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第38通 郵便屋さんの一大イベント 〜お正月の郵便屋さん③ 年賀状の早期差し出しくじ伊勢エビ編〜
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年賀状にはお年玉くじが付いているのはご存知の通りですね?
当然、書状年賀状に貼られるお年玉くじ付き切手という切手もあるわけです。
では、その年賀状を差し出しされるスタートの日付はご存知でしょうか?
それは12月15日です。
ですが、12月15日に年賀状を差し出すお客様は少ないのが現状です。
実際は元旦配達に間に合わそうと年末ギリギリに慌てて差し出す方の多い事多い事。
元旦配達に間に合わそうとすると最低でも28日に差し出さなければいけません。(地域によって異なります)
ですが、そんなにギリギリに年賀状を出されると内務作業の方も最後の大締めの日にちですから、どこまで対応できるやら?
そして、現場の集配課もどこまで対応できるのか?といった現状があります。
バブル期の当時では、とにかくお客様が年内に差し出した年賀状は全て年内に把束するのが基本線なので、郵便局によっては31日の大晦日のギリギリの時間までその作業に追われます。
で、流石に郵政の方もこのままではいけない。お客様に早く差し出してもらって、少しでも元旦に届く年賀状を増やし、そして郵便局員の負担を減らそうと考えるわけです。
そこで考えられたのが、『早期差し出しくじ』です。
これはどういったものか?
早期に年賀ハガキを買われた方にくじ付きの参加券をお渡しして、早く年賀状を差し出してもらおうというものです。
年度によってまちまちでしたが、郵便窓口や郵便局から50枚以上年賀はがきを買われた方にその券を渡して、12月25日まで(だったような記憶ですが、日にちまではうろ覚えです。すみません)に年賀状を差し出す時に住所名前を記入した参加券を一緒に輪ゴムで把束してポストに投函した方が、そのくじの対象者になります。それを郵便課の職員が回収して、抽選で何名の方に賞品が当たるとゆうパックで発送されるというものでした。
景品もその年によっていろいろありましたが、私が特に記憶に残っているのが…
『伊勢エビ』です。
しかも…生きてます!
これ、驚きませんか?
調理されている伊勢エビならまだしも、生きてる伊勢エビを『早期差し出しくじ』の景品にしたのです。
これには我々局員も驚きました。
まず疑問に思ったのは、「どうやって届けるのだろうか?」です。
発泡スチロールに入れてゆうパックで送るのか?
それとも水槽に入れて送るのか?
など、いろいろ憶測が飛びました。
しかも、発送がお正月なんです。
早期差し出しくじで伊勢エビが当選したお客様におめでたく元旦に美味しく食べてもらおうという趣旨だったのです。
ですが、くじですからね?そう簡単に当たるわけないから我々の郵便局では配達する事はないだろう?と、先輩達と話していたのですが…
*************
さて、お正月になりました。我々局員が学生アルバイトの年賀状配達の出発を見送ると、書状年賀と書留、そして少量の小包を持って出発の準備をします。
その時、郵便局が販売している小包用の小サイズの段ボール製の箱の小包が数個、当日配達の小包置き場に置いてありました。
その小包を見た先輩が、
「おい!これ、内容品に伊勢エビって書いてあるぞ?」
「え!マジですか?」
「中に入ってたりして♪」
「まさかぁ?」
と、興味本位で先輩と一緒に箱に耳を当てると…
ガサガサ…ゴソゴソ…
「おい!!伊勢エビ動いてるぞ!!」
「これ大丈夫なんですか!?水が無くても死なないんですか!?」と、慌てふためく二人。ちょっとしたパニックです。
すると別の先輩が「おが屑が入れてあって、水無しでも大丈夫らしいってさ」との事。
なんと、伊勢エビ1匹がギリギリ入るサイズの郵便局の小包用段ボール箱の中に、おが屑と一緒に生きた伊勢エビが入っているという前代未聞の小包を配達する事になったのです。
で、実際私も一箱配達しました。
お客様の玄関で呼び鈴を鳴らすとお客様が出てきます。
