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第4章 後宮潜入編

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京雅は執務を早く切り上げ、晏寿の元に来ていた。

しかしいつもの態度と違うので、晏寿はお茶の用意をしながらも不思議に思っていた。

「京雅様、体調がすぐれませんか?」
「ん、大丈夫」

晏寿の目には大丈夫には見えなかった。けれど無理に聞き出すわけにもいかず、そっとしておいた。
そして晏寿が出したお茶を一口飲み、そこでやっとふう、と息をついた。

「ねぇ、安」
「はい」
「安は僕に何か隠し事してる?」

真っすぐ、核心に迫る。
晏寿はひるむこと無く、京雅を見つめた。

「何故そう思われるのですか」
「僕は安がどこの家の出かも知らないし、どうして安が僕の妃に選ばれたのかも知らない。もしかしたらそれは知られたくないことなのかなって。
まぁ、それは口実だけど」

京雅の言い方で何かを含んでいることに気付いた晏寿ははっきりとした口調で言った。

「今までそのことは気にされてなかったではないですか。何かあったのですか」
「安の秘密を知ってるって男が来たんだ。そのことで強請って本当は側室をつけようって魂胆みたいだけど。もしも、安が僕に秘密にしてることを今話してくれたら、その男の企みは失敗するでしょ」

「…その方はどこから来たのか聞いてもよろしいでしょうか」
「いいよ。糸 稜現の使者って言ってた」
「…」

晏寿は口を閉ざした。
後宮に来てから二カ月が経とうとしている今。
自分がここに来た本当の理由と、自分のことを話しても良いのか葛藤する。
もしここで話さなかった場合、糸 稜現の勢力が王宮にまで及んでしまう。本当は任務だから話してはならない。
しかし糸家のことを考えれば、話したほうがいいのではないか。
そう思った晏寿は全てを話す決心をした。

「わかりました。私のことを全てお話しします」
「うん」
「まずは私の名前は授 安里ではありません。本名は柳 晏寿です」
「その名前は知ってる。官吏試験初の女人だ」
「それが私です。顔は知らなかったのですね」
「うん。その頃は真面目に仕事をしてなかったし、興味がなかったから」
「それはそれで問題ですが…」

そして晏寿は本名を皮切りに自分の任された仕事のことを話しだした。

京雅の教育係であること。
妃を置くことでの縁談対策。

京雅に『愛』を教えること。

大体のことを話すと、京雅は何かを考えこんでゆっくりと口を開いた。

「騙した、とは表現したくないけど、安は僕のことを愛してなかったってこと?」
「…それに関しては嘘とも本当とも言えません。京雅様のことを大事に思っている気持ちを『愛』と呼べるのか、自分でもわからないのです」
「自分のことなのにわからないの?」
「自分のことが一番わからないものです」
「一つ聞いていい?」
「なんでしょうか」

改めて京雅が切り出すので、晏寿は身構えた。

「僕のことを大事だと思っていたことは業務的なもの?」
「違います。それだけは絶対違います」

強く否定する。
京雅は黙っていて理由を促した。

「人は一緒にいれば情が湧きます。それが私の場合『愛情』かはわかりませんが、この国の殿下だからという理由で京雅様のことを大事に思っていたわけではありません。
『宝 京雅』が大切な人であるから大事に思っていたのです。
都合の良いことばっかり言っているように感じるかもしれませんが、私は京雅様に声をかけるときに一度も『仕事だから』と思って行ったことはありません。これ以上踏み込んではならない時は、そう思っていましたが…」
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