上 下
8 / 133
第1章 官吏試験編

7

しおりを挟む
「若!」


少ししたところで、老父が秀英の元へと駆けてきた。
足腰は大丈夫なだろうかと晏寿は心配する。

じい
「何故迎えの連絡をいれてくださらなかったのです!?
護衛も付けずに…」
「心配ない」
「そういう意味ではなくて…!」

爺と呼ばれた老父は道の真ん中であるにも関わらず、秀英へと小言を漏らす。

秀英はうんざりという感じだった。

「ときに、こちらの女人は?」

一通り小言が終わったのか、老父が晏寿へと目を向ける。
晏寿は急なことで対応に遅れてしまった。

「こちらは今回の官吏試験で行動を共にすることになった柳家の娘の晏寿殿」
柳家のでございますか…?」
「ああ」


“あの”というのが引っかかったが仕方なかった。

大体名乗れば“あの”は付いてきていたから。

「ご紹介にあずかりました、柳晏寿と申します」
「ほう、私は伯家に代々仕えている江 白祐こう びゃくゆうです。
行動を共にするということは貴女も官吏試験に合格したということですかな?」
「彼女は次席だ」

晏寿が答える前に秀英が答える。
それを聞いて、白祐は髭をなでながらまじまじと晏寿の顔を見た。

「それはそれは…
しかしなぁ」

何かを模索しているようだったが晏寿にはよくわからなかった。
そしてふと気付いたとばかりに白祐は秀英の方を向く。

「そういえば若、縁談がきておりましたぞ。
私の弟の白碌びゃくろくが持ってきたものなのでご安心を」

縁談と聞いて秀英は眉間にしわを寄せる。

「爺、俺は断れと言ったはずだが」
「そんなことを言わずに。
官吏試験も受かったのですからあとは身を固めるばかり。
若も良い年なのですから早くお決めにならなくては」
「まだ必要ない」

売り言葉に買い言葉で次々と二人は会話を続けていく。
それを見ていて晏寿はなんとなく疎外感を感じてはいたが、別のことも考えていた。

秀英も良家の息子。
しかもこの見た目に官吏試験主席合格。
縁談がこないわけがない。

いろいろなところから来るのだろうが、悪い話だけではないはず。
どうして全てを断るのだろうかと晏寿は疑問に思っていた。
でも、本人が望まないのに縁談を持ってくるのもどうか…と思っていたら、どうやら秀英の屋敷に着いたらしく、秀英と白祐が門のほうへと向かおうとしていた。

「あ…お屋敷はこちらなのですね。
では私はもう少し行ったところなので」

晏寿はそそくさと帰ろうとした。
しかし、それを秀英が止める。

「かしこまらなくていい。
これからは身分も何もあるまい」
「…わかった。なら普通に話すから」

そう言うと秀英は軽く微笑んでいた。


「…若、あの者が気になるのですか?」

晏寿がいなくなってから、秀英の後ろにいた白祐がにやにやとしながら尋ねる。
秀英はさも面倒くさそうに白祐を見る。

「いやー、若は女人には興味がないのかと心配しておりましたが、やはり若も男でしたな。
けれど、伯家のことをお考えならばあの女人はお辞め下さいませ」
「…あの者が柳家の者だからか」

「そうでございます。
器量も良さそうですし、苦労を知っているから贅沢三昧ということにはならないでしょうが…
後ろに付いている糸家が面倒です。
何かといちゃもんをつけてはその家を潰しにかかる。
柳家が見本のようなものでございます。
だから、あの娘は…」
「誰もあの者に気があるとは言っていない」
「…なれば、これからの付き合い方もお考えくださいませ。
柳家と関係があるとわかれば、何かしら手を出してくるやもしれませぬ」

白祐の話を聞き終えると、秀英は何も言わずに自室へと戻ってしまった。
戸を閉め、短く息を吐く。

「…そういう物の考え方は好きではない…」

そうつぶやいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

乙女ゲーのラスボスに転生して早々、敵が可愛すぎて死にそうです

楢山幕府
ファンタジー
――困った。「僕は、死ななければならない」 前世の記憶を理解したルーファスは、自分がかつてプレイした乙女ゲームのラスボスだと気付く。 世界を救うには、死ぬしかない運命だと。 しかし闇の化身として倒されるつもりが、事態は予期せぬ方向へと向かって……? 「オレだけだぞ。他の奴には、こういうことするなよ!」 無表情で無自覚な主人公は、今日も妹と攻略対象を溺愛する。 ――待っていろ。 今にわたしが、真の恐怖というものを教え込んでやるからな。 けれど不穏な影があった。人の心に、ルーファスは翻弄されていく。 萌え死と戦いながら、ルーファスは闇を乗り越えられるのか!? ヒロインは登場しません。

転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~

hisa
ファンタジー
 受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。  自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。  戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?  教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!! ※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく! ※第5章に突入しました。 ※小説家になろう96万PV突破! ※カクヨム68万PV突破! ※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました

