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第6章 景雲の姉襲来編
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晏寿が帰宅するといつもなら杏歌が夕食を作っているが、さすがに今日は作ることができず、何も準備されていない状態だった。
「そんな事があったんだ…杏歌殿は?」
「もう休んでいる」
夕食の支度をしながら、昼間あったことを玲峯から聞く。
杏歌は容家に帰ると言ったが今日は柳家に泊まったほうがいいと諭され、本日も柳家に帰ってきていた。
「晏寿と偽装したのも役にたったよ」
「本当は使わないほうが良いと思ってたんだけど、役にたったのなら良かった。明日は兄様仕事よね?」
「ああ、そうだが」
「私明日杏歌殿と一緒にいようかな。やっぱり不安だと思うし」
鍋を煮込みながら言う。
しかし、明日は秀英と約束した日でもあった。このことは家族は周知済みであったので、玲峯が意見を言う。
「だか、明日はその…秀英君と出かける日ではなかったか?」
「そうだけど、杏歌殿が心配だもの。秀英には話したら理解してくれるよ」
「兄としては喜ばしいが、男としては複雑だな…」
玲峯の呟きは晏寿に届いておらず、コトコトという鍋の音だけが響いていた。
そして夕食の時に明日の予定を瑚蘭に話すと、おっとりとしている瑚蘭がきっと怒った。
「駄目よ!先に秀英君と約束していたんだから、秀英君を優先させなきゃ」
「でも杏歌殿が…」
「私がいるじゃない!」
有無を言わせぬ迫力で、晏寿はそれ以上は言えなかった。
翌日、秀英は晏寿との待ち合わせの場所に先に着いていた。
手には今日の計画が書かれた紙を持っており、何度も見返しているため、少しよれている。
遠くに晏寿の姿が見えたため、すっと懐に隠し、晏寿を待った。
「秀英、早いね。遅くなってごめんね」
晏寿はいつもは仕事着で簡素な格好をしているが、今日は前々から瑚蘭と杏歌により服の指示があったため、それを身につけている。
髪には昨日瑚蘭と杏歌から贈られた簪が刺さっている。
いつもと違う晏寿に戸惑うものの、いつもの平然さを保とうと秀英は深く呼吸をした。
「いや大丈夫だ。それでは行こうか」
「うん」
そうして二人は城下へと歩き出した。
秀英の頭の中では次の行動を考えていたが、晏寿は杏歌のことが気がかりであった。
店の提案をしようと秀英が晏寿の顔を見ると、どこか浮かない表情をしている。
「どうかしたのか?」
「あ…ごめん、ちょっと考え事」
「俺には話せないのか」
「話せないというか、うーん」
今日の形式としては逢引である。
そんな時に昨日の顛末を話していいものなのかどうか晏寿は悩んでいた。
しかし、一度気になるととことん追求してくるのが秀英である。
きっと自分が話すまで納得しないだろうと判断した晏寿は、昨日のことを話し出した。
「なるほど、それは杏歌殿が心配だな」
「うん、どうしたら元気になってくれるかなって思って。ごめんね、秀英と出かける約束してたのにこんなふうに悩んじゃって」
「いや、逆の立場でもきっと考え込んでしまったと思う。だから気にしなくていい」
そんなとき、ふと秀英は景雲の言っていた言葉を思い出した。
「相手が喜びそうなものを買いに行く…」
「え?」
「いや、何か贈り物をしたら少しでも気が紛れるのでなないかと思ったんだ」
「贈り物…そうね!秀英、杏歌殿への贈り物を買いに行ってもいい?」
「ああ、そうしよう」
本当は晏寿と行こうと考えていた計画があったがようやく晏寿に笑みが戻ったため、秀英は計画のことは黙っておくことにした。
それよりも晏寿との時間を楽しみたいという気持ちのほうが勝っている。
二人は近くの小物屋に入っていった。
「そんな事があったんだ…杏歌殿は?」
「もう休んでいる」
夕食の支度をしながら、昼間あったことを玲峯から聞く。
杏歌は容家に帰ると言ったが今日は柳家に泊まったほうがいいと諭され、本日も柳家に帰ってきていた。
「晏寿と偽装したのも役にたったよ」
「本当は使わないほうが良いと思ってたんだけど、役にたったのなら良かった。明日は兄様仕事よね?」
「ああ、そうだが」
「私明日杏歌殿と一緒にいようかな。やっぱり不安だと思うし」
鍋を煮込みながら言う。
しかし、明日は秀英と約束した日でもあった。このことは家族は周知済みであったので、玲峯が意見を言う。
「だか、明日はその…秀英君と出かける日ではなかったか?」
「そうだけど、杏歌殿が心配だもの。秀英には話したら理解してくれるよ」
「兄としては喜ばしいが、男としては複雑だな…」
玲峯の呟きは晏寿に届いておらず、コトコトという鍋の音だけが響いていた。
そして夕食の時に明日の予定を瑚蘭に話すと、おっとりとしている瑚蘭がきっと怒った。
「駄目よ!先に秀英君と約束していたんだから、秀英君を優先させなきゃ」
「でも杏歌殿が…」
「私がいるじゃない!」
有無を言わせぬ迫力で、晏寿はそれ以上は言えなかった。
翌日、秀英は晏寿との待ち合わせの場所に先に着いていた。
手には今日の計画が書かれた紙を持っており、何度も見返しているため、少しよれている。
遠くに晏寿の姿が見えたため、すっと懐に隠し、晏寿を待った。
「秀英、早いね。遅くなってごめんね」
晏寿はいつもは仕事着で簡素な格好をしているが、今日は前々から瑚蘭と杏歌により服の指示があったため、それを身につけている。
髪には昨日瑚蘭と杏歌から贈られた簪が刺さっている。
いつもと違う晏寿に戸惑うものの、いつもの平然さを保とうと秀英は深く呼吸をした。
「いや大丈夫だ。それでは行こうか」
「うん」
そうして二人は城下へと歩き出した。
秀英の頭の中では次の行動を考えていたが、晏寿は杏歌のことが気がかりであった。
店の提案をしようと秀英が晏寿の顔を見ると、どこか浮かない表情をしている。
「どうかしたのか?」
「あ…ごめん、ちょっと考え事」
「俺には話せないのか」
「話せないというか、うーん」
今日の形式としては逢引である。
そんな時に昨日の顛末を話していいものなのかどうか晏寿は悩んでいた。
しかし、一度気になるととことん追求してくるのが秀英である。
きっと自分が話すまで納得しないだろうと判断した晏寿は、昨日のことを話し出した。
「なるほど、それは杏歌殿が心配だな」
「うん、どうしたら元気になってくれるかなって思って。ごめんね、秀英と出かける約束してたのにこんなふうに悩んじゃって」
「いや、逆の立場でもきっと考え込んでしまったと思う。だから気にしなくていい」
そんなとき、ふと秀英は景雲の言っていた言葉を思い出した。
「相手が喜びそうなものを買いに行く…」
「え?」
「いや、何か贈り物をしたら少しでも気が紛れるのでなないかと思ったんだ」
「贈り物…そうね!秀英、杏歌殿への贈り物を買いに行ってもいい?」
「ああ、そうしよう」
本当は晏寿と行こうと考えていた計画があったがようやく晏寿に笑みが戻ったため、秀英は計画のことは黙っておくことにした。
それよりも晏寿との時間を楽しみたいという気持ちのほうが勝っている。
二人は近くの小物屋に入っていった。
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