「おはようございます。郵便局です。小包が来てますのでハンコかサインか、お願いします」と配達証と小包を渡すのですが…
ゴソゴソ…ガサガサ…
と音がする小包を渡すとお客様も「うわあ。本当に生きてるねえ!」と驚きます。
どうやら、事前に郵便局側から当選者に何日に配達すれば良いのか連絡があったようですね。
そりゃそうですよね?生き物ですから、配達日に留守だったら死んでしまいますよね。
ですが、やはりお正月ですからね。初詣等でタイミング悪く留守の方がいるわけなんですよ。
当然、そういう場合でも不在通知書に「なまもの」の欄に印をして投函。伊勢エビは郵便局に持ち帰ります。
私が午前中の配達から帰ると小包の不在置き場に数個ばかり例の小包が置いてあり、そこから「ガサゴソ…ガサゴソ…」と音が聞こえるのはちょっとした恐怖でした。
ほとんどがその日の内に再配達の要望を受けて配達されたのですが、その通知が来ない小包もあるわけで…
不在通知を投函された次の日。
再配達希望の無い伊勢エビ小包が数個、不在置き場にまだありました。
「あの中の伊勢エビ、大丈夫ですかね?」と先輩に聞くと、ニヤリと笑いながら先輩が「ちょっと生きてるか確認してみようか?」と、留め置きされている伊勢エビ小包をユサユサと降りだすと「…ガサガサ…」と少し弱々しい音が聞こえてきます。
「お!まだ生きてるぞ!!」と笑う先輩。
正直、箱を振って生存確認する先輩の驚きの行動と笑った顔は今でも忘れませんね。
そして、日に日に箱から「ガサガサ」という音が小さくなり、そして聞こえなくなった伊勢エビ小包。
その後、留置期間1週間が経過し、差し出し人に返納されましたが、後日くじに当選された方に再度伊勢エビ小包が発送されたのかは不明でした。
いかにもバブル期らしい景品なのですが、受取人不在の場合の事までは考えられていなかった様ですね。
以上、バブル期らしい驚きの景品のお話しでした。
今回もご愛読いただきありがとうございました。
追記。
今回のお話しを書いてから、伊勢エビを生きたまま緩衝材と一緒に箱に入れて配送しているお店がある事を知りました。
今回のお話しはバブル期のその頃、そういった配達方法を知らない若者達のドタバタ劇と受け取っていただければ幸いです。
当然、書状年賀状に貼られるお年玉くじ付き切手という切手もあるわけです。
では、その年賀状を差し出しされるスタートの日付はご存知でしょうか?
それは12月15日です。
ですが、12月15日に年賀状を差し出すお客様は少ないのが現状です。
実際は元旦配達に間に合わそうと年末ギリギリに慌てて差し出す方の多い事多い事。
元旦配達に間に合わそうとすると最低でも28日に差し出さなければいけません。(地域によって異なります)
ですが、そんなにギリギリに年賀状を出されると内務作業の方も最後の大締めの日にちですから、どこまで対応できるやら?
そして、現場の集配課もどこまで対応できるのか?といった現状があります。
バブル期の当時では、とにかくお客様が年内に差し出した年賀状は全て年内に把束するのが基本線なので、郵便局によっては31日の大晦日のギリギリの時間までその作業に追われます。
で、流石に郵政の方もこのままではいけない。お客様に早く差し出してもらって、少しでも元旦に届く年賀状を増やし、そして郵便局員の負担を減らそうと考えるわけです。
そこで考えられたのが、『早期差し出しくじ』です。
これはどういったものか?
早期に年賀ハガキを買われた方にくじ付きの参加券をお渡しして、早く年賀状を差し出してもらおうというものです。
年度によってまちまちでしたが、郵便窓口や郵便局から50枚以上年賀はがきを買われた方にその券を渡して、12月25日まで(だったような記憶ですが、日にちまではうろ覚えです。すみません)に年賀状を差し出す時に住所名前を記入した参加券を一緒に輪ゴムで把束してポストに投函した方が、そのくじの対象者になります。それを郵便課の職員が回収して、抽選で何名の方に賞品が当たるとゆうパックで発送されるというものでした。
景品もその年によっていろいろありましたが、私が特に記憶に残っているのが…
『伊勢エビ』です。
しかも…生きてます!
これ、驚きませんか?
