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第2章 北楊村編

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とうとう北楊村へ発つ日がやってきた。
途中までは馬車で、道が険しくなったら徒歩ということになっていた。
それぞれの荷物を持ち、馬車の中でゆらゆらと揺れる。
晏寿は初めての馬車で落ち着かず、ずっとそわそわしていた。

景雲は慣れたもので、優雅に外を眺めている。
秀英はというと。

「…秀英、大丈夫?」
「…問題ない」

乗り物に弱いらしく、顔を青くしていた。
晏寿は秀英の様子を見て、合格発表の日を思い出していた。
あの日、秀英は乗り物を用意していなかった。
身分の高い人であれば、だいたいの移動は車で行う。
それなのに、秀英は近いからと言って徒歩で帰った。
これらのことから、秀英は乗り物に弱いのではと晏寿は考えていた。

そういう人間らしい部分を発見すると、急に秀英に親近感が湧いてくる。
つい晏寿は秀英を見て笑みを漏らしてしまい、景雲に見られからかわれてしまうのだった。


と、そんな楽しい道中(秀英にとっては苦痛)は馬車の中だけで。
険しい、馬車の通れない道になると会話すらなくなってくる。
馬車の中とは一転して、秀英は揚々と険しい道を歩く。
景雲は何故秀英が平気なのか疑問で仕方なかったが、晏寿は乗り物の苦手な秀英は日ごろから歩いているので平気なのではという察しができていたので、特に変に思うこともなかった。

「晏寿」
「はい?」

先頭を行く秀英から名前を呼ばれる。
ちらりと背後の晏寿を見た。

「大丈夫か?」
「平気。心配してくれてありがとう。
でも、体力はあるから」

前回心配云々で揉めたものの、心配してくれたことを素直に受け入れようと思った晏寿。
秀英の言葉のこの言葉にも素直に礼を言うことができた。

やはり、あの時の口論は互いのことを理解するには大事なことだったのかもしれない。

晏寿がそう感じていると、景雲の枯れてしまいそうな声がした。


「秀英、俺はもう駄目だ…」
「そうか」
「せめて、休憩を…」
「先に行っているから、後から来い」
「は!?俺に労りの言葉は?
晏寿みたいにかまってくれよ!
俺はもう駄目なんだ」
「それだけ口が動けば平気だろう」

秀英の冷たい態度に何度も意見するが、晏寿も景雲は平気だなと感じためそのままにしておくことにした。


朝出発して半日かかって北楊村に着いた。
村を見て、晏寿達は言葉を失ってしまう。

そこには秀英が説明したものよりもずっと荒んだものが広がっていた。

建物は何とか雨がしのげる程度。
どこからか腐敗臭がし。
不衛生にもほどがある。

「何が定住だ…
何を考えてるんだ、あの大臣…」

晏寿の隣でそう漏らす景雲。
普段だったら、景雲は仕事はまず文句から始まるので大概無視するのだったが、流石に晏寿も頷いてしまいそうになった。
ただ立っていたのだが、おもむろに秀英が一歩前に出た。

「我々は王宮より派遣された者である。
今日よりこの北楊村に世話になる。
誰かこの村の事情に詳しい者はいないだろうか」
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