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第7章 晏寿の奮闘編
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陽明の気持ちは決まったものの、ある問題が生じた。
「大臣が来ない…」
儀円が王宮に幾日と来ないのだ。
普段であれば「またか」くらいで済むのだが、今は早く異動について報告したい。陽明達と晏寿はやきもきした日々を過ごしていた。
「こればっかりは仕方ないさ。来た時に捕まえるしかない」
どこか諦め感のある景雲に、晏寿は愚痴をこぼす。
「大事なときにいっつもこうなんだから!」
儀円に向けてなのか景雲に向けてなのかわからない発言をし、晏寿は忙しなく手を動かす。
部署の全体を見渡して、秀英が冷静に言う。
「玲峯殿も大臣が来ないことで、連日働き詰めでずっとイライラしている」
「玲峯殿もそろそろ休みが必要だな」
「…兄様といえば」
晏寿はここの所陽明のことでいっぱいだったが、玲峯のことでも気になっていることがあったことを思い出す。
「兄様からお嫁さんにしたい人がいるって言われたのよね」
「ほう。玲峯殿にもようやく春が来たのか」
「でも誰だか教えてくれないの」
口をとがらせる晏寿。景雲は顎に手を当ててうむ、と唸った。
「玲峯殿の動向からして女人と会う確率が高いのは王宮勤めの侍女か?」
「文でやりとりをしているの。忙しさとは関係なく簡単には会えないって言っていたわ」
「そんな相手とどうやって出会ったんだかな」
わざとらしく肩を竦める景雲。
そして今は仕事中だということを思い出し、雑談を中断し仕事に集中するのだった。
やっと儀円がやってきたのは、それから二日経ってからだった。
陽明はだいぶ勢いを削がれてしまっていたが、晏寿達からの応援で儀円の元へと行ったのだった。
晏寿はハラハラとした気持ちで陽明が入っていった儀円の部屋を外から眺め、全く仕事が手につかない。
「晏寿、気になるのはわかるが、仕事に集中しろ」
「うん、そうなんだけど…」
「そう言っている秀英もさっきから何度も書き損じているからな」
秀英が晏寿のことを指摘するも人のことは言えず、くしゃくしゃになった紙が辺りに散れていた。
そして部屋から出てきた陽明はどんよりとした空気をかもし出しており、表情は生気を感じられないほどやつれていた。
「駄目でした…」
ぽつりと呟くとともに、本人も自覚したのかじわりと涙が滲む。
景雲が静かな声色で問う。
「大臣は何て?」
「許可は出せないと…ただそれだけでした」
それを聞いて、黙っていないのが晏寿である。持っていた資料を机に雑に置き、陽明に近寄る。
「それって理由になってないじゃない。それで、はいそうですかで出てきたの?」
「えと、はぃ…」
「納得いかない」
「晏寿!?」と止める声も聞かず、ずんずんと陽明が出てきた部屋へと進んで行く。
そして勢いよく扉を開けて儀円を睨みつけた。
「大臣が来ない…」
儀円が王宮に幾日と来ないのだ。
普段であれば「またか」くらいで済むのだが、今は早く異動について報告したい。陽明達と晏寿はやきもきした日々を過ごしていた。
「こればっかりは仕方ないさ。来た時に捕まえるしかない」
どこか諦め感のある景雲に、晏寿は愚痴をこぼす。
「大事なときにいっつもこうなんだから!」
儀円に向けてなのか景雲に向けてなのかわからない発言をし、晏寿は忙しなく手を動かす。
部署の全体を見渡して、秀英が冷静に言う。
「玲峯殿も大臣が来ないことで、連日働き詰めでずっとイライラしている」
「玲峯殿もそろそろ休みが必要だな」
「…兄様といえば」
晏寿はここの所陽明のことでいっぱいだったが、玲峯のことでも気になっていることがあったことを思い出す。
「兄様からお嫁さんにしたい人がいるって言われたのよね」
「ほう。玲峯殿にもようやく春が来たのか」
「でも誰だか教えてくれないの」
口をとがらせる晏寿。景雲は顎に手を当ててうむ、と唸った。
「玲峯殿の動向からして女人と会う確率が高いのは王宮勤めの侍女か?」
「文でやりとりをしているの。忙しさとは関係なく簡単には会えないって言っていたわ」
「そんな相手とどうやって出会ったんだかな」
わざとらしく肩を竦める景雲。
そして今は仕事中だということを思い出し、雑談を中断し仕事に集中するのだった。
やっと儀円がやってきたのは、それから二日経ってからだった。
陽明はだいぶ勢いを削がれてしまっていたが、晏寿達からの応援で儀円の元へと行ったのだった。
晏寿はハラハラとした気持ちで陽明が入っていった儀円の部屋を外から眺め、全く仕事が手につかない。
「晏寿、気になるのはわかるが、仕事に集中しろ」
「うん、そうなんだけど…」
「そう言っている秀英もさっきから何度も書き損じているからな」
秀英が晏寿のことを指摘するも人のことは言えず、くしゃくしゃになった紙が辺りに散れていた。
そして部屋から出てきた陽明はどんよりとした空気をかもし出しており、表情は生気を感じられないほどやつれていた。
「駄目でした…」
ぽつりと呟くとともに、本人も自覚したのかじわりと涙が滲む。
景雲が静かな声色で問う。
「大臣は何て?」
「許可は出せないと…ただそれだけでした」
それを聞いて、黙っていないのが晏寿である。持っていた資料を机に雑に置き、陽明に近寄る。
「それって理由になってないじゃない。それで、はいそうですかで出てきたの?」
「えと、はぃ…」
「納得いかない」
「晏寿!?」と止める声も聞かず、ずんずんと陽明が出てきた部屋へと進んで行く。
そして勢いよく扉を開けて儀円を睨みつけた。
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