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10.未来の2人
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「リコぉ~!きっれーい!なんか泣いちゃいそう!」
私の周りに来てくれたハルカが本当に目を潤ませているのを見て、なんだか私までうるっとしてしまった。鼻がツーンとする。
今日は私と相良の結婚式だ。
相良と付き合い始めてから半年後には同棲を始め、すぐにお互いの両親への挨拶を済ませた。それから1年後の今日、私は学生時代から憧れていたホテルで挙式を迎えたのだ。
教会はガラス張りの教会で、新郎と神父の先には水平線に広がる海が見える。バージンロードを歩くとき、相良よりも綺麗な海を見て感動していたことは一生相良には内緒にするつもりだ。
今、相良は隣で借りて来たお人形のように静かに座っている。きっと正面奥に座っている学生時代からの友人たちの視線が耐えられないんだろう。スマホを向けられているのも恥ずかしさを助長しているに違いない。もちろん私も恥ずかしいけれど、一生に1度しかないのでなんとか耐えている状態だ。
「それにしても、相良とリコがねぇ~」と言いながらニヤニヤと見て来るハルカにも、相良は何も言い返さずに黙って照れたような表情を浮かべているだけだ。
ふと、相良のお父さんとお母さん、私の両親がみんなの席を周ってお酌をしてくれている姿が視界に入った。
相良のご両親にご挨拶に行ったときのお二人と言ったら、それはもう凄い驚きようだった。
「ウチの息子でいいんですか」
「こんな気の利いたことの1つも言えない息子で」
「どこか悪い所があったら直させますので、遠慮なく私達に言ってくださいね」
と、かなり前のめりになってくださった。てっきり相良が口下手なのはご両親のどちらかに似たのかなと思ってたんだけど、どうやら逆で、ご両親がたくさん喋ってくるので相良が話すより前に話が終わっていることが多かったらしい。
それから、元々小さいころから女の子と喋るのが苦手だったことなんかも聞かせてもらったりして、とても楽しいご挨拶の時間だった。
今日、こんなにたくさんの人たちが私達のために集まってくれて、笑顔で過ごしてくれているのを見ると心の底から幸せだなぁと感じる。
会場を見渡していたら、相良の同級生が相良を取り囲むようにやってきた。その中には以前テーマパークでダブルデートをした翔さんとカノンさんもいる。
「この度はおめでとうございます」
「おめでとうございまーす!」
翔さんに続いてカノンさんもお祝いの言葉を述べてくれる。あの日以来会ってなかったけど、2人が変わらず付き合っていることは相良から聞いていた。
「リコさん、すっごくキレイ~~~!翔くん、私も着たいなぁ」
「落ち着いたらドレス着れるから、それまで待てよ」
「はあい」
カノンさんはぷくっとほっぺを膨らませていじけてみせる。
「あの。落ち着いたらって?お2人も結婚するんですか?」
「あー・・・。そうなんです。実はカノン、妊娠してまして。今からだと準備やらなんやらでカノンに負担がかかると思うので、こどもが生まれてから3人で結婚式を挙げようかと」
翔さんの突然の発言に、隣にいる相良はびっくりした顔をしていて、他の同級生たちは歓喜の声をあげていた。
何事かとこちらを見る周囲の人々に「このカップルも結婚するそうです~!」と誰かが説明すると、会場からたくさんの拍手が送られた。
翔さんは申し訳なさそうに頭をペコリと下げると、カノンさんを連れて席に戻る。
「今日の主役は2人だから。邪魔するわけにいかないんでね」
そういうと、翔さんはカノンさんの腰に手を回して席へと戻って行った。
「なんか、嬉しいこと続きだね!」
相良に話しかけると、「・・・・・・うん、びっくりした」と一言だけ呟いた。
『赤ちゃん、か』
相良と具体的に話したことはないけど、いつか私と相良の間にも赤ちゃんがやって来てくれるのだろうか?
