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第5章 自宅謹慎編
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それでも動じずに瑚蘭は晏寿を宥める。
「あなたは小さいときからため込んで、なかなか吐き出せないのよねぇ。そのうち爆発しちゃうわ。思ってること今のうちに言っときなさいな」
「…景雲の時は仕事を理由にすぐ思ったのに、秀英の時はそれがなかった。二人とも大事な友人で、仕事仲間なはずなのに…これじゃ、景雲に失礼だよ…」
晏寿の背中をゆっくりと撫でる。
その温かなぬくもりに晏寿はとても安心感を感じた。
「晏寿、それは秀英君に何か特別な感情を持っているからじゃないかしら。だから秀英君の気持ちを受け入れたい反面、自分の気持ちに気付いてないから戸惑っているのかもしれないわ」
「特別な感情…」
そう呟いて晏寿は目を閉じた。
そして脳裏に浮かぶのは秀英の姿。
決して愛想の良いわけではない。
しかし、晏寿や景雲と共にいる時にだけ見せる微笑みが晏寿は好きだった。
自分達といるときが気を許せる時間なのだと感じていた。
「秀英は…私といると安心できるのかな…」
瑚蘭は微笑んだまま、何も言わなかった。
晏寿に求婚した翌日に秀英と景雲は会っていた。
秀英としては断ったとはいえ、晏寿と景雲が見合いをしたということが引っかかっていた。
そんなことは露とも知らない景雲はいつもの調子だった。
「なんだ、いつも以上に辛気臭い顔してるな」
景雲の軽口を流して、秀英は気になっていることを口にした。
「晏寿と見合いをしたらしいな」
「随分と情報が早いな。昨日の今日だというのに」
「見合い後の晏寿と偶然会った。断ったと言っていたが、景雲は何故断ったんだ?」
「お前が晏寿に気があるってこと知ってたからだよ。それで、秀英は晏寿に求婚しないのか?」
景雲の発言で言葉を詰まらせてしまう。
街中で勢いに任せて言ってしまったと告げてしまえば、きっと景雲は笑うだろう。
秀英の中の自尊心がそれを良しとしなかった。
しかし黙っていたせいで景雲は何かあったと感づき、秀英に詰め寄る。
「何をしでかしたんだ?」
「…その変な笑みを止めろ。求婚は…」
結局勢いでしてしまったことを話す羽目になり、景雲に大笑いされるのだった。
ひとしきり笑ったところ、目尻に涙を溜めながら景雲は問うた。
「しかし、晏寿は何を迷っているんだ?秀英は仕事を続けても良いと言ったのだろう。他に男の影があるのか?」
「それは困る」
「例えばの話だ。そんな人を殺せそうな目で見ないでくれ…あ」
景雲は見合いの席で話したことを思い出した。
『けどな、俺には晏寿を娶れない理由があるんだよ』
『理由?』
『ああ。ある男を裏切ることになるからな。俺はあいつとこれからもずっと今の関係を続けていきたいと思っている』
『景雲にもそういうふうに思える相手がいるのね』
『意外だろ?』
『けど、景雲の話によれば私を嫁にしたいって考えている人がいるってことよね?』
『…お前との会話は本当に話が早く進むな。だけど肝心なところはわかってないって所が晏寿らしいけど』
『褒めてるの?貶してるの?』
『どっちも。だって俺の言ってる男は誰だか全く見当ついてないだろう?』
もしやこの男というのが晏寿の中で引っかかっているのではないのだろうか。そう思うと名指しでよかったのではないかと景雲は少し後悔する。
「どうした、景雲」
「いや…もしかしたら晏寿を惑わしているのは俺が言ったことかもしれん」
「何を言ったんだ」
「晏寿のことを嫁にしたい男を知っているから、娶れないと」
「誰だ、その男は!」
「お前だよ」
晏寿といい、秀英といい、鈍感さに呆れてしまう。
しかし秀英はいたって真面目に悩んでいた。
「まさか自分の婚姻でこんなに考えるとは思ってもみなかった」
「政略結婚か時期が来たら見合いでさくっと決めようと思ってたクチか?」
「ああ」
「いいじゃないか。自分のものにしたいと思う女が現れただけでも幸福だと思うぞ」
簡単に言ってしまう景雲を羨ましく思う秀英。
景雲のように、異性と接することに慣れていればと何度思ったことか。
