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第1章 官吏試験編
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「若!」
少ししたところで、老父が秀英の元へと駆けてきた。
足腰は大丈夫なだろうかと晏寿は心配する。
「爺」
「何故迎えの連絡をいれてくださらなかったのです!?
護衛も付けずに…」
「心配ない」
「そういう意味ではなくて…!」
爺と呼ばれた老父は道の真ん中であるにも関わらず、秀英へと小言を漏らす。
秀英はうんざりという感じだった。
「ときに、こちらの女人は?」
一通り小言が終わったのか、老父が晏寿へと目を向ける。
晏寿は急なことで対応に遅れてしまった。
「こちらは今回の官吏試験で行動を共にすることになった柳家の娘の晏寿殿」
「あの柳家のでございますか…?」
「ああ」
“あの”というのが引っかかったが仕方なかった。
大体名乗れば“あの”は付いてきていたから。
「ご紹介にあずかりました、柳晏寿と申します」
「ほう、私は伯家に代々仕えている江 白祐です。
行動を共にするということは貴女も官吏試験に合格したということですかな?」
「彼女は次席だ」
晏寿が答える前に秀英が答える。
それを聞いて、白祐は髭をなでながらまじまじと晏寿の顔を見た。
「それはそれは…
しかしなぁ」
何かを模索しているようだったが晏寿にはよくわからなかった。
そしてふと気付いたとばかりに白祐は秀英の方を向く。
「そういえば若、縁談がきておりましたぞ。
私の弟の白碌が持ってきたものなのでご安心を」
縁談と聞いて秀英は眉間にしわを寄せる。
「爺、俺は断れと言ったはずだが」
「そんなことを言わずに。
官吏試験も受かったのですからあとは身を固めるばかり。
若も良い年なのですから早くお決めにならなくては」
「まだ必要ない」
売り言葉に買い言葉で次々と二人は会話を続けていく。
それを見ていて晏寿はなんとなく疎外感を感じてはいたが、別のことも考えていた。
秀英も良家の息子。
しかもこの見た目に官吏試験主席合格。
縁談がこないわけがない。
いろいろなところから来るのだろうが、悪い話だけではないはず。
どうして全てを断るのだろうかと晏寿は疑問に思っていた。
でも、本人が望まないのに縁談を持ってくるのもどうか…と思っていたら、どうやら秀英の屋敷に着いたらしく、秀英と白祐が門のほうへと向かおうとしていた。
「あ…お屋敷はこちらなのですね。
では私はもう少し行ったところなので」
晏寿はそそくさと帰ろうとした。
しかし、それを秀英が止める。
「かしこまらなくていい。
これからは身分も何もあるまい」
「…わかった。なら普通に話すから」
そう言うと秀英は軽く微笑んでいた。
「…若、あの者が気になるのですか?」
晏寿がいなくなってから、秀英の後ろにいた白祐がにやにやとしながら尋ねる。
秀英はさも面倒くさそうに白祐を見る。
「いやー、若は女人には興味がないのかと心配しておりましたが、やはり若も男でしたな。
けれど、伯家のことをお考えならばあの女人はお辞め下さいませ」
「…あの者が柳家の者だからか」
「そうでございます。
器量も良さそうですし、苦労を知っているから贅沢三昧ということにはならないでしょうが…
後ろに付いている糸家が面倒です。
何かといちゃもんをつけてはその家を潰しにかかる。
柳家が見本のようなものでございます。
だから、あの娘は…」
「誰もあの者に気があるとは言っていない」
「…なれば、これからの付き合い方もお考えくださいませ。
柳家と関係があるとわかれば、何かしら手を出してくるやもしれませぬ」
白祐の話を聞き終えると、秀英は何も言わずに自室へと戻ってしまった。
戸を閉め、短く息を吐く。
「…そういう物の考え方は好きではない…」
そうつぶやいた。
少ししたところで、老父が秀英の元へと駆けてきた。
足腰は大丈夫なだろうかと晏寿は心配する。
「爺」
「何故迎えの連絡をいれてくださらなかったのです!?
護衛も付けずに…」
「心配ない」
「そういう意味ではなくて…!」
爺と呼ばれた老父は道の真ん中であるにも関わらず、秀英へと小言を漏らす。
秀英はうんざりという感じだった。
「ときに、こちらの女人は?」
一通り小言が終わったのか、老父が晏寿へと目を向ける。
晏寿は急なことで対応に遅れてしまった。
「こちらは今回の官吏試験で行動を共にすることになった柳家の娘の晏寿殿」
「あの柳家のでございますか…?」
「ああ」
“あの”というのが引っかかったが仕方なかった。
大体名乗れば“あの”は付いてきていたから。
「ご紹介にあずかりました、柳晏寿と申します」
「ほう、私は伯家に代々仕えている江 白祐です。
行動を共にするということは貴女も官吏試験に合格したということですかな?」
「彼女は次席だ」
晏寿が答える前に秀英が答える。
それを聞いて、白祐は髭をなでながらまじまじと晏寿の顔を見た。
「それはそれは…
しかしなぁ」
何かを模索しているようだったが晏寿にはよくわからなかった。
そしてふと気付いたとばかりに白祐は秀英の方を向く。
「そういえば若、縁談がきておりましたぞ。
私の弟の白碌が持ってきたものなのでご安心を」
縁談と聞いて秀英は眉間にしわを寄せる。
「爺、俺は断れと言ったはずだが」
「そんなことを言わずに。
官吏試験も受かったのですからあとは身を固めるばかり。
若も良い年なのですから早くお決めにならなくては」
「まだ必要ない」
売り言葉に買い言葉で次々と二人は会話を続けていく。
それを見ていて晏寿はなんとなく疎外感を感じてはいたが、別のことも考えていた。
秀英も良家の息子。
しかもこの見た目に官吏試験主席合格。
縁談がこないわけがない。
いろいろなところから来るのだろうが、悪い話だけではないはず。
どうして全てを断るのだろうかと晏寿は疑問に思っていた。
でも、本人が望まないのに縁談を持ってくるのもどうか…と思っていたら、どうやら秀英の屋敷に着いたらしく、秀英と白祐が門のほうへと向かおうとしていた。
「あ…お屋敷はこちらなのですね。
では私はもう少し行ったところなので」
晏寿はそそくさと帰ろうとした。
しかし、それを秀英が止める。
「かしこまらなくていい。
これからは身分も何もあるまい」
「…わかった。なら普通に話すから」
そう言うと秀英は軽く微笑んでいた。
「…若、あの者が気になるのですか?」
晏寿がいなくなってから、秀英の後ろにいた白祐がにやにやとしながら尋ねる。
秀英はさも面倒くさそうに白祐を見る。
「いやー、若は女人には興味がないのかと心配しておりましたが、やはり若も男でしたな。
けれど、伯家のことをお考えならばあの女人はお辞め下さいませ」
「…あの者が柳家の者だからか」
「そうでございます。
器量も良さそうですし、苦労を知っているから贅沢三昧ということにはならないでしょうが…
後ろに付いている糸家が面倒です。
何かといちゃもんをつけてはその家を潰しにかかる。
柳家が見本のようなものでございます。
だから、あの娘は…」
「誰もあの者に気があるとは言っていない」
「…なれば、これからの付き合い方もお考えくださいませ。
柳家と関係があるとわかれば、何かしら手を出してくるやもしれませぬ」
白祐の話を聞き終えると、秀英は何も言わずに自室へと戻ってしまった。
戸を閉め、短く息を吐く。
「…そういう物の考え方は好きではない…」
そうつぶやいた。
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