アラサー女子、銭湯にハマる

りー

文字の大きさ
上 下
1 / 3

アラサー女子、銭湯にハマる1

しおりを挟む
私の名前は池内 泉。
27歳、アラサーで会社員をしている。
見た目は細身で、身長は170cmと女性の中では高身長の部類に入るだろう。
髪は茶髪のロングヘアでいつもポニーテールとスーツにズボン姿で清潔感のある見た目を目指している。
顔はつり目でクールな顔だと言われることが多いが、自分では父親似の男顔だと思う。

仕事は営業事務として日々残業をしながら必死に働いている。忙しくてしんどい事も多いが、やりがいを持って仕事に取り組んでいる。

趣味は銭湯巡り。
近所の銭湯に行ったり、新しい銭湯を開拓するのもどちらも好きである。
仕事帰りに銭湯へ行くのが日課になっている。

今日は残業で帰りが遅くなり、お腹が減っていた。
近所の銭湯へ寄る前に、近くのコンビニで夕飯を買う事にした。

コンビニのドアが開くと、一目散にご飯のエリアへと急ぎ、鮭おにぎりとツナおにぎり、なめこのお味噌汁を手に取ってレジへと向かった。

ルンルン気分でコンビニを後にすると、銭湯へと急いだ。

今日行く銭湯は、京急蒲田駅から徒歩10分の天神湯という銭湯である。
比較的新しくて綺麗な建物である。
外階段を上って2階のロビーに向かった。靴を脱いでから靴箱を入れてロビーへと入った。

店内は空いており、ロビーに入ると軽食が食べられるスペースとテレビとソファーが置いてあって、そこにはくつろいでいる人が居たり、ビールを飲んでいる人も居る。
自由な雰囲気で、皆各々にリラックスしているのがとても良い。
1人で来ている人、家族で来ている人など様々な人がおり、幅広い年代の人が来ていることもあり居心地がいい。
先程購入したおにぎりと味噌汁を取り出し、軽食が食べられるスペースへと向かった。

軽食が食べられるスペースには、机と椅子が4セットほどあり、窓際にはカウンター席が2席ほどある。私は景色を見ながら食べたかったので、カウンター席へ座った。
入口の近くに給湯器があり、お湯と水が出せるようになっている。お味噌汁のお湯を貰いに席を離れた。
コポポポ…とお湯を注ぐと、こぼさないようにカウンター席へと戻った。
お味噌汁を飲んでから、鮭おにぎりを食べた。白米が大好きなのでコンビニに行くとついついおにぎりを買ってしまう。
あっという間に鮭おにぎりを食べ終わると、ツナおにぎりを食べた。こんな時、お米の美味しい日本に生まれて良かったと心から思う。残業を頑張ったし、もう1個おかかのおにぎりを買えば良かったなと後悔していた。

お味噌汁の中で1番好きな具である、なめこの味噌汁をゆっくりと飲んだ。疲れている時の塩分はなんて美味しいんだろうと改めて感動した。

ご飯を食べ終わると少し休憩することにした。
休憩する時は決まって、外を眺めながら水を飲んでいる。
席を立ち、ガラスのコップを取ってから水を注いだ。
ひんやりと冷たくて甘い軟水でとても美味しい。

銭湯巡りを始めた当初は、食後に必ずSNSを見ていた。
SNSでいいねをもらうため、写真映えするように時間をかけて写真を撮っていた。
必死に写真を撮っているうちにいいねをもらうために労力を使いすぎて、疲れてしまったのでSNSを辞めた。
SNSを辞めてからは写真を撮らなくなり、気持ちが楽になった。
今は自分だけのために行ったような特別感を得られている。

休憩したらお腹が落ち着いてきたので、荷物をまとめて席を立った。
券売機で券を購入し、1階の女湯へと移動した。日替わりで交互にお風呂を楽しむことが出来るのも魅力的だ。

1階は広くて大きなフロアで壁の脇にはロッカーがあり、荷物や服を置くことができる。
フロアは広々としていて、開放感のある空間だ。
自動販売機が2台あるので、お風呂からあがったら水分補給が出来るのも有り難い。

