柔よく剛を制す

薬袋 藍(ミナイ ラン)

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第1章 官吏試験編

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どこからそんなことが出てきたのかわからなかった晏寿であった。
背中に嫌な汗が流れる。


「生活が困窮しているのなら、俺が金を出す。
嫁ぎ先が欲しいなら、良縁を持ってきてやる。
糸家が邪魔なら、消してやってもいい。

どうだ?柳 晏寿――」

「…馬鹿にするのも対外にしてください。
私だけならまだしも、兄までも虚仮こけにしたような物言いで…
そこまで、私達兄妹は落ちぶれていません!」

ぐっと正面に悠然と座る儀円を睨む。
上司に楯突いてこれからの立場が危うくなったのも確かだが、兄まで馬鹿にされて、晏寿はとうとう黙ってはいられなかった。
儀円も強い眼差しで晏寿を見る。
晏寿は視線をそらしては駄目だ、と一心に目に力を込めた。

「…ふ、ははは!」

いきなり儀円が笑いだし、晏寿は肩をびくつかせる。
何が起こったのか、すぐには理解ができなかった。
何も言うことが出来ず、ただただ儀円の笑いが収まるのを待った。

「ああ…、笑った」

ひとしきり笑って満足したのか、やっと笑いが収まり晏寿は次に何を言われるのかを構えていた。

「いや、済まなかった。
でもお前をどうしても図ってみたかったんだ」
「何故、と聞いてもよろしいのですか」
「単純な疑問だ。
女が一人で男だらけの中に入ってくるんだ。
男が目当てか、財産が目当てかと考えるのが妥当だろう。
だが、お前は俺に啖呵切ってくるもんだから、まさかそんな返答が返ってくるとも思わなんだ」

優雅に腕を組み、まだ口の端には笑みを残したまま儀円が話す。
しかし、唐突に表情が真剣な顔になる。

「だが、まだまだそういうふうに思ってる奴らはわんさかいる。
そうじゃないと言い切りたいのなら、お前が示せ」
「!」

鋭い眼差しをやる儀円に少々気後れするも、晏寿は目を逸らさなかった。

そうして儀円はまた何かを企んでいるかのような表情に戻り、「話は以上」と切り捨てた。
晏寿は展開に遅れながらも、
「失礼いたします」
と部屋から出ようとしたのだが、

「あ、それと」

と再び儀円が呼びとめた。

「お前、そのいちいち確認するような言い方やめろ。
回りくどくて仕方ない。はっきりものは言え」

流石に振り回されていると感じた晏寿は、大きく息を吸ってきっぱりと言ってやった。

「わかりました!
こうなったら、なんでもはっきり、ずばずばと、言ってやりますから!」

ふん、と鼻息荒く部屋をあとにするのだった。

「くくっ…、一時は退屈しなさそうだな」

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