柔よく剛を制す

薬袋 藍(ミナイ ラン)

文字の大きさ
上 下
91 / 133
第7章 晏寿の奮闘編

3

しおりを挟む
晏寿はすっきりとしないまま、勝手場で白菜を刻んでいた。
二人の言っていることは分かるが、陽明のために何かがしたいという気持ちでいっぱいだった。

「晏寿、その白菜どうするんだ?」
「…え?」

一人だと思っていたところに声がかかる。
考え事に夢中になっており、玲峯の帰宅に気づかないほどで、手元には大量の刻まれた白菜が山になっていた。

ふと玲峯を見ると、手には文を持っていた。
ここの所、家にいるときは玲峯がよく文を持っているのを目撃していた。

「兄様最近熱心に文を書いているわね」
「ああ、これか」

何の気なしの雑談のつもりで話を振ったつもりだったが、玲峯が爆弾発言をする。

「…嫁に迎えたいと思っている人からの文だ」

「へ?…ええ!?」

晏寿の驚きの声が響いたが、瑚蘭が慌ててくることはなかった。

※白菜は美味しい餃子になった。


玲峯からその後詳しい話は聞けず、もやもやとしたまま翌日を迎えた。
陽明のこともきがかりで、晏寿は寝不足で仕事に向かうこととなった。

欠伸を噛み殺しながら墨をすり、危うく机にこぼすところだった。
その様子を景雲が気づき、声をかける。

「今日は眠そうだな」
「ああ…気になることが幾つもあって…」
「陽明のことじゃないのか?」
「それもだけど、別問題があって…」
「墨が手についているぞ」

机にこぼすことは無かったが、手はしっかりと汚しており、いつもと違う晏寿に景雲は目を丸くするのだった。

「ほら、墨はもういいから少し体を動かせ。そのほうが眠気も飛ぶ」
「そうだね…そうするよ」

ふらふらと立ち上がり、部屋を出ていく晏寿をため息混じりに眺めるのだった。


手についた墨を落とし、書庫へと向かった晏寿。必要な資料を確認しながら取っていくと、結構な量となった。
何とか抱えながら歩いていると、後ろから声をかけられる。

「晏寿殿、僕も運びます」

声の主は陽明で、さっと晏寿の腕から三分の二ほどの書物を取った。

「わ、ありがとう。助かるよ」
「いえ。どちらに運べばいいですか?」

晏寿は行き先を述べ、二人で運ぶこととなった。
道中で晏寿は陽明に言う。

「陽明君、薬師になりたいんだってね。景雲から聞いたよ」
「やっぱり聞きましたか…どうしても諦めがつかなくて…」
「諦める必要はないよ。王宮の医療班に移ればいいんだから。官吏に合格するくらい頭もいいわけだし、薬師の勉強だってしてたんでしょ?」
「勉強はしていました。ただ、自分に自信がなくて、異動したところでやっていけるかどうか…」

視線を落とす陽明に、晏寿は断言する。

「陽明君なら大丈夫!」
「え…」
「薬師ってまず患者の気持ちに寄り添わないといけないと思うの。それって相手を思いやる優しさって言い換えられると思うのね。
陽明君はとにかく人に優しいし、気をつかえるから第一条件は満たしてるよ」
「優しい…ですかね?」
「うん、今だって私を助けてくれたもの。優しいから一緒に仕事をしている凱君や甜丈君に迷惑かけてるんじゃないかって気にするんだと思うよ」

横柄なら気にしないよ、と付け加える。
晏寿の言葉で少しだけ前を向くことができた陽明だった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

香死妃(かしひ)は香りに埋もれて謎を解く 

液体猫(299)
キャラ文芸
第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞受賞しました(^_^)/  香を操り、死者の想いを知る一族がいる。そう囁かれたのは、ずっと昔の話だった。今ではその一族の生き残りすら見ず、誰もが彼ら、彼女たちの存在を忘れてしまっていた。  ある日のこと、一人の侍女が急死した。原因は不明で、解決されないまま月日が流れていき……  その事件を解決するために一人の青年が動き出す。その過程で出会った少女──香 麗然《コウ レイラン》──は、忘れ去られた一族の者だったと知った。  香 麗然《コウ レイラン》が後宮に現れた瞬間、事態は動いていく。  彼女は香りに秘められた事件を解決。ついでに、ぶっきらぼうな青年兵、幼い妃など。数多の人々を無自覚に誑かしていった。  テンパると田舎娘丸出しになる香 麗然《コウ レイラン》と謎だらけの青年兵がダッグを組み、数々の事件に挑んでいく。  後宮の闇、そして人々の想いを描く、後宮恋愛ミステリーです。 不定期投稿となります。

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

有能官吏、料理人になる。〜有能で、皇帝陛下に寵愛されている自分ですが、このたび料理人になりました〜

𦚰阪 リナ
BL
琳国の有能官吏、李 月英は官吏だが食欲のない皇帝、凛秀のため、何かしなくてはならないが、何をしたらいいかさっぱるわからない。 だがある日、美味しい料理を作くれば、少しは気が紛れるのではないかと考え、厨房を見学するという名目で、厨房に来た。 そこで出逢った簫 完陽という料理人に料理を教えてもらうことに。 そのことがきっかけで月英は、料理の腕に目覚めて…?! 料理×BL×官吏のごちゃまぜ中華風お料理物語、ここに開幕! ※、のところは誰かと誰かがイチャイチャ、イチャイチャしていますのでお気をつけください。あるいは…

私は、忠告を致しましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私マリエスは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢ロマーヌ様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  ロマーヌ様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は常に最愛の方に護っていただいているので、貴方様には悪意があると気付けるのですよ。  ロマーヌ様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ?

異世界行ったらステータス最弱の上にジョブが謎過ぎたからスローライフ隠居してたはずなのに、気づいたらヤバいことになってた

カホ
ファンタジー
タイトル通りに進む予定です。 キャッチコピー 「チートはもうお腹いっぱいです」 ちょっと今まで投稿した作品を整理しようと思ってます。今読んでくださっている方、これから読もうとしていらっしゃる方、ご指摘があればどなたでも感想をください!参考にします! 注)感想のネタバレ処理をしていません。感想を読まれる方は十分気をつけてください(ギャフン

処理中です...