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第4章 後宮潜入編

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所かわって王宮。
京雅は執務に追われていた。
そろそろ抜け出して、晏寿のお茶を飲みたいと考えているときだった。

「殿下、失礼いたします」

一人の男が部屋に入ってきて、一礼する。
それを興味なさげにちらりと見た。

「何」
「恐れながら殿下へお目通りをという者がおります」

今までの京雅であれば「面倒」で切り捨てていたが、晏寿の教育のお蔭でしっかりと対応できるようになっていた。

「それは急ぎの用?」
「できればということでした」
「わかった」

そう言って京雅は面会を許可した。
そして一人の細身の男が入ってきた。
その場に片膝をつき、口を開く。

「初にお目にかかります。私、糸 稜現のもとより参りました興 藤瑞きょう とうずい と申します」
「それで用件は?」
「は。我が主が是非とも主の姫を殿下の側室にと申しております」
「…そういうのは断っているはずだ」

温和な京雅が目を細め、不快を露わにする。
しかし、男・藤瑞も引かなかった。

「噂によれば殿下は最近正室を迎えられたと聞き及んでおります。なればお世継ぎのことをお考えのはず。王に側室がいなかったという前例もございません。これからの王家のことをお考えなのであれば、必至なことかと」
「その噂に一つ付け加えておいて。僕は妃以外を愛す気はないと」

はぁ、とため息をつく。
これで藤瑞は帰ると思っていたが、藤瑞はその場を動かず静かに言葉を発した。

「我が主は皇太子妃様の秘密を知っております」

京雅はつい反応してしまい、藤瑞の顔をまじまじと見た。

「どういうことだ」
「詳しい話は主本人からお話しすると申しておりました。いかがなされますか、殿下」
「…わかった。面会を許可する。でもその場での側室の話や姫の話は無しという条件だ。あくまで妃の話をするだけだ。この条件が飲めないのであれば、面会は無し」
「承知いたしました」

そしてようやっと藤瑞は帰っていった。
この短時間でどっと疲れた京雅は机に突っ伏した。

「疲れた…安の秘密、か」

そう呟くと、むくりと起き上がり晏寿の元へと向かうことにした京雅であった。


「で、体を張ってこれだけの証拠を掴んだというわけか」

儀円の元へと辿りついた二人は早速結果報告をした。景雲が持ち帰った冊子をぺらぺら捲る。

「糸 稜現に関する情報を得たのは手柄と言っていいんじゃないか」

珍しい褒め言葉に二人は目を見開いた。

「これだけじゃないんだろ。引き続き続けろ」
「はい」

次の計画のための支度をするため、儀円の部屋をあとにする。
すると出たところで杜補佐と出くわした。

「景雲君と秀英君。何だか疲れてないか?」
「お疲れ様です。ちょっと外で仕事をしてすぐに報告に来たので」
「外で?」

意外だ、という顔をする杜補佐。
確かに二人は良家の出身で自分の足で動くことは想像できなかった。
しかし北楊村では自分で全てをしなければならなかったので、二人にはこれくらいのことは苦にはならなかった。

杜補佐に軽く挨拶をして二人は自分たちの仕事場へと戻った。
秀英達と入れ違いで儀円のもとを訪れた杜補佐は先程の驚きを儀円に話した。

「二人は良家出身なのにだいぶ変わってますね」
「自分達の足で証拠取りに行ったんだと。調査部に頼まずに」
「調査部に頼むくらい危ないことをしてたんですか!?」

調査部とは部署の一つで、囮調査や潜入調査などを専門に行う部署である。
その仕事は大体が危険なものである。

秀英と景雲の今回行った潜入調査は、一歩間違えれば自身が売り飛ばされる可能性があった。
だから調査部に仕事を依頼しても良い仕事だったのだ。

完全に北楊村での「自分でやる」という習慣が身に付いている証拠になっていた。

「杜補佐。仕事を頼む」
「はい」
「柳 晏寿の兄、柳 怜峯をここに呼んでくれ」


それぞれが動き出す。
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