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第7章 晏寿の奮闘編
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帰る道中、景雲は晏寿に昂全の仕事ぶりを尋ねた。
「どうだ、昂全はやっていけそうか?」
「動きも俊敏で無駄がないかな。指示出しってところが不安だけど、肝心なところでは声を発するから慣れれば大丈夫だと思う。料理も美味しかった」
「あいつの作るものは基本美味いんだ。特にまかない飯で作っていた炒飯はこっそりわけてもらっていたからな」
「あ!炒飯食べたの!美味しかった~」
「は!?炒飯食べたのか!?俺も食べたかった…」
そんな無駄話を交えた会話をしていると、前方より誠真が歩いてくるのが見えた。
晏寿は見知った顔だと判断すると、誠真に声をかけた。
「誠真さん、お疲れ様です!」
「ああ、晏寿さん。お疲れ様です。今日も武官のほうの仕事?」
誠真も柔らかい笑みで晏寿に応対する。
「後二日ほど調理の補佐をすることになっていて。経費についてはこれから取り掛かる予定なので、また誠真さんにお世話になるかもしれないです」
「お世話だなんて。俺でよければいくらでも力になるよ。そちらの方は?」
「一緒に官吏試験に合格した容 景雲です。景雲、こちらの方はこの間お世話になった澤 誠真さん」
晏寿に紹介され景雲に誠真は手を差し出し、それに応える。
「澤 誠真です。容家の御嫡男の景雲殿ですね。よろしく」
「こちらこそ。澤家の御当主とは何度かお会いしたことがあります。お元気ですか?」
「祖父のことをご存知なんですね。とても元気で困るくらいです」
景雲と誠真で行われる、所謂貴族の会話というものを目の当たりにして、晏寿は目を丸くした。
自分自身も身分のある立ち位置だが、一度地に落ちているため、社交の場というものに出たことがない。
兄の玲峯であれば多少なりできるのかもしれないが、晏寿には身に付けていない技術であった。
「晏寿さん、まだ仕事中だろうから、引き止めるのはこれぐらいで」
「こちらこそ、引き止めてすみません。…あの、お菓子美味しかったです」
最後のほうをこそりと伝えると、誠真は嬉しそうに笑った。
その笑みで晏寿も満たされた気持ちになる。
「それじゃあ景雲帰ろう」
「ああ。では」
「それでは」
それぞれに別れを告げて、晏寿と景雲は背を向けた。
誠真の姿が見えなくなったところで、景雲の表情が険しいことに気づく。
「景雲、何かあったの?」
「…いや、誠真殿ももしかして晏寿に気があるのかと思って」
「は!?ないよ、そんなの!誠真さんは優しさから私のこと気にかけてくれているだけだって」
「しかし、先程のやりとりを見るとどうも…」
「深読みしすぎだよ。それに、私そんなに沢山の人の気持ちに応えられない」
晏寿の頭の中にいるのは、思いを真っ直ぐ伝えてくる秀英、仮の夫婦になり、後日縁談を出すと言っていた京雅、そして景雲から聞かされている晏寿に気があるのという男の三人である。
最後の一人に関しては素性がわからないため、検討の仕様がないが、どんどん攻めてくる秀英、外堀を簡単に埋めてしまうほどの権力を持つ京雅が本気を出したらどうなるか。晏寿の悩みは尽きない。
「どうだ、昂全はやっていけそうか?」
「動きも俊敏で無駄がないかな。指示出しってところが不安だけど、肝心なところでは声を発するから慣れれば大丈夫だと思う。料理も美味しかった」
「あいつの作るものは基本美味いんだ。特にまかない飯で作っていた炒飯はこっそりわけてもらっていたからな」
「あ!炒飯食べたの!美味しかった~」
「は!?炒飯食べたのか!?俺も食べたかった…」
そんな無駄話を交えた会話をしていると、前方より誠真が歩いてくるのが見えた。
晏寿は見知った顔だと判断すると、誠真に声をかけた。
「誠真さん、お疲れ様です!」
「ああ、晏寿さん。お疲れ様です。今日も武官のほうの仕事?」
誠真も柔らかい笑みで晏寿に応対する。
「後二日ほど調理の補佐をすることになっていて。経費についてはこれから取り掛かる予定なので、また誠真さんにお世話になるかもしれないです」
「お世話だなんて。俺でよければいくらでも力になるよ。そちらの方は?」
「一緒に官吏試験に合格した容 景雲です。景雲、こちらの方はこの間お世話になった澤 誠真さん」
晏寿に紹介され景雲に誠真は手を差し出し、それに応える。
「澤 誠真です。容家の御嫡男の景雲殿ですね。よろしく」
「こちらこそ。澤家の御当主とは何度かお会いしたことがあります。お元気ですか?」
「祖父のことをご存知なんですね。とても元気で困るくらいです」
景雲と誠真で行われる、所謂貴族の会話というものを目の当たりにして、晏寿は目を丸くした。
自分自身も身分のある立ち位置だが、一度地に落ちているため、社交の場というものに出たことがない。
兄の玲峯であれば多少なりできるのかもしれないが、晏寿には身に付けていない技術であった。
「晏寿さん、まだ仕事中だろうから、引き止めるのはこれぐらいで」
「こちらこそ、引き止めてすみません。…あの、お菓子美味しかったです」
最後のほうをこそりと伝えると、誠真は嬉しそうに笑った。
その笑みで晏寿も満たされた気持ちになる。
「それじゃあ景雲帰ろう」
「ああ。では」
「それでは」
それぞれに別れを告げて、晏寿と景雲は背を向けた。
誠真の姿が見えなくなったところで、景雲の表情が険しいことに気づく。
「景雲、何かあったの?」
「…いや、誠真殿ももしかして晏寿に気があるのかと思って」
「は!?ないよ、そんなの!誠真さんは優しさから私のこと気にかけてくれているだけだって」
「しかし、先程のやりとりを見るとどうも…」
「深読みしすぎだよ。それに、私そんなに沢山の人の気持ちに応えられない」
晏寿の頭の中にいるのは、思いを真っ直ぐ伝えてくる秀英、仮の夫婦になり、後日縁談を出すと言っていた京雅、そして景雲から聞かされている晏寿に気があるのという男の三人である。
最後の一人に関しては素性がわからないため、検討の仕様がないが、どんどん攻めてくる秀英、外堀を簡単に埋めてしまうほどの権力を持つ京雅が本気を出したらどうなるか。晏寿の悩みは尽きない。
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