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第3章 休暇編
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休暇をもらって五日が経ち、秀英は溜まっていた書物を読み切っていた。
そして一つの疑問を抱えていた。
それは白祐が大人しいことである。
屋敷に長い時間いたら縁談の話の一つや二つ持ってくると思っていたからだ。
秀英には縁談話が無いというのは願ってもないことだが、ここまで白祐が大人しいと気味が悪い。
最初は白祐が病に伏しているのかとも思ったが、廊下を駆けているのを見かけたのでそういうわけではないらしい。
きっと別のことで忙しいのだろうということでこのことは考えることをやめた。
そして最近の秀英は紅露の話を聞くことが日課となっていた。
紅露が晏寿宅から帰ると晏寿から教わったことや、作った料理のことなどを秀英に報告にくるのだ。
楽しそうに話すのでそのままにしていたが、毎日通っているようなのでだんだんと迷惑ではないかと思い始めた。
そこで秀英は晏寿へ文を書くことにした。
「お兄様、今日はね」
帰宅し、いつものように話し始めた紅露。
話が区切りとなったところで秀英は切り出した。
「紅露、明日も晏寿の所へ行くのか?」
「もちろんにございます!お姉様ともお約束してまいりました」
「そうか。あまり迷惑をかけないように。それと、これを晏寿に渡してくれ」
紅露がいない間に書いておいた文を渡す。
それを見てきょとんとする紅露であったが、はっと気付いたように秀英の顔を見る。
「こ、恋文にございますか!?」
「違う」
自分の妹の思考回路に残念さを感じてしまう。
即答で否定する秀英に、落胆する紅露。
傍から見れば何とも不思議な状態である。
「ようやくお兄様がお姉様の魅力に気付いて下さったのかと思ったのに…」
「なんだそれは」
「だって…何のためにお兄様の縁談をぶった切っているとお思いですの?」
「ぶった切る…」
今まで紅露から聞いたことがないような言葉が出てきて、自分の耳を疑った。
そんなことをお構いなしに紅露は話しだす。
「白祐がお兄様に縁談を持ってくる前に私が確認してますの。そこで私の許可が下りなかったらお兄様のもとに行きつく前に却下してますのよ」
「何のために。以前はそんなことしていなかっただろう」
「お兄様のもとに嫁ぐということは私の義理のお姉様になるということですわ。なら私にも関係のあることですし」
「なんて滅茶苦茶な理由だ。…まぁ縁談がないことには正直助かってはいるが」
「それにね、私お姉様になってもらいたい方がいますの。その方しか今のところは認められませんわ」
うふふ、と笑う紅露。
秀英は呆れた顔をして、ため息をついた。
「それで、姉になってほしいとは誰のことだ?」
「あら、ここまで言ってお解りになりませんの?お兄様は賢い方と思っていましたが、存外そうではなかったのですね」
「失礼な奴だな」
「でもいつかはお兄様もあの方の良さにお気づきになりますわ。私からは教えてあげませんけど!」
そこまで言って紅露はくるくると踊るように部屋を出ていった。
秀英は紅露のいなくなった部屋で、紅露の言っていた姉になってほしい人というのを考え始めた。
きっと紅露の行動に手がかりがあると思い、最近の紅露の会話を思い出す。
最近は紅露はずっと晏寿の所にばかり行って、話題も晏寿ばかりである。
では晏寿の家の者かと検討してみたが、先日行った家には下女もいない。
それに晏寿には兄の怜峯しか兄弟はいない。
「…ん?晏寿の事か?」
紅露はだいぶ晏寿に懐いていた。
それならば合点もいく。
紅露も「お姉様の魅力に気付いて下さったのかと思った」と言っていたことを思い出す。
紅露の言わんとすることが理解できた秀英だが、その相手が晏寿だということに戸惑ってしまう。
今まで仕事仲間だとしか思っていない相手だ。
「悪い奴ではないことはわかってはいるが…」
何度目ともわからないため息をつき、項垂れる秀英だった。
紅露は秀英から渡された文を、早速翌日晏寿に渡した。
本当は、中身が気になったが晏寿がすぐに読む様子ではなかったので、それは断念したのだった。
そしてその日の夜、晏寿は自室で秀英からの文を開いた。
『拝啓
妹、紅露が毎日世話になっている。粗相はないだろうか。
世間知らずな妹故、何かと心配をしている。しかし、本人が楽しそうにしているため、強くこちらからは言い出せない。我儘を言ったら、しっかりと咎めてほしい。
申し訳ないが、よろしく頼む。
敬具』
「ふふ、心配しなくても紅露はいい子なのに」
秀英の兄らしい一面を見て、自然と笑みがこぼれる。
そして返信を書くために、筆と紙を用意する。