家族が増えたらきっと楽しくなるだろう。子どもも相良に似て無口になるのか、それとも義父母のようにお喋りになるのだろうか。男の子かな、女の子かな、なんて早すぎる妄想までしてしまう。
♢♢♢
そしてそろそろ結婚式もお開きの時間。私と相良は一足先に披露宴の会場から退席し、みんなをお見送りするために出口の外で待機する。
「・・・・・・リコ、大丈夫?」
私のヒールを心配してくれているのか、相良が私の腰を抱きよせて伺う。
「大丈夫だよ、これくらいのヒールなら!それよりドレスがちょっとキツいかも!」
「・・・・・・でも、今日のリコ、すごくキレイだよ」
式場のスタッフさんには聞こえないように、相良が耳元で私にささやく。
「ありがとう。相良もとってもかっこいいよ」
相良は照れたように微笑む。
そして私たちは笑顔でみんなを見送り始めた。
♢♢♢
「疲れたねぇ~~~」
私達の式は無事にお開きになり、今夜は式場のホテルに宿泊することになっていた。
私は普段着に着替えてだらけてベッドの上に横になる。
「それにしても翔さんとカノンさんのこと、びっくりしたよね!相良知ってた?」
「・・・・・・いや、聞いてなかった」
カノンさんが安定期に入るまでは誰にも言わないでいたとかそういうことかもしれない。
「・・・・・・リコは、早く赤ちゃん欲しい?」
「えっ!?授かりものだし、ど、どうかな~?」
式の最中に妄想してましたなんて恥ずかしいので笑ってごまかす作戦に出てみる。年齢の事を考えたらそりゃ早い方がいいに決まっているけど、相良は子ども好きなのかな。
相良が私の顔の両隣に腕を立て、私を逃げられないよう囲む。
「・・・・・・赤ちゃんも欲しいけど、まだリコのこと独り占めしたい」
いつもと違う雰囲気の相良に、私は今でもこうしてドキドキさせられてしまう。相良はそのまま私にキスをする。なんだかそのままいい雰囲気になってしまいそうなのを察知して、私はそっと相良を押し返す。
「湯舟に浸かりたいかも!ほら、今日疲れたし、汗かいたし!」
「・・・・・・入れてくる。湯舟広かったから、一緒に入ろう?」
「え、それは」
私の返事も聞かず、相良は浴槽へと姿を消した。
私達は今日スタートしたばかり。そして、そう遠くない未来、私と相良には可愛い家族がやって来ることを、この時の私達はまだ知らなかった。
終わり
私の周りに来てくれたハルカが本当に目を潤ませているのを見て、なんだか私までうるっとしてしまった。鼻がツーンとする。
今日は私と相良の結婚式だ。
相良と付き合い始めてから半年後には同棲を始め、すぐにお互いの両親への挨拶を済ませた。それから1年後の今日、私は学生時代から憧れていたホテルで挙式を迎えたのだ。
教会はガラス張りの教会で、新郎と神父の先には水平線に広がる海が見える。バージンロードを歩くとき、相良よりも綺麗な海を見て感動していたことは一生相良には内緒にするつもりだ。
今、相良は隣で借りて来たお人形のように静かに座っている。きっと正面奥に座っている学生時代からの友人たちの視線が耐えられないんだろう。スマホを向けられているのも恥ずかしさを助長しているに違いない。もちろん私も恥ずかしいけれど、一生に1度しかないのでなんとか耐えている状態だ。
「それにしても、相良とリコがねぇ~」と言いながらニヤニヤと見て来るハルカにも、相良は何も言い返さずに黙って照れたような表情を浮かべているだけだ。
ふと、相良のお父さんとお母さん、私の両親がみんなの席を周ってお酌をしてくれている姿が視界に入った。
相良のご両親にご挨拶に行ったときのお二人と言ったら、それはもう凄い驚きようだった。
「ウチの息子でいいんですか」
「こんな気の利いたことの1つも言えない息子で」
「どこか悪い所があったら直させますので、遠慮なく私達に言ってくださいね」
と、かなり前のめりになってくださった。てっきり相良が口下手なのはご両親のどちらかに似たのかなと思ってたんだけど、どうやら逆で、ご両親がたくさん喋ってくるので相良が話すより前に話が終わっていることが多かったらしい。
それから、元々小さいころから女の子と喋るのが苦手だったことなんかも聞かせてもらったりして、とても楽しいご挨拶の時間だった。
