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第6章 景雲の姉襲来編

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後輩の所に泊まらせるわけにはいかないため、ひとまず家に帰りたがらない景雲を連れて晏寿は帰宅したのだった。

「で、どうして秀英もついてきたの?」

家の前でなぜかついてきた秀英に晏寿は尋ねる。

「晏寿の家に男が泊まると考えただけで腹が立つ。だから俺も泊まることにした」
「泊まることにしたって、私の了承は…?」
「婚約者だろう」
「まだ婚約してないし」
「いずれする」

譲る気配のない秀英に呆れながら、晏寿を筆頭に家に入った。
すると中から、瑚蘭が誰かと談笑しているのが聞こえてきて、晏寿は首を傾げた。

「母様ただいま。お客様?」
「晏寿おかえりなさい。あら秀英君と景雲君もいらっしゃい」
「お邪魔しています」

にこやかに瑚蘭が晏寿を迎え入れ続けて秀英・景雲と入っていったところで、景雲の動きがぴたりと止まった。

「景雲…?」

景雲の視線の先には、瑚蘭と談笑していた女人の姿があった。
若草色の服をまとい、煌びやかな簪を髪にさした女人が優雅に微笑んでいる。

「晏寿、こちら景雲君のお姉様の杏歌さん」
「初めまして、景雲の姉の容 杏歌よう きょうかと申します」

「あ、姉上、なんでここにー!?」

そこにいたのは、景雲が最も会いたくない姉、杏歌であった。



「お母様に景雲がどこに行ったか聞いたら、ここではないかということでしたの。愚弟がお世話になっているんですもの。それにお母様も時々お世話になっているということだったので、ご挨拶に伺うのは通りでしょう」

歌うように軽やかに話す杏歌に対し、顔を真っ青にしながら隣に座る景雲。
とりあえず、客人達に席についてもらって晏寿は茶の用意をした。

「そうだったんですか。お茶も出さずに申し訳ございません。母はそういったことが苦手で…」
「いえいえ、急に訪れたのは私ですもの。お気になさらず」
「杏歌さんはとても淑やかで明るい方よ、晏寿。私とても気に入ってつい話し込んでしまったわ」
「まぁっ、ありがとうございます。私もとても楽しゅうございます」

瑚蘭と杏歌が盛り上がっている中で少し引いた状態で、秀英も様子を伺っていた。
秀英の前に茶を出すと小さな声で礼を言い、口へと運んだ。

「そうそう、こちらに座っている秀英君が先程話していた晏寿の婚約者候補なの」
「ぐふっ」
「秀英!?」

唐突に自身に白羽の矢が刺さり、飲んでいた茶を引っかけむせる秀英の背を晏寿が慌ててさする。

「軒下で熱烈な愛を叫んだというお方ですか?そうは見えませんが、大胆な方ですのねぇ」
「げほっ」
「それも景雲との縁談を破談にした直後に行われたとか」
「うっ、か、母様!色々と話さないで!」

更なる攻撃が秀英にされ、流れ弾が晏寿にも当たる。
晏寿は瑚蘭を咎めたが、瑚蘭は意味をわかっていないようで、
「あら、駄目だったかしら」
とのほほんとしている。
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