調理されている伊勢エビならまだしも、生きてる伊勢エビを『早期差し出しくじ』の景品にしたのです。
これには我々局員も驚きました。
まず疑問に思ったのは、「どうやって届けるのだろうか?」です。
発泡スチロールに入れてゆうパックで送るのか?
それとも水槽に入れて送るのか?
など、いろいろ憶測が飛びました。
しかも、発送がお正月なんです。
早期差し出しくじで伊勢エビが当選したお客様におめでたく元旦に美味しく食べてもらおうという趣旨だったのです。
ですが、くじですからね?そう簡単に当たるわけないから我々の郵便局では配達する事はないだろう?と、先輩達と話していたのですが…
*************
さて、お正月になりました。我々局員が学生アルバイトの年賀状配達の出発を見送ると、書状年賀と書留、そして少量の小包を持って出発の準備をします。
その時、郵便局が販売している小包用の小サイズの段ボール製の箱の小包が数個、当日配達の小包置き場に置いてありました。
その小包を見た先輩が、
「おい!これ、内容品に伊勢エビって書いてあるぞ?」
「え!マジですか?」
「中に入ってたりして♪」
「まさかぁ?」
と、興味本位で先輩と一緒に箱に耳を当てると…
ガサガサ…ゴソゴソ…
「おい!!伊勢エビ動いてるぞ!!」
「これ大丈夫なんですか!?水が無くても死なないんですか!?」と、慌てふためく二人。ちょっとしたパニックです。
すると別の先輩が「おが屑が入れてあって、水無しでも大丈夫らしいってさ」との事。
なんと、伊勢エビ1匹がギリギリ入るサイズの郵便局の小包用段ボール箱の中に、おが屑と一緒に生きた伊勢エビが入っているという前代未聞の小包を配達する事になったのです。
で、実際私も一箱配達しました。
お客様の玄関で呼び鈴を鳴らすとお客様が出てきます。
「おはようございます。郵便局です。小包が来てますのでハンコかサインか、お願いします」と配達証と小包を渡すのですが…
ゴソゴソ…ガサガサ…
と音がする小包を渡すとお客様も「うわあ。本当に生きてるねえ!」と驚きます。
どうやら、事前に郵便局側から当選者に何日に配達すれば良いのか連絡があったようですね。
そりゃそうですよね?生き物ですから、配達日に留守だったら死んでしまいますよね。
ですが、やはりお正月ですからね。初詣等でタイミング悪く留守の方がいるわけなんですよ。
当然、そういう場合でも不在通知書に「なまもの」の欄に印をして投函。伊勢エビは郵便局に持ち帰ります。
私が午前中の配達から帰ると小包の不在置き場に数個ばかり例の小包が置いてあり、そこから「ガサゴソ…ガサゴソ…」と音が聞こえるのはちょっとした恐怖でした。
ほとんどがその日の内に再配達の要望を受けて配達されたのですが、その通知が来ない小包もあるわけで…
不在通知を投函された次の日。
再配達希望の無い伊勢エビ小包が数個、不在置き場にまだありました。
「あの中の伊勢エビ、大丈夫ですかね?」と先輩に聞くと、ニヤリと笑いながら先輩が「ちょっと生きてるか確認してみようか?」と、留め置きされている伊勢エビ小包をユサユサと降りだすと「…ガサガサ…」と少し弱々しい音が聞こえてきます。
「お!まだ生きてるぞ!!」と笑う先輩。
正直、箱を振って生存確認する先輩の驚きの行動と笑った顔は今でも忘れませんね。
そして、日に日に箱から「ガサガサ」という音が小さくなり、そして聞こえなくなった伊勢エビ小包。
その後、留置期間1週間が経過し、差し出し人に返納されましたが、後日くじに当選された方に再度伊勢エビ小包が発送されたのかは不明でした。
いかにもバブル期らしい景品なのですが、受取人不在の場合の事までは考えられていなかった様ですね。
以上、バブル期らしい驚きの景品のお話しでした。
今回もご愛読いただきありがとうございました。
追記。
今回のお話しを書いてから、伊勢エビを生きたまま緩衝材と一緒に箱に入れて配送しているお店がある事を知りました。
今回のお話しはバブル期のその頃、そういった配達方法を知らない若者達のドタバタ劇と受け取っていただければ幸いです。
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