今日、こんなにたくさんの人たちが私達のために集まってくれて、笑顔で過ごしてくれているのを見ると心の底から幸せだなぁと感じる。
会場を見渡していたら、相良の同級生が相良を取り囲むようにやってきた。その中には以前テーマパークでダブルデートをした翔さんとカノンさんもいる。
「この度はおめでとうございます」
「おめでとうございまーす!」
翔さんに続いてカノンさんもお祝いの言葉を述べてくれる。あの日以来会ってなかったけど、2人が変わらず付き合っていることは相良から聞いていた。
「リコさん、すっごくキレイ~~~!翔くん、私も着たいなぁ」
「落ち着いたらドレス着れるから、それまで待てよ」
「はあい」
カノンさんはぷくっとほっぺを膨らませていじけてみせる。
「あの。落ち着いたらって?お2人も結婚するんですか?」
「あー・・・。そうなんです。実はカノン、妊娠してまして。今からだと準備やらなんやらでカノンに負担がかかると思うので、こどもが生まれてから3人で結婚式を挙げようかと」
翔さんの突然の発言に、隣にいる相良はびっくりした顔をしていて、他の同級生たちは歓喜の声をあげていた。
何事かとこちらを見る周囲の人々に「このカップルも結婚するそうです~!」と誰かが説明すると、会場からたくさんの拍手が送られた。
翔さんは申し訳なさそうに頭をペコリと下げると、カノンさんを連れて席に戻る。
「今日の主役は2人だから。邪魔するわけにいかないんでね」
そういうと、翔さんはカノンさんの腰に手を回して席へと戻って行った。
「なんか、嬉しいこと続きだね!」
相良に話しかけると、「・・・・・・うん、びっくりした」と一言だけ呟いた。
『赤ちゃん、か』
相良と具体的に話したことはないけど、いつか私と相良の間にも赤ちゃんがやって来てくれるのだろうか?
家族が増えたらきっと楽しくなるだろう。子どもも相良に似て無口になるのか、それとも義父母のようにお喋りになるのだろうか。男の子かな、女の子かな、なんて早すぎる妄想までしてしまう。
♢♢♢
そしてそろそろ結婚式もお開きの時間。私と相良は一足先に披露宴の会場から退席し、みんなをお見送りするために出口の外で待機する。
「・・・・・・リコ、大丈夫?」
私のヒールを心配してくれているのか、相良が私の腰を抱きよせて伺う。
「大丈夫だよ、これくらいのヒールなら!それよりドレスがちょっとキツいかも!」
「・・・・・・でも、今日のリコ、すごくキレイだよ」
式場のスタッフさんには聞こえないように、相良が耳元で私にささやく。
「ありがとう。相良もとってもかっこいいよ」
相良は照れたように微笑む。
そして私たちは笑顔でみんなを見送り始めた。
♢♢♢
「疲れたねぇ~~~」
私達の式は無事にお開きになり、今夜は式場のホテルに宿泊することになっていた。
私は普段着に着替えてだらけてベッドの上に横になる。
「それにしても翔さんとカノンさんのこと、びっくりしたよね!相良知ってた?」
「・・・・・・いや、聞いてなかった」
カノンさんが安定期に入るまでは誰にも言わないでいたとかそういうことかもしれない。
「・・・・・・リコは、早く赤ちゃん欲しい?」
「えっ!?授かりものだし、ど、どうかな~?」
式の最中に妄想してましたなんて恥ずかしいので笑ってごまかす作戦に出てみる。年齢の事を考えたらそりゃ早い方がいいに決まっているけど、相良は子ども好きなのかな。
相良が私の顔の両隣に腕を立て、私を逃げられないよう囲む。
「・・・・・・赤ちゃんも欲しいけど、まだリコのこと独り占めしたい」
いつもと違う雰囲気の相良に、私は今でもこうしてドキドキさせられてしまう。相良はそのまま私にキスをする。なんだかそのままいい雰囲気になってしまいそうなのを察知して、私はそっと相良を押し返す。
「湯舟に浸かりたいかも!ほら、今日疲れたし、汗かいたし!」
「・・・・・・入れてくる。湯舟広かったから、一緒に入ろう?」
「え、それは」
私の返事も聞かず、相良は浴槽へと姿を消した。
私達は今日スタートしたばかり。そして、そう遠くない未来、私と相良には可愛い家族がやって来ることを、この時の私達はまだ知らなかった。
終わり
応援ありがとうございます!
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