〜サーカス列車の旅〜

第24話  夜の宴会

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 3日間の公演が終わり最後のパレードが終わって観客がはけたあと、テントの横の原っぱにテーブルを広げ打ち上げが始まった。テントの周りを彩る三角フラッグも国旗も、ピンクやオレンジなど色とりどりの長いリボンもそのままだ。昼間と違うのは、ひっきりなしに動いていた観覧車もメリーゴーランドも絶叫マシーンもみんな寝静まったように静止していること。そして、観客たちの拍手と歓声の代わりに団員たちの解放感に満ち溢れた声と、透明な硝子の欠片を散りばめたみたいな紺色の空が広がっていることだ。

 どこかから鈴虫やコオロギの鳴き声が聴こえ、秋の終わりの少し冷たい夜風が、落ち葉や草木の香りを運んでくる。

 ピアジェはシンディや3人の女性ダンサーの座るテーブルの真ん中を無理やり陣取って、ワインボトルを片手に彼女ら相手にサーカスの極意を語り、しまいに自分のサーカス学校時代の過ぎ去った栄光をひけらかして得意顔を浮かべていた。

 経験上、自分を実際以上に実力がある偉大な存在なのだとひけらかそうとする人間ほど、本当は気が小さく自信がなく実力不足なものだ。

 段々とピアジェの自慢は理不尽な説教へと変わり、しまいに酔ったその男は女性たちの胸を卑しい手つきで触ったり尻を揉んだりし始めた。女性たちは次々に席を立ち、逃げ遅れたシンディだけが残った。少し前から気づいていたが、ピアジェはシンディのことがとりわけお気に入りみたいだ。

 私はわざとシンディの横に腰を下ろして、「団長、僕に玉乗りを教えてくれませんか?」とお願いした。ピアジェは貴重な憩いの時間を邪魔されたとばかりに顔を顰めた。

「何だと? ようやくショーが終わって楽しい時間がきたってのに」

「聞きましたよ、団長はすごい曲芸師だったんでしょう? 僕、玉乗りだけでもできるようになりたいんです。だから見せてもらえませんか?」

 スケベ団長はなおも渋っていたが、シンディが「そういえば団長のパフォーマンス、見たことないわ」と期待に満ちた表情をしたものだから、先ほどまで見るからに乗り気でなかった男は顎髭をさすって「見てみたいか?」と私の方には目もくれずシンディの方だけ見て聞いた。

「もちろん見てみたいですよ! それとも何ですか? 団長まさか、自信がないとか?」

 私の言葉に団長は顔を赤くして私を睨んだ。

「なぬっ……そんなわけないだろう、サーカス学校にいたとき、私の曲芸は天下一品と讃えられた。校長や理事長までもが一目置くほどだった」

「そりゃあすごいや! 天下一品の芸をぜひ見てみたいな! ねぇ、みんな!」

 アルフレッドやジャンなど他の団員たちも頷きながら拍手をする。どれもこれもシンディへのセクハラをやめさせる作戦だったのだが、皆の視線が集中し引くに引けなくなった団長は遂に立ち上がり、ルーファスが投げた玉乗り用のボールを手に取って険しい顔で地面に置いた。男は眉間に皺を寄せたまま私たちの方をチラチラと見た後で、「お前らよく見ておけ、今後のために……」などと作ったような虚勢を張って玉の上に乗った。

 団長はテントの方に向かって玉の上で何歩か歩いたものの、やがて前のめりに身体が傾いて「あばばばばば!!」と滑稽な悲鳴をあげた。何とか立ち直そうと必死に脚を動かすものの足元で回る玉の回転に脚の動きがついていけず、ついには玉から転落して頭からテントに突っ込んだ。

 何人かのスタッフやルチアとミラーが駆け寄って団長を起こしたが、他の団員たちは笑いを堪えていた。私も出来ることなら大声で笑いたかった。さっきまで悪行を働いていた男が、見るも無様に玉から転倒したのだ。だが笑っていることに気づかれたら、後からどんな仕打ちが待っているか分かったもんじゃない。ピアジェは恥をかいたとばかりに顔を真っ赤にして私たち一人一人を見渡したが、私は目が合う前に黙って目を逸らした。
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