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第6章 景雲の姉襲来編

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「それで、秀英との婚姻は保留中ってわけか」
「なんだか秀英にも景雲にも申し訳ないよ…」

謹慎から明けてから、晏寿は景雲と一緒に仕事をしていた。
最初仕事中に景雲は秀英との縁談話を聞こうとしたのだが、晏寿から「今は仕事中!」と叱責されたため、休憩時間に晏寿を捕まえて話を聞いているのだった。

「俺のことは気にするな。それに時間があったほうがいいんじゃないか。秀英も親父殿を説得しないとって言ってたしな」

景雲の言葉を聞いて、うっと唸る。
簡単には進まない婚姻に晏寿は悩まされ続けていた。


後日、急用があるということで景雲は実家に帰っており、景雲の仕事を晏寿が、儀円の仕事を玲峯が、という柳家の後ろ盾で仕事を行っていた。

「晏寿、この書類を明日までに清書していてくれ」
「はい、何部冊子にまとめたほうがいい?」
「三部頼む」
「わかった」

流れるようなやりとりに周りにいた者は呆気にとられていた。
そしてその中に踏み込もうとも思えないと感じていた時に、一人の猛者が現れる。

「玲峯殿、先程の南地区の石高に対する税の取り立てですが、いささか低いように思えるのですが」

自分の意見をはっきり言える男、秀英が玲峯に対して数字の不備を伝える。
玲峯は書類に目を通すと、「これで合っている」と秀英に返した。

「南の地区は最近塩田に力を入れているらしい。石高による税を引き下げるかわりに、塩を何割か納めるよう話をしている。
しかしまだ安定した塩がとれるわけではないから割合については、おいおい話をつけることになっているからそこには記載がなかったんだ」
「では隅のほうに『塩田収入による納付予定あり』と記載してもよろしいでしょうか」
「かまわない」

交わされる会話についていけず、他の者達はただ感心してしまう。ここにいつもなら、景雲がいて茶化しに入るのだが、本日は不在のために、ただ荘厳な雰囲気が漂っていた。


瑚蘭が家に帰ってきてからは、晏寿は実家に戻るようになった。
玲峯も晏寿よりも遅く帰るが、家族三人で過ごせるようになっていた。
そんな夕刻から夜に変わろうとしている時間帯に戸を叩く音がし、晏寿が見に行った。

「夜分にすまない、助けてくれ!」
「え、景雲どうしたの!?」

そこには血相を変えた景雲がいた。


景雲を家に招き入れ、茶を出す。
茶をぐいっと飲んだことでようやく落ち着いたのか、景雲が顔を上げた。
心なしか青白い表情である。

「どうしたの、景雲。あなたがそんなに余裕がないなんて珍しいじゃない」

優しい口調で晏寿が尋ねる。

「…姉が」
「お姉さん?」
「…姉が出戻ってきた…!」

苦々しく言う景雲。反対に晏寿は言葉と景雲の態度が全然結び付いていなかった。
同じ机の反対側に座っていた瑚蘭が景雲に対して口を開いた。

「確か、容家には三人の姉君と一人の弟君がいらっしゃるのよね。それで姉君は皆それぞれ嫁がれたとこの間季蝶殿から聞いたけど」
「え、景雲お姉さん三人もいるの?しかも母様景雲のお母様といつの間に仲良くなってるのよ」
「破棄になった縁談の後に話すようになったのよ」
「えぇ~…」

うふふと笑う瑚蘭に苦笑いするしかない晏寿であったが、今はそれ所ではない。
話を景雲に戻す。

「お姉様が出戻られてきて何か問題があるの?そりゃあ、貴族の家が離縁して帰ってきたってなれば、外聞はよくないだろうけど」
「姉は嫁ぎ先に嫌気がさして、三行半を置いて勝手に出てきたらしい」
「それはちょっと礼儀としてなってないのかな」
「いや論点はそこじゃない」
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