服を脱いで、髪をお団子に結び、タオルで体を隠し、転ばないようにゆっくりとお風呂の入口のドアを開けて、中に入った。

水道と鏡が10席ほどあり、白いタイルを基調とした清潔感のある床が広がっている。
ブラックシリカの湯という黒い湯は、遠赤外線効果で温まると好評だ。
中央にあるのは1番広くて透明な風呂があり、脇には電気風呂がある。外には露天風呂がある。
お風呂の種類が多数あって、どのお風呂から入ろうかと悩めるのも楽しみの一つだ。
今日は女湯が1階のお風呂だが、男湯は3階で丸い形の高温のお風呂、ジェットが足元と肩に当たるお風呂、外にはジャグジーがある。広くてプールのような浴槽なので人が多くてもゆっくり浸かることが出来るのである。

まずはシャワーで頭と身体を洗った後に湯船に浸かるのが、私のお風呂のルーティーンだ。
頭を洗うために風呂桶に水をためて頭にお湯をかけた。
お湯が空になると、床に風呂桶を置いた。
カポーンという音が響くと、銭湯に来たなと実感する。この音がとても好きで何度も聞きたくなる。
シャンプーは少しお高めのボタニカルなシャンプーを使い、トリートメントは艶髪になるといわれている高保湿なものを使ってヘアケアを楽しんでいる。

仕事が忙しくて余裕がなくなると不機嫌になって、人に厳しくしてしまうことが増えたことに気が付いた。
自分の機嫌を取るには何が必要かと考えた時に、好きな物に時間を使うべきだと思いついたのだ。

幸せになる為には、身も心も温まる湯船に入ってポカポカになる事が大事だと気付き、家のお風呂から大きなお風呂へと入りたくなり、銭湯巡りにハマったのだった。

大好きなシャンプーとトリートメントの香りに癒される。
しっかりと髪の毛を絞り、持ってきたタオルで頭を包んだ。

体を洗うのは小さなサイズの石鹸である。持ち運びやすくするために、小さいサイズのものと決めているので、香りは特にこだわっていない。

体を洗い終わると、まず近くにある大きなお風呂に入った。温度は高めで段々と体が赤くなっているのが目に見えて分かる。
ポカポカと熱くなり、体の芯まで温まって火照っていった。

次に、ブラックシリカの湯へと入った。この銭湯の名物であるこのお湯は灰色に近い黒で、少し燻されたような香りで独特だ。何故か懐かしくて落ち着く香りである。
温度は39度とぬるめに設定されていて、長めに入ることが出来そうだ。
浴槽自体はそれほど広くはないが、端に浴槽があるので何となく落ち着く。
電車やカフェでも端の席が落ち着くので、多分そんな感覚なんだと思う。

暑くなってきたため、気分を変えて電気風呂へと入った。
銭湯によってはたまに見かけるが、あまり見かけなくなってきたように思う。
電気風呂へ入ると、ピリピリと軽い刺激を感じた後は、マッサージの電気治療を受けている時のような感覚に陥った。
痛気持ちいというのはこんな感覚かなと思いながら浸かっていると、近くに居たおばあさんが話しかけてきた。
「あなた、怖くないの?私はね、この銭湯に通って10年以上になるけど、未だに怖くて電気風呂に入れないの。」
おばあさんは、私が入っている様子を少し離れた場所から見ながら話している。
「そうなんですか。感電しないか怖いですよね。」
「そうなの!こんな年になっても怖いものがあるのは恥ずかしいわ。」
声のトーンが大きくなり、両手を振りながら、おばあさんは興奮気味に私を見て言った。
「怖く感じるものに年齢は関係ないですよ。私も勇気を出して、ようやく入れましたよ。」
小さい頃に初めて入った時は、若干痛くて叫んだことを思い出した。
「ほんのちょっとの勇気よね。今から挑戦してみようかしら。」
少しずつ電気風呂へと近付いてきた。
おばあさんは電気風呂に片足を入れた。
「はっ…!こんな感覚なのね!思ったよりも痛くないわ!」
入れた方の足をバタバタと動かしながら、目を見開いて言った。
「挑戦おめでとうございます!痛くなくて良かったです。」
「ありがとう!あなたのお陰で新しい挑戦が出来たわ。」
おばあさんは嬉しそうに話しているが、それ以上電気風呂へと入ろうとしていない。挑戦できたのは嬉しかったのだろうが、やはり恐怖心は拭えないのが見えて、少し面白かった。
「いえいえ、私は何もしていないですよ。」
「見届け人が居てくれるのは心強いのよ。ああ、今日はよく眠れそうだわ。」
私に手を振ってそう言うと、別のお風呂へと移動していった。
私がおばあさんになった時、苦手なものに挑戦出来るおばあさんになりたいなと思いながら、おばあさんを見送った。