しかし自分の性格と向き合えば向き合うほど虚しくなるのだった。
「世の中の夫婦はこんなに悩んで結婚するのか…?」
「そこまで思いつめるのはお前くらいだろうよ」
項垂れる秀英に苦笑しつつ、ずっと相談に乗る景雲なのであった。
「あなたは小さいときからため込んで、なかなか吐き出せないのよねぇ。そのうち爆発しちゃうわ。思ってること今のうちに言っときなさいな」
「…景雲の時は仕事を理由にすぐ思ったのに、秀英の時はそれがなかった。二人とも大事な友人で、仕事仲間なはずなのに…これじゃ、景雲に失礼だよ…」
晏寿の背中をゆっくりと撫でる。
その温かなぬくもりに晏寿はとても安心感を感じた。
「晏寿、それは秀英君に何か特別な感情を持っているからじゃないかしら。だから秀英君の気持ちを受け入れたい反面、自分の気持ちに気付いてないから戸惑っているのかもしれないわ」
「特別な感情…」
そう呟いて晏寿は目を閉じた。
そして脳裏に浮かぶのは秀英の姿。
決して愛想の良いわけではない。
しかし、晏寿や景雲と共にいる時にだけ見せる微笑みが晏寿は好きだった。
自分達といるときが気を許せる時間なのだと感じていた。
「秀英は…私といると安心できるのかな…」
瑚蘭は微笑んだまま、何も言わなかった。
晏寿に求婚した翌日に秀英と景雲は会っていた。
秀英としては断ったとはいえ、晏寿と景雲が見合いをしたということが引っかかっていた。
そんなことは露とも知らない景雲はいつもの調子だった。
「なんだ、いつも以上に辛気臭い顔してるな」
景雲の軽口を流して、秀英は気になっていることを口にした。
「晏寿と見合いをしたらしいな」
「随分と情報が早いな。昨日の今日だというのに」
「見合い後の晏寿と偶然会った。断ったと言っていたが、景雲は何故断ったんだ?」
「お前が晏寿に気があるってこと知ってたからだよ。それで、秀英は晏寿に求婚しないのか?」
景雲の発言で言葉を詰まらせてしまう。
街中で勢いに任せて言ってしまったと告げてしまえば、きっと景雲は笑うだろう。
秀英の中の自尊心がそれを良しとしなかった。
しかし黙っていたせいで景雲は何かあったと感づき、秀英に詰め寄る。
「何をしでかしたんだ?」
「…その変な笑みを止めろ。求婚は…」
結局勢いでしてしまったことを話す羽目になり、景雲に大笑いされるのだった。
ひとしきり笑ったところ、目尻に涙を溜めながら景雲は問うた。
「しかし、晏寿は何を迷っているんだ?秀英は仕事を続けても良いと言ったのだろう。他に男の影があるのか?」
「それは困る」
「例えばの話だ。そんな人を殺せそうな目で見ないでくれ…あ」
景雲は見合いの席で話したことを思い出した。
『けどな、俺には晏寿を娶れない理由があるんだよ』
『理由?』
『ああ。ある男を裏切ることになるからな。俺はあいつとこれからもずっと今の関係を続けていきたいと思っている』
『景雲にもそういうふうに思える相手がいるのね』
『意外だろ?』
『けど、景雲の話によれば私を嫁にしたいって考えている人がいるってことよね?』
『…お前との会話は本当に話が早く進むな。だけど肝心なところはわかってないって所が晏寿らしいけど』
『褒めてるの?貶してるの?』
『どっちも。だって俺の言ってる男は誰だか全く見当ついてないだろう?』
もしやこの男というのが晏寿の中で引っかかっているのではないのだろうか。そう思うと名指しでよかったのではないかと景雲は少し後悔する。
「どうした、景雲」
「いや…もしかしたら晏寿を惑わしているのは俺が言ったことかもしれん」
「何を言ったんだ」
「晏寿のことを嫁にしたい男を知っているから、娶れないと」
「誰だ、その男は!」
「お前だよ」
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しかし秀英はいたって真面目に悩んでいた。
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しかし自分の性格と向き合えば向き合うほど虚しくなるのだった。
「世の中の夫婦はこんなに悩んで結婚するのか…?」
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