次の日も紅露は晏寿の元を訪れることになっているので、紅露に託そうと考えるのだった。
紅露が勝手に勘違いしたのは言うまでもない。
そして一つの疑問を抱えていた。
それは白祐が大人しいことである。
屋敷に長い時間いたら縁談の話の一つや二つ持ってくると思っていたからだ。
秀英には縁談話が無いというのは願ってもないことだが、ここまで白祐が大人しいと気味が悪い。
最初は白祐が病に伏しているのかとも思ったが、廊下を駆けているのを見かけたのでそういうわけではないらしい。
きっと別のことで忙しいのだろうということでこのことは考えることをやめた。
そして最近の秀英は紅露の話を聞くことが日課となっていた。
紅露が晏寿宅から帰ると晏寿から教わったことや、作った料理のことなどを秀英に報告にくるのだ。
楽しそうに話すのでそのままにしていたが、毎日通っているようなのでだんだんと迷惑ではないかと思い始めた。
そこで秀英は晏寿へ文を書くことにした。
「お兄様、今日はね」
帰宅し、いつものように話し始めた紅露。
話が区切りとなったところで秀英は切り出した。
「紅露、明日も晏寿の所へ行くのか?」
「もちろんにございます!お姉様ともお約束してまいりました」
「そうか。あまり迷惑をかけないように。それと、これを晏寿に渡してくれ」
紅露がいない間に書いておいた文を渡す。
それを見てきょとんとする紅露であったが、はっと気付いたように秀英の顔を見る。
「こ、恋文にございますか!?」
「違う」
自分の妹の思考回路に残念さを感じてしまう。
即答で否定する秀英に、落胆する紅露。
傍から見れば何とも不思議な状態である。
「ようやくお兄様がお姉様の魅力に気付いて下さったのかと思ったのに…」
「なんだそれは」
「だって…何のためにお兄様の縁談をぶった切っているとお思いですの?」
「ぶった切る…」
今まで紅露から聞いたことがないような言葉が出てきて、自分の耳を疑った。
そんなことをお構いなしに紅露は話しだす。
「白祐がお兄様に縁談を持ってくる前に私が確認してますの。そこで私の許可が下りなかったらお兄様のもとに行きつく前に却下してますのよ」
「何のために。以前はそんなことしていなかっただろう」
「お兄様のもとに嫁ぐということは私の義理のお姉様になるということですわ。なら私にも関係のあることですし」
「なんて滅茶苦茶な理由だ。…まぁ縁談がないことには正直助かってはいるが」
「それにね、私お姉様になってもらいたい方がいますの。その方しか今のところは認められませんわ」
うふふ、と笑う紅露。
秀英は呆れた顔をして、ため息をついた。
「それで、姉になってほしいとは誰のことだ?」
「あら、ここまで言ってお解りになりませんの?お兄様は賢い方と思っていましたが、存外そうではなかったのですね」
「失礼な奴だな」
「でもいつかはお兄様もあの方の良さにお気づきになりますわ。私からは教えてあげませんけど!」
そこまで言って紅露はくるくると踊るように部屋を出ていった。
秀英は紅露のいなくなった部屋で、紅露の言っていた姉になってほしい人というのを考え始めた。
きっと紅露の行動に手がかりがあると思い、最近の紅露の会話を思い出す。
最近は紅露はずっと晏寿の所にばかり行って、話題も晏寿ばかりである。
では晏寿の家の者かと検討してみたが、先日行った家には下女もいない。
それに晏寿には兄の怜峯しか兄弟はいない。
「…ん?晏寿の事か?」
紅露はだいぶ晏寿に懐いていた。
それならば合点もいく。
紅露も「お姉様の魅力に気付いて下さったのかと思った」と言っていたことを思い出す。
紅露の言わんとすることが理解できた秀英だが、その相手が晏寿だということに戸惑ってしまう。
今まで仕事仲間だとしか思っていない相手だ。
「悪い奴ではないことはわかってはいるが…」
何度目ともわからないため息をつき、項垂れる秀英だった。
紅露は秀英から渡された文を、早速翌日晏寿に渡した。
本当は、中身が気になったが晏寿がすぐに読む様子ではなかったので、それは断念したのだった。
そしてその日の夜、晏寿は自室で秀英からの文を開いた。
『拝啓
妹、紅露が毎日世話になっている。粗相はないだろうか。
世間知らずな妹故、何かと心配をしている。しかし、本人が楽しそうにしているため、強くこちらからは言い出せない。我儘を言ったら、しっかりと咎めてほしい。
申し訳ないが、よろしく頼む。
敬具』
「ふふ、心配しなくても紅露はいい子なのに」
秀英の兄らしい一面を見て、自然と笑みがこぼれる。
そして返信を書くために、筆と紙を用意する。
次の日も紅露は晏寿の元を訪れることになっているので、紅露に託そうと考えるのだった。
紅露が勝手に勘違いしたのは言うまでもない。
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