【完結】炎の戦史 ~氷の少女と失われた記憶~

朱村びすりん
ファンタジー
 ~あらすじ~  炎の力を使える青年、リ・リュウキは記憶を失っていた。  見知らぬ山を歩いていると、人ひとり分ほどの大きな氷を発見する。その中には──なんと少女が悲しそうな顔をして凍りついていたのだ。  美しい少女に、リュウキは心を奪われそうになる。  炎の力をリュウキが放出し、氷の封印が解かれると、驚くことに彼女はまだ生きていた。  謎の少女は、どういうわけか、ハクという化け物の白虎と共生していた。  なぜ氷になっていたのかリュウキが問うと、彼女も記憶がなく分からないのだという。しかし名は覚えていて、彼女はソン・ヤエと名乗った。そして唯一、闇の記憶だけは残っており、彼女は好きでもない男に毎夜乱暴されたことによって負った心の傷が刻まれているのだという。  記憶の一部が失われている共通点があるとして、リュウキはヤエたちと共に過去を取り戻すため行動を共にしようと申し出る。  最初は戸惑っていたようだが、ヤエは渋々承諾。それから一行は山を下るために歩き始めた。  だがこの時である。突然、ハクの姿がなくなってしまったのだ。大切な友の姿が見当たらず、ヤエが取り乱していると──二人の前に謎の男が現れた。  男はどういうわけか何かの事情を知っているようで、二人にこう言い残す。 「ハクに会いたいのならば、満月の夜までに西国最西端にある『シュキ城』へ向かえ」 「記憶を取り戻すためには、意識の奥底に現れる『幻想世界』で真実を見つけ出せ」  男の言葉に半信半疑だったリュウキとヤエだが、二人にはなんの手がかりもない。  言われたとおり、シュキ城を目指すことにした。  しかし西の最西端は、化け物を生み出すとされる『幻草』が大量に栽培される土地でもあった……。  化け物や山賊が各地を荒らし、北・東・西の三ヶ国が争っている乱世の時代。  この世に平和は訪れるのだろうか。  二人は過去の記憶を取り戻すことができるのだろうか。  特異能力を持つ彼らの戦いと愛情の物語を描いた、古代中国風ファンタジー。 ★2023年1月5日エブリスタ様の「東洋風ファンタジー」特集に掲載されました。ありがとうございます(人´∀`)♪ ☆special thanks☆ 表紙イラスト・ベアしゅう様 77話挿絵・テン様

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

はっきり言ってカケラも興味はございません

みおな
恋愛
 私の婚約者様は、王女殿下の騎士をしている。  病弱でお美しい王女殿下に常に付き従い、婚約者としての交流も、マトモにしたことがない。  まぁ、好きになさればよろしいわ。 私には関係ないことですから。

錬金術師カレンはもう妥協しません

山梨ネコ
ファンタジー
「おまえとの婚約は破棄させてもらう」 前は病弱だったものの今は現在エリート街道を驀進中の婚約者に捨てられた、Fランク錬金術師のカレン。 病弱な頃、支えてあげたのは誰だと思っているのか。 自棄酒に溺れたカレンは、弾みでとんでもない条件を付けてとある依頼を受けてしまう。 それは『血筋の祝福』という、受け継いだ膨大な魔力によって苦しむ呪いにかかった甥っ子を救ってほしいという貴族からの依頼だった。 依頼内容はともかくとして問題は、報酬は思いのままというその依頼に、達成報酬としてカレンが依頼人との結婚を望んでしまったことだった。 王都で今一番結婚したい男、ユリウス・エーレルト。 前世も今世も妥協して付き合ったはずの男に振られたカレンは、もう妥協はするまいと、美しく強く家柄がいいという、三国一の男を所望してしまったのだった。 ともかくは依頼達成のため、錬金術師としてカレンはポーションを作り出す。 仕事を通じて様々な人々と関わりながら、カレンの心境に変化が訪れていく。 錬金術師カレンの新しい人生が幕を開ける。 ※小説家になろうにも投稿中。

旧陸軍の天才?に転生したので大東亜戦争に勝ちます

竹本田重朗
ファンタジー
転生石原閣下による大東亜戦争必勝論 東亜連邦を志した同志達よ、ごきげんようである。どうやら、私は旧陸軍の石原莞爾に転生してしまったらしい。これは神の思し召しなのかもしれない。どうであれ、現代日本のような没落を回避するために粉骨砕身で働こうじゃないか。東亜の同志と手を取り合って真なる独立を掴み取るまで… ※超注意書き※ 1.政治的な主張をする目的は一切ありません 2.そのため政治的な要素は「濁す」又は「省略」することがあります 3.あくまでもフィクションのファンタジーの非現実です 4.そこら中に無茶苦茶が含まれています 5.現実的に存在する如何なる国家や地域、団体、人物と関係ありません 6.カクヨムとマルチ投稿 以上をご理解の上でお読みください

半熟卵とメリーゴーランド

ゲル純水
恋愛
あのこはフリーライター。 そのお手伝いの副産物。 短い文章やら、メモやら、写真やら。 フィクションまたはファンクション。 相も変わらず性別不安定な面々。 ※意図的にキャラクターのほとんどは「あの子」「きみ」などで表現され、名前もなく、何タイプのキャラクターがいるのかも伏せてあります。

処理中です...