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第7章 晏寿の奮闘編
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「何をやっている」
なおも鼻を啜る晏寿の背中を景雲が摩っていると、そこに儀円が珍しく朝からやってきた。
「げ、大臣…」
「げ、とはいい身分だな容 景雲。それで、そいつはまた問題の中心にいるのか?」
思わず心の声が漏れてしまうが、儀円はその事をさらりと交わし、晏寿を見下ろす。
「こんなところで泣いている暇があるのか?油を売っているのなら、仕事を振ってやる。上手くいかなかったからと泣きわめくとは、まるで赤子だな」
「っ!ぐずっ…、やることは、あります。泣いてても、解決しない、もの」
「だったら早く持ち場に戻れ」
儀円の言葉は冷たいように見えたが、普段通りに接せられることが晏寿には有難かった。
ぐいっと涙を拭い、ぐっと顔に力を入れた。その様子を見て儀円は短息すると、「ああそれと」と付け加える。
「今日は一段と不細工だな」
「!」
くるりと向きを変える儀円の背に向かって、
「余計なお世話よ!」
と涙声で晏寿は叫ぶのだった。
晏寿が落ち着いたところで景雲は秀英を探しに出た。
すると、秀英は城の中庭の木の下に立っていた。
表情は暗く重い。
「言った本人が傷ついた顔をしていてどうする」
景雲は努めていつものような口調で秀英に声をかけた。
秀英は景雲を一瞥した後、視線を足元へと下ろした。
「あの後晏寿、大泣きして大変だったんだぞ」
「…出ていく時に少し聞こえた」
「あんなふうに声をあげて泣く晏寿は初めて見た。秀英に嫌われたと嗚咽して泣いていた」
「俺は晏寿を泣かせてばかりだ…」
唇を噛み、苦痛の表情を浮かべる。はぁ、とため息をついて景雲は秀英に投げかけた。
「秀英は本当に晏寿のことが好きなのか?」
「当たり前だ。先日も答えただろう」
「じゃあ何故泣かせるようなことを言う?」
「…わからない」
秀英の返答に景雲も首を捻る。
踏み込もうとした瞬間に秀英が口を開いた。
「晏寿を想う気持ちがどんどん溢れてくる。慕う気持ちとともに焦りや上手くいかないもどかしさ、自分に対しての怒りが混ざって制御できなくなる」
「感情が制御できない、か。秀英、本当に晏寿のこと嫌いと思っているのか?」
先程とは真逆の質問をする。秀英は暫く考えたのち、自分の言葉を確認するように答える。
「何事にも一生懸命な晏寿は、愛しいと思う。だが、一人で全てを背負い込もうとする晏寿は、見ていてもどかしいし、何故自分を頼らないと、腹が立つ。
愛しいと思う女に腹を立てる俺はおかしいのだろうか?」
秀英は迷いと困惑のこもった視線を景雲に向ける。景雲はいつになく静かだった。
なおも鼻を啜る晏寿の背中を景雲が摩っていると、そこに儀円が珍しく朝からやってきた。
「げ、大臣…」
「げ、とはいい身分だな容 景雲。それで、そいつはまた問題の中心にいるのか?」
思わず心の声が漏れてしまうが、儀円はその事をさらりと交わし、晏寿を見下ろす。
「こんなところで泣いている暇があるのか?油を売っているのなら、仕事を振ってやる。上手くいかなかったからと泣きわめくとは、まるで赤子だな」
「っ!ぐずっ…、やることは、あります。泣いてても、解決しない、もの」
「だったら早く持ち場に戻れ」
儀円の言葉は冷たいように見えたが、普段通りに接せられることが晏寿には有難かった。
ぐいっと涙を拭い、ぐっと顔に力を入れた。その様子を見て儀円は短息すると、「ああそれと」と付け加える。
「今日は一段と不細工だな」
「!」
くるりと向きを変える儀円の背に向かって、
「余計なお世話よ!」
と涙声で晏寿は叫ぶのだった。
晏寿が落ち着いたところで景雲は秀英を探しに出た。
すると、秀英は城の中庭の木の下に立っていた。
表情は暗く重い。
「言った本人が傷ついた顔をしていてどうする」
景雲は努めていつものような口調で秀英に声をかけた。
秀英は景雲を一瞥した後、視線を足元へと下ろした。
「あの後晏寿、大泣きして大変だったんだぞ」
「…出ていく時に少し聞こえた」
「あんなふうに声をあげて泣く晏寿は初めて見た。秀英に嫌われたと嗚咽して泣いていた」
「俺は晏寿を泣かせてばかりだ…」
唇を噛み、苦痛の表情を浮かべる。はぁ、とため息をついて景雲は秀英に投げかけた。
「秀英は本当に晏寿のことが好きなのか?」
「当たり前だ。先日も答えただろう」
「じゃあ何故泣かせるようなことを言う?」
「…わからない」
秀英の返答に景雲も首を捻る。
踏み込もうとした瞬間に秀英が口を開いた。
「晏寿を想う気持ちがどんどん溢れてくる。慕う気持ちとともに焦りや上手くいかないもどかしさ、自分に対しての怒りが混ざって制御できなくなる」
「感情が制御できない、か。秀英、本当に晏寿のこと嫌いと思っているのか?」
先程とは真逆の質問をする。秀英は暫く考えたのち、自分の言葉を確認するように答える。
「何事にも一生懸命な晏寿は、愛しいと思う。だが、一人で全てを背負い込もうとする晏寿は、見ていてもどかしいし、何故自分を頼らないと、腹が立つ。
愛しいと思う女に腹を立てる俺はおかしいのだろうか?」
秀英は迷いと困惑のこもった視線を景雲に向ける。景雲はいつになく静かだった。
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