郵便屋さんとスーパーカブとその日常。

げこすけ

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第29通 郵便屋さんの一大イベント。 年末繁忙期編11 〜地獄の3丁目後編〜

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さて、後編です。
原付が乗れるアルバイトMAさんですが、自転車で配達する高校生よりもスピードが遅い。

とりあえず少し様子を見てみようと考えましたが…

遅いんです。
随伴訓練が終わって三日経ちましたが、同じ日にアルバイト採用された自転車配達の高校生よりも配達が遅いんですよ。ダントツに。
仕方無しに配達の分量を少なくしましたが付け焼き刃のようなもので、その分私の仕事量に負担が来ます。

ベテラン配達員の副班長のMTさんにその事を相談すると
「お前の教え方が下手なんちゃうんか?」

はあ?

これには腹が立ちました。
「一回、MAの配達を見てみてよ!
毎回毎回、センタースタンド立ててゆっくり歩いて配ってるんですよ?
教え方の問題じゃないよ!?」
「お前なあ?
それもキチンと教えるんや。
自分の教え方があかんのやろ?
せっかくお前にバイクが乗れるバイトを付けてやったのにきちんと仕事教えろよ?あかんやっちゃな!」

これには唖然としました。
嘘やろ?俺が悪いの?
そんなアホな。俺、めっちゃ教えてるよ?

その頃は、以前にもお伝えしましたが年賀状のピークの時代です。
ただでさえ多い年賀状の内務作業を少しでも早く終わらせたいのに配達がおぼつかないバイトがいる。
それが自転車に乗る高校生ならまだ良いんです。
こちらも親身になってフォローしますよ?
ですが、大学生で車の免許を持っていて50ccのカブに乗って配達できる。
なのに自転車の高校生より仕事ができない。
カブに乗れる分、自転車で配達する高校生の分量より当然多く郵便物を持たせれるはずが、自転車で配る分量より少ない。
その分、私が配達してカバーをするので内務作業に着手する時間が遅くなり、内務作業が遅れる。
この負の連鎖に怒りとストレスもMAXです。

そして、迎えた元旦。
自分の担当の年賀状や書状年賀、書留等の配達が終わると、今度は高校生バイトの年賀状の進み具合を確認しにカブを走らせます。
私の担当の高校生バイトは順調に進んでおり、あと少しで配達が終わりそうです。
よしよし♪
次にMAさんの進み具合を見に行くと…

年賀状配達をしているMAさんの姿を見て唖然としました。

当時の元旦の年賀状は今と違って、ほとんどの家に配達するほどの物量があります。
MAさんの配達速度を考えて物量を少なく考慮していてもカブのリアファイバーの半分は軽く年賀状で埋まります。
その重さは通常郵便物の比ではありません。
その重いカブを一軒一軒停まる度に相変わらずセンタースタンドを立てて配達しているのです。

嘘だろ…!?
高校生のバイト君達はもう終わりそうなのに、MAさんはまだ半分しか配達してない…

何度もセンタースタンドではなくサイドスタンドを掛けて停まるように言いました。
MAさんが乗っているカブに私が乗って停まるときはサイドスタンドを掛けるようにMAさんの目の前で実演しても、彼はサイドスタンドを使わずに、重たい車体を引き起こしてセンタースタンドで停まるのです。

もう、私の心も限界を超えました。

「MAさんお疲れ!
まだ、年賀状半分あるんやね?
頑張って!」
と、一声かけてそのままその場を立ち去ったのです。

ダメだこの人。どんだけ言っても人の言う事聞かない。
俺が手伝うのを待っているのか?
甘えるなよ!?ふざけんな!!

と、怒りが収まらないまま郵便局に戻り、高校生バイトが戻るのを待ちながら局内作業を始めました。

11時半も過ぎた頃、ベテラン局員の副班長が配達から帰ってくると、開口一番に私に怒鳴りました。
「おい!!お前!MAのフォロー入ったんか!?
あいつ、まだ配達しとったぞ!!」

「あんなヤツ、ほっとけば良いんですよ!!」と私も怒り心頭です。

「あほっ!!
年賀状は午前中に配達完了が原則やぞ!!もう昼やないか!!
早くフォローに行ってこい!!!!」
と怒鳴るので仕方無しにMAさんのフォローに出発です。
「くそ!そんなに言うんなら自分が手伝ってやれば良いだろ!!」と文句を言いながらMAさんを見つけ、残りの年賀状を手分けして配達しました。配達が終わったのは13時過ぎ。
私は昼休憩もろくに取れずに昼からの通常郵便の配達に出るハメになったのです。

そして、元旦の年賀状配達が終わりMAさんが私に言いました。
「私ってこの仕事に向いてないかもしれません」
「そうやね」
少し冷たいセリフかもしれませんが、13連勤で自分の思っていた通りの仕事が進まないそのストレスの中、MAさんの行動にはとても耐えることができませんでした。

この会話がMAさんと交わした最後の会話となり、その日を最後にMAさんは1月1日元旦付けで配達アルバイトを辞めたのです。

そして時は流れ、その5年後。

私は新人の頃から配属していた第二集配課から第一集配課に移動になり新しい班で日々業務に励んでおりました。
ただ、この新しい班は郵便配達量に比べると人員配置が追いついていない。
要は人手不足な班で、平日配達ができるアルバイト員を日々募集している状態でした。

そんなある日…

配達が終わり、ふと課長席に置いてあった求人募集に応募してきたアルバイトの履歴書が目につき驚愕しました。

勘のいい人ならもうお分かりですよね?
そう。MAさんの履歴書があるんですよ。

その事を班長に聞いてみますと
「おう?今度新しくアルバイトが入るんやけどな?ウチの班か他の班かどっちかに入るみたいやわ」

数年前のあの悪夢が蘇った私は、
「いやいや、あの人はやめた方が良いですよ!今回はよその班に譲って、次に採用されるアルバイトをうちの班に入れた方が良いですよ!」と私の年末年始の事の経緯を班長に説明します。
「そうか?まあ、お前がそんなに言うんやったらしゃあないなあ。今回はよその班に譲るか?」
「絶対その方が良いですよ!!」と班長も納得し、今回のMAさんの採用は我が班では見送る事にしました。
それにしても、自分自身郵便局の仕事は私には合わないと言っていたのに求人募集に応募するなんて…
人はわからないものですね?

それから数日後に別の班で採用されたMAさんは3日後にアルバイトを辞めたそうです。
きっと彼は辞める時にこう呟いたのでしょう。

「私ってこの仕事に向いてないかもしれません」と。

今回もご愛読ありがとうございました。
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