80 / 133
第6章 景雲の姉襲来編
5
しおりを挟む
一番状況がわかっていない玲峯に説明をしようとしていたら、瑚蘭によって制された。
「玲峯、杏歌さんをお部屋に案内してくれる?」
「あ、ああ。わかった。杏歌殿こちらへ」
「お世話になります」
玲峯と杏歌が出ていったところで、瑚蘭が晏寿に向き合う。
「晏寿、杏歌さんのことお願いね」
「お泊りのこと?それなら準備するけど」
「それだけじゃなくて嫁いだ家から戻ってくるというのは、それ相応の理由があるのよ。杏歌さんの気持ちの面もよろしくね」
「…わかった」
瑚蘭は人の感情の動きに敏感である。
その瑚蘭が言うことだったので説得力があり、晏寿は素直に聞くことにした。
その後、四人で夕食をとったあと杏歌が訪問着であったため、晏寿は寝間着を持って杏歌の部屋へと向かった。
「杏歌殿、失礼いたします」
戸を軽く叩くと、中から「どうぞ」と聞こえて入室する。
「寝間着がないと思いましたので、私のでよければ使ってください」
「ありがとう。気が利くのね」
「いえ」
杏歌に手渡すと、その際に晏寿は杏歌の両腕に包帯が巻かれていることに気がついた。
「杏歌殿、怪我をされているのですか?包帯が…」
「!」
杏歌が過敏に反応し、腕を庇うようにして俯く。
この様子から、瑚蘭の言っていた『それ相応の理由』という言葉が晏寿の頭をよぎった。
「替えの包帯も持ってきますね。もしよろしければ私が巻ましょうか。両腕では巻き辛いと思うので」
そう言い残して晏寿は部屋を出て、包帯を取りにいった。
晏寿が再び部屋に戻ると杏歌は寝間着に着替えており、包帯もそのままだった。
「一度患部を綺麗にしようと思ってお湯と手拭いも持ってきました。触っても大丈夫ですか?」
「…ええ」
努めていつも通りの対応で接するようにする。
包帯を外すと、その腕は打ち身で赤く腫れ上がり、ところによっては血が滲んでいた。
患部にそっと手拭いを被せると、杏歌の表情が少し引きつった。
「ごめんなさい、痛かったですか?」
「…大丈夫よ」
新しい包帯を巻き、腕の処置は完了した。
「腕は終了です。あの、」
「お願い、誰にも…特に景雲には言わないで!弟には迷惑をかけたくないの!あの子にはまだ未来があるから…!」
縋るように杏歌が訴えてくる。
杏歌を安心させるために、晏寿はゆっくりと話し始めた。
「大丈夫です。景雲には言いません。他に包帯が必要な箇所はないか聞こうとしただけです」
「あ…他は大丈夫よ。酷いのは腕だけだから…」
「そうですか」
晏寿は治療に使った道具を片付けはじめ、杏歌は椅子に座ったままそれを眺めていた。
おもむろに杏歌が口を開く。
「この腕のことについて、何も聞かないの?」
「誰にでも話したくないことの一つはありますから。お話ししたくなったら教えてください」
「そう…」
ここで一度杏歌は黙りこくる。
そして重々しく話し始めた。
「玲峯、杏歌さんをお部屋に案内してくれる?」
「あ、ああ。わかった。杏歌殿こちらへ」
「お世話になります」
玲峯と杏歌が出ていったところで、瑚蘭が晏寿に向き合う。
「晏寿、杏歌さんのことお願いね」
「お泊りのこと?それなら準備するけど」
「それだけじゃなくて嫁いだ家から戻ってくるというのは、それ相応の理由があるのよ。杏歌さんの気持ちの面もよろしくね」
「…わかった」
瑚蘭は人の感情の動きに敏感である。
その瑚蘭が言うことだったので説得力があり、晏寿は素直に聞くことにした。
その後、四人で夕食をとったあと杏歌が訪問着であったため、晏寿は寝間着を持って杏歌の部屋へと向かった。
「杏歌殿、失礼いたします」
戸を軽く叩くと、中から「どうぞ」と聞こえて入室する。
「寝間着がないと思いましたので、私のでよければ使ってください」
「ありがとう。気が利くのね」
「いえ」
杏歌に手渡すと、その際に晏寿は杏歌の両腕に包帯が巻かれていることに気がついた。
「杏歌殿、怪我をされているのですか?包帯が…」
「!」
杏歌が過敏に反応し、腕を庇うようにして俯く。
この様子から、瑚蘭の言っていた『それ相応の理由』という言葉が晏寿の頭をよぎった。
「替えの包帯も持ってきますね。もしよろしければ私が巻ましょうか。両腕では巻き辛いと思うので」
そう言い残して晏寿は部屋を出て、包帯を取りにいった。
晏寿が再び部屋に戻ると杏歌は寝間着に着替えており、包帯もそのままだった。
「一度患部を綺麗にしようと思ってお湯と手拭いも持ってきました。触っても大丈夫ですか?」
「…ええ」
努めていつも通りの対応で接するようにする。
包帯を外すと、その腕は打ち身で赤く腫れ上がり、ところによっては血が滲んでいた。
患部にそっと手拭いを被せると、杏歌の表情が少し引きつった。
「ごめんなさい、痛かったですか?」
「…大丈夫よ」
新しい包帯を巻き、腕の処置は完了した。
「腕は終了です。あの、」
「お願い、誰にも…特に景雲には言わないで!弟には迷惑をかけたくないの!あの子にはまだ未来があるから…!」
縋るように杏歌が訴えてくる。
杏歌を安心させるために、晏寿はゆっくりと話し始めた。
「大丈夫です。景雲には言いません。他に包帯が必要な箇所はないか聞こうとしただけです」
「あ…他は大丈夫よ。酷いのは腕だけだから…」
「そうですか」
晏寿は治療に使った道具を片付けはじめ、杏歌は椅子に座ったままそれを眺めていた。
おもむろに杏歌が口を開く。
「この腕のことについて、何も聞かないの?」
「誰にでも話したくないことの一つはありますから。お話ししたくなったら教えてください」
「そう…」
ここで一度杏歌は黙りこくる。
そして重々しく話し始めた。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説


ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
致死量の愛と泡沫に+
藤香いつき
キャラ文芸
近未来の終末世界。
世間から隔離された森の城館で、ひっそりと暮らす8人の青年たち。
記憶のない“あなた”は彼らに拾われ、共に暮らしていたが——外の世界に攫われたり、囚われたりしながらも、再び城で平穏な日々を取り戻したところ。
泡沫(うたかた)の物語を終えたあとの、日常のお話を中心に。
※致死量シリーズ
【致死量の愛と泡沫に】その後のエピソード。
表紙はJohn William Waterhous【The Siren】より。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編
聖女召喚に巻き添え異世界転移~だれもかれもが納得すると思うなよっ!
山田みかん
ファンタジー
「貴方には剣と魔法の異世界へ行ってもらいますぅ~」
────何言ってんのコイツ?
あれ? 私に言ってるんじゃないの?
ていうか、ここはどこ?
ちょっと待てッ!私はこんなところにいる場合じゃないんだよっ!
推しに会いに行かねばならんのだよ!!

冷遇王女の脱出婚~敵国将軍に同情されて『政略結婚』しました~
真曽木トウル
恋愛
「アルヴィナ、君との婚約は解消するよ。君の妹と結婚する」
両親から冷遇され、多すぎる仕事・睡眠不足・いわれのない悪評etc.に悩まされていた王女アルヴィナは、さらに婚約破棄まで受けてしまう。
そんな心身ともボロボロの彼女が出会ったのは、和平交渉のため訪れていた10歳上の敵国将軍・イーリアス。
一見冷徹な強面に見えたイーリアスだったが、彼女の置かれている境遇が酷すぎると強く憤る。
そして彼が、アルヴィナにした提案は────
「恐れながら王女殿下。私と結婚しませんか?」
勢いで始まった結婚生活は、ゆっくり確実にアルヴィナの心と身体を癒していく。
●『王子、婚約破棄したのは~』と同じシリーズ第4弾。『小説家になろう』で先行して掲載。

【完結】婚約破棄されたユニコーンの乙女は、神殿に向かいます。
秋月一花
恋愛
「イザベラ。君との婚約破棄を、ここに宣言する!」
「かしこまりました。わたくしは神殿へ向かいます」
「……え?」
あっさりと婚約破棄を認めたわたくしに、ディラン殿下は目を瞬かせた。
「ほ、本当に良いのか? 王妃になりたくないのか?」
「……何か誤解なさっているようですが……。ディラン殿下が王太子なのは、わたくしがユニコーンの乙女だからですわ」
そう言い残して、その場から去った。呆然とした表情を浮かべていたディラン殿下を見て、本当に気付いてなかったのかと呆れたけれど――……。おめでとうございます、ディラン殿下。あなたは明日から王太子ではありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる