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第7章 晏寿の奮闘編
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その男は晏寿の元までやってくると、鋭い眼光で晏寿を見下ろした。
「儂にも昼飯を頼む」
その言葉に更に周りのざわつきが大きくなる。
晏寿は気に止めず、にこりと笑った。
「わかりました」
「儂は茄子は好かん。避けてくれ」
「好き嫌いしては駄目ですよ。しっかり食べなければ身体が持ちません」
そう言って配膳しようとしたところに、別の男が慌てた様子で晏寿に詰め寄った。
「お前は馬鹿か!この方は斉将軍だぞ」
「斉将軍って…あの将軍!?」
晏寿は目を見開いて、眼前の大男を見る。
斉将軍こと斉 蓮徳は若い時から体躯に恵まれ、戦に出れば連戦連勝であった。その豪快な太刀捌きに武芸を志す者は憧れ、慕う者が集まり大きな軍隊となっていった。
武芸に無知な晏寿でさえも、名前と武功は聞いたことがあった。
晏寿に近づいてきた男は、斉将軍に向かって慌てて弁解する。
「斉将軍、申し訳ございません。
部外者を入れてしまって…すぐに帰らせますので」
「いや、いい。娘、儂が恐ろしいか?」
蓮徳は晏寿を見据え、動向を伺う。晏寿も真っ直ぐと蓮徳の目を見てはっきりと言った。
「斉将軍の武功は数々聞いておりますが、ここは戦場ではございません。今目の前にいらっしゃるのはお腹を空かせた一人の殿方です。怖がる理由がございません」
晏寿の言葉にしんと黙り込む男達。一番近くにいた晏寿に詰め寄った男は顔を真っ青にしている。
誰もが「終わった」と思っていたところだった。
「…ふ、ふはははは!」
蓮徳の大きな笑い声が部屋中に響き渡った。
いきなりの笑いにその場にいた誰もがついていけず、呆気にとられる。
蓮徳が一頻り笑い終えた頃には、皆に戸惑いが生まれていた。
「戦場では名を聞けば逃げる者もいるという儂をただの空腹の男だと言いのけるとは。その気概気に入ったぞ。娘、名を何という?」
「はい。柳 晏寿と申します」
「柳 晏寿とは、女で唯一人の官吏合格者だったか。そんな娘が何故このような場に?」
「軍の資金を任されたのですが、不審な点が多々あり確かめに参じました。ですがその前に、皆様の食事に物申したくなり、ここで配膳を行っていたのです」
晏寿の頭を撫でながら蓮徳は言う。
「儂には細かい算段はわからん。好きにせよ」
「ありがとうございます!」
二人のやりとりに一人の男が勇気を出して近づく。
「恐れながら、そのようなこと、この場で決めてしまうのはどうかと…」
「細かいことを言うな。この娘は一人でここに来たのだぞ。それに儂もむさ苦しい男ばかりではなく、若い娘とふれあいたい。皆もそうであるから昼飯に早く来たのだろう」
勇気を出して意見したであろう男を一蹴する。それに男ばかりの中で、滅多に若い娘と会う機会のない武官達は晏寿目当てに来たというのが図星であったため、それ以上何も言えなかった。
「さて、飯を食うか。柳晏寿、お前も共に食うがいい」
「ありがとうございます。でも配膳がまだですので、また次回お願い致します」
「それは仕方ないな。励め」
すっかり蓮徳に気に入られてしまった晏寿であった。
「儂にも昼飯を頼む」
その言葉に更に周りのざわつきが大きくなる。
晏寿は気に止めず、にこりと笑った。
「わかりました」
「儂は茄子は好かん。避けてくれ」
「好き嫌いしては駄目ですよ。しっかり食べなければ身体が持ちません」
そう言って配膳しようとしたところに、別の男が慌てた様子で晏寿に詰め寄った。
「お前は馬鹿か!この方は斉将軍だぞ」
「斉将軍って…あの将軍!?」
晏寿は目を見開いて、眼前の大男を見る。
斉将軍こと斉 蓮徳は若い時から体躯に恵まれ、戦に出れば連戦連勝であった。その豪快な太刀捌きに武芸を志す者は憧れ、慕う者が集まり大きな軍隊となっていった。
武芸に無知な晏寿でさえも、名前と武功は聞いたことがあった。
晏寿に近づいてきた男は、斉将軍に向かって慌てて弁解する。
「斉将軍、申し訳ございません。
部外者を入れてしまって…すぐに帰らせますので」
「いや、いい。娘、儂が恐ろしいか?」
蓮徳は晏寿を見据え、動向を伺う。晏寿も真っ直ぐと蓮徳の目を見てはっきりと言った。
「斉将軍の武功は数々聞いておりますが、ここは戦場ではございません。今目の前にいらっしゃるのはお腹を空かせた一人の殿方です。怖がる理由がございません」
晏寿の言葉にしんと黙り込む男達。一番近くにいた晏寿に詰め寄った男は顔を真っ青にしている。
誰もが「終わった」と思っていたところだった。
「…ふ、ふはははは!」
蓮徳の大きな笑い声が部屋中に響き渡った。
いきなりの笑いにその場にいた誰もがついていけず、呆気にとられる。
蓮徳が一頻り笑い終えた頃には、皆に戸惑いが生まれていた。
「戦場では名を聞けば逃げる者もいるという儂をただの空腹の男だと言いのけるとは。その気概気に入ったぞ。娘、名を何という?」
「はい。柳 晏寿と申します」
「柳 晏寿とは、女で唯一人の官吏合格者だったか。そんな娘が何故このような場に?」
「軍の資金を任されたのですが、不審な点が多々あり確かめに参じました。ですがその前に、皆様の食事に物申したくなり、ここで配膳を行っていたのです」
晏寿の頭を撫でながら蓮徳は言う。
「儂には細かい算段はわからん。好きにせよ」
「ありがとうございます!」
二人のやりとりに一人の男が勇気を出して近づく。
「恐れながら、そのようなこと、この場で決めてしまうのはどうかと…」
「細かいことを言うな。この娘は一人でここに来たのだぞ。それに儂もむさ苦しい男ばかりではなく、若い娘とふれあいたい。皆もそうであるから昼飯に早く来たのだろう」
勇気を出して意見したであろう男を一蹴する。それに男ばかりの中で、滅多に若い娘と会う機会のない武官達は晏寿目当てに来たというのが図星であったため、それ以上何も言えなかった。
「さて、飯を食うか。柳晏寿、お前も共に食うがいい」
「ありがとうございます。でも配膳がまだですので、また次回お願い致します」
「それは仕方ないな。励め」
すっかり蓮徳に気に入られてしまった晏寿であった。
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