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第4章 後宮潜入編
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「じゃあ聞くが、晏寿がもし偶然その婚約者だったらどう思う?」
「…最初にひどく驚くと思う。驚いて…嬉しくも思う」
「しかも、お前だけの女だ」
『自分だけの女』という言葉を聞いて、秀英はわずかに表情を緩めた。
それを景雲はしっかりと見逃さず、内心で「秀英も男だな」と思っていた。
「そうなったら嬉しいと思うのなら、晏寿の家に縁談でも出せばいいのに」
「そうはいかない。晏寿にも仕事があるし、それに…」
「父親か?」
秀英が苦い顔をしたので、図星か、と景雲は思った。
秀英の性格からとても厳しい父親だということは景雲にも容易に想像できた。
また晏寿の家は色々と複雑なため、簡単に縁談ができるとも思えなかった。
「糸家が柳家に関与している限り、縁談話なんぞ持ちかけられないか」
「一番父が懸念するところはそこだと思う」
「いや、糸家がなければ晏寿は縁談に困ってないだろうし、官吏試験を受けてなかっただろうよ」
「つまり、出会えなかった可能性のほうが高いと言いたいのか」
「そういうことだ。そう考えると色々複雑だな」
「…」
複雑な表情を浮かべたまま、秀英は立ち上がる。そして仕事へと戻った。
そんな秀英の背中にため息をついて、景雲は晏寿への文を書きだした。
三人の文のやりとりは楓茗を介して続けられた。
最初の数回は儀円の検閲にかけられていたがだんだんと儀円が面倒くさがるようになった。
それから二人は楓茗を紹介され、検閲されることはなくなった。
この時を二人は望んでいたので、誰もいないところで二人は喜びをかみしめた。
「秀英気づいたか?楓茗殿の身につけている服装。あれは後宮の侍女長が身につけるものだ。つまり晏寿は後宮にいて、尚且つ高位にいることが予想される」
「授 安里との関連性が強まったということか」
「ああ。だがまだ決定打がない。もしかすると侍女をしている可能性もあるからな」
二人は仕事以外でも頭を使い続けることとなっていた。そして、後宮という閉鎖的な所の服装まで知っている景雲に対して、秀英はなぜそこまで知っているのかと疑問に思うのだった。
「安里様、文をお預かりしております」
「楓茗ありがとう」
検閲がなくなってからというもの、二人からの文の量は格段に増えた。
それを晏寿は京雅に見つからないようにしながら読むのが日課となっていた。
「熱心な文ですね」
「そうなの。一緒にいるときはこんなに話すこともなかったのに」
「離れてから気付くこともありますから」
「そんなもんかなぁ。また返事お願いね」
「かしこまりました」
ここで楓茗との会話を中断して、文を読むことに集中する。
「…ん?」
「安里様、一つ御報告がございます。お時間大丈夫でしょうか?」
「あ、うん、何?」
忘れてたとばかりに楓茗が戻ってきたのと、晏寿が文で首を傾げたのと同時だった。
晏寿は慌てて返事をして楓茗を見やる。
「こちら本日付けで安里様の身の周りのお世話をすることとなりました、伯 紅露です」
「伯 紅露です、宜しくお願いいたします」
「あ、はは…宜しく…」
文には『紅露が晏寿の元で手伝いたいと言っている』と書いてあり、そこに首を傾げている所に本人が登場したのだった。
「…最初にひどく驚くと思う。驚いて…嬉しくも思う」
「しかも、お前だけの女だ」
『自分だけの女』という言葉を聞いて、秀英はわずかに表情を緩めた。
それを景雲はしっかりと見逃さず、内心で「秀英も男だな」と思っていた。
「そうなったら嬉しいと思うのなら、晏寿の家に縁談でも出せばいいのに」
「そうはいかない。晏寿にも仕事があるし、それに…」
「父親か?」
秀英が苦い顔をしたので、図星か、と景雲は思った。
秀英の性格からとても厳しい父親だということは景雲にも容易に想像できた。
また晏寿の家は色々と複雑なため、簡単に縁談ができるとも思えなかった。
「糸家が柳家に関与している限り、縁談話なんぞ持ちかけられないか」
「一番父が懸念するところはそこだと思う」
「いや、糸家がなければ晏寿は縁談に困ってないだろうし、官吏試験を受けてなかっただろうよ」
「つまり、出会えなかった可能性のほうが高いと言いたいのか」
「そういうことだ。そう考えると色々複雑だな」
「…」
複雑な表情を浮かべたまま、秀英は立ち上がる。そして仕事へと戻った。
そんな秀英の背中にため息をついて、景雲は晏寿への文を書きだした。
三人の文のやりとりは楓茗を介して続けられた。
最初の数回は儀円の検閲にかけられていたがだんだんと儀円が面倒くさがるようになった。
それから二人は楓茗を紹介され、検閲されることはなくなった。
この時を二人は望んでいたので、誰もいないところで二人は喜びをかみしめた。
「秀英気づいたか?楓茗殿の身につけている服装。あれは後宮の侍女長が身につけるものだ。つまり晏寿は後宮にいて、尚且つ高位にいることが予想される」
「授 安里との関連性が強まったということか」
「ああ。だがまだ決定打がない。もしかすると侍女をしている可能性もあるからな」
二人は仕事以外でも頭を使い続けることとなっていた。そして、後宮という閉鎖的な所の服装まで知っている景雲に対して、秀英はなぜそこまで知っているのかと疑問に思うのだった。
「安里様、文をお預かりしております」
「楓茗ありがとう」
検閲がなくなってからというもの、二人からの文の量は格段に増えた。
それを晏寿は京雅に見つからないようにしながら読むのが日課となっていた。
「熱心な文ですね」
「そうなの。一緒にいるときはこんなに話すこともなかったのに」
「離れてから気付くこともありますから」
「そんなもんかなぁ。また返事お願いね」
「かしこまりました」
ここで楓茗との会話を中断して、文を読むことに集中する。
「…ん?」
「安里様、一つ御報告がございます。お時間大丈夫でしょうか?」
「あ、うん、何?」
忘れてたとばかりに楓茗が戻ってきたのと、晏寿が文で首を傾げたのと同時だった。
晏寿は慌てて返事をして楓茗を見やる。
「こちら本日付けで安里様の身の周りのお世話をすることとなりました、伯 紅露です」
「伯 紅露です、宜しくお願いいたします」
「あ、はは…宜しく…」
文には『紅露が晏寿の元で手伝いたいと言っている』と書いてあり、そこに首を傾げている所に本人が登場したのだった。
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