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第3章 休暇編
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そして、がしっと晏寿の手を握った。
「女は淑やかに、男の人の言うことは全て素直に聞きなさいと耳にタコができるくらい言われましたの。
でも、私はそれがどうしても納得いかなくて…今日、晏寿様にお会いして解決致しました!
私、晏寿様のようになりたいですわ!晏寿様、お姉様とお呼びしてもよろしいですか?」
「えぇえ!?いや、呼び方はなんでもいいんですけど、私みたいにするのはちょっと問題があるかと…」
「そうそう、晏寿のように振る舞っても得はしないと思うぞ。あ、俺の呼び方は景雲お兄様で」
「景雲、何便乗してるのよ!それに失礼ね。確かに得はしないけど、何か得るかもしれないじゃない」
こうして景雲と言い合いをしている間も紅露は晏寿を羨望の眼差しで見ていた。
今まではっきりとした好意を見せられたのは初めてだったものだから、晏寿は戸惑ってしまった。
「あー、紅露様?」
「是非紅露とお呼び下さいませ!」
「じゃあ、紅露。ひとまず、お腹空きませんか?」
「そんな仰々しい話し方ではなく、気軽に話して下さい。お腹は、そうですね」
「私の料理でよければ、ウチで食べていかない?」
「いいんですか?それに、お姉様は料理ができますの?料理人はいませんの?」
「うちには料理人はいないわ。自分でできることは自分でやるの」
『料理人』という発言に、やはり紅露はお嬢様だなと感じた晏寿。
つい苦笑を漏らしてしまった。
「晏寿の料理は美味いからな。存分に二人で楽しんでくれ」
いつもの流れで景雲も当然のようについて来ると思っていた晏寿は、景雲の発言に面喰ってしまった。
「景雲来ないの?」
「ああ、俺は暇じゃないのでな。二人で楽しんでくれ」
実際用事などなかった。
だが自分が行けば、怜峯がまた気を張らねばならないということがわかっていたので断ったのだった。
景雲は手を振りながら、二人を残して帰っていった。
「…うちに行く?」
「はい!」
紅露の元気の良い返事を聞いて、晏寿達もその場をあとにした。
「ふわ~、すごいです…」
「そんなことないよ。毎日やってればできるようになるし」
料理をする晏寿の横で物珍しそうに見る紅露。
「私が勝手場に行くといつも周りの者に止められてしまいますの。やってみたいのに」
「なら、うちでやる?私が休暇中だけだけど」
「よろしいのですか?お姉様から習えるなんて!」
大したことは言っていないし、貴族の息女にそんなことを言って良かったのか不安になったが、やりたいという気持ちを摘んでしまいたくない。
大喜びする紅露を見ていると、妹がいるとこんな感じなのだろうかと感じる晏寿だった。
「じゃあ、やってみようか」
「はい!」
覚束ない手つきであったが精いっぱいやる紅露を優しく見守ることにしたのだった。
そうして昼食ができあがったので、晏寿は怜峯を呼びにいく。
「兄様、昼食ができたよ」
「ああ。わかった」
「報告が遅れたけど、今日は私の知り合いが来てるから。その人も一緒に食べるけどいい?」
「それは…、昨日の二人か?」
探るような口調で聞く怜峯。
そんな怜峯に晏寿は呆れてしまった。
「違うわ、女の子よ。景雲がいたけど、今日は用事があるって」
「そうか!」
急に機嫌が良くなった怜峯を見て、晏寿はため息をつくのだった。
そして、紅露を待たせている食卓へと向かう。
紅露は怜峯に気付くと、恭しく頭を下げた。
「初にお目にかかります。伯家の紅露と申します」
「晏寿の兄の柳 怜峯です。どうぞよろしく」
挨拶も済んだところで、三人は昼食をとった。
「これは紅露が作ったの。今日が初めて料理をしたらしいんだけど、上手く出来てるでしょ?」
「ああ。しっかりと味もついていて美味しいよ」
「ありがとうございます!」
二人から褒められて、嬉しそうに笑う紅露。
怜峯も今回晏寿が連れてきたのが女の子とだけあって、とても和やかに食事が行われた。
「女は淑やかに、男の人の言うことは全て素直に聞きなさいと耳にタコができるくらい言われましたの。
でも、私はそれがどうしても納得いかなくて…今日、晏寿様にお会いして解決致しました!
私、晏寿様のようになりたいですわ!晏寿様、お姉様とお呼びしてもよろしいですか?」
「えぇえ!?いや、呼び方はなんでもいいんですけど、