結構暑くなってきたので、気分転換に露天風呂へと行くことにした。
外のドアを開けると風が吹いていて、涼しい。冬の屋外は寒いけど、お風呂で温まった体にとってはその寒さが心地良く感じるのである。

体が冷えないように気持ちだけ小走りで向かった。
露天風呂というように、お風呂の周りは岩で囲まれている。奥には滝のような上からお湯が降ってくるジェットがあり、温泉さながらの雰囲気が楽しめる。
滝のようなデザインのジェットはちょうど頭と肩に当たるようになっているので、体がほぐれて気持ちが良い。

外には満天の星空が広がっていて、とても綺麗で心が洗われる気持ちになった。
奇跡的に流れ星が流れていったのが見えた。
「沢山の銭湯へ行けますように!」
流れ星に願いを込めた。
お風呂に入りながら流れ星を見ることができて、心豊かな時間を過ごせた。

いつもは忙しくて星空なんて見上げる余裕なんて全く無かったので、とても贅沢な時間を過ごせて満足である。
星を見ていると猛烈に眠くなって来てしまったので、お風呂から出ることに決めた。

最後にシャワーを浴び、タオルで体の水分を拭き取ると外のロッカーへと向かった。
汗を拭いながら、洋服へと着替えて髪の毛をタオルで拭いた後、小銭を出してドライヤーでしっかりと髪を乾かした。
冬の夜道は思った以上に冷えるので、湯冷めをしないようにする。

髪を乾かし終わると、ずっと楽しみにしていたコーヒー牛乳を購入することにした。
自動販売機の購入ボタンを押すと、ゴトンという音と共にコーヒー牛乳が落ちてきた。
早く飲みたい一心で蓋を開けると、乾いた喉を潤した。
銭湯の相棒であるコーヒー牛乳はお風呂のオアシスであり、甘くて苦いハーモニーで心を満たしていった。
まだ喉が渇いていたので、もう一個の自動販売機で飲み物を買うことにした。
お茶、サイダー、ジュースなど沢山の種類があって悩んでいたが、500mlの缶のサイダーを飲むことにした。
自動販売機のボタンを押すと、サイダーが落ちてきた。ひんやりと冷たい缶を顔に当てて、涼しくなった。
プシュっと蓋を開けると、シュワシュワと炭酸が弾ける音が聞こえてきた。
「これよ、これこれ。」
ビールを待ち侘びるおじさんのような反応をしながら、サイダーを一気に飲んだ。
「プハー!うまい!」
大きな独り言を言ったことに気付き、恥ずかしくなった。
そんな事よりもサイダーを飲もうと思い、サイダーの爽やかな甘さを堪能した。

サイダーを飲みきったので、身支度を整えると階段をのぼり、下駄箱へと移動した。
下駄箱で靴を履いて、外階段を降り、外へと出た。

すっかり夜は深くなり、周りに歩いている人はほとんど居なかった。
早く帰って眠りたいと思い、運動も兼ねて軽く小走りをしながら家へと向かった。

鍵を開けて家に着くと、無事に着いた安堵感と体が温まり、幸福感で満たされている。
急いでパジャマに着替えてから、スマホで電子書籍を開き、読書を始めた。
最近、スマホで読書をする事にハマっていて、寝る前の儀式のように読書をするのである。
今日読んでいる本は銭湯特集をしている雑誌だ。
次に行く銭湯をどこにするかを考えるための参考資料として読んでいる。次に行く銭湯は改正湯というところにしようと思う。
魚が泳ぐお風呂屋さんと言われて有名だそうだ。魚が泳ぐ姿を見ながら、お風呂に入ることが出来る銭湯なんて、想像しただけで癒される。

雑誌を読み終えると、スマホのアラームを設定してからすぐにお布団へ入った。

いつ改正湯へ行こうかと考えながら、眠りについた。


※こちらはnote、アルファポリス、小説家になろうで公開しています。
しおりを挟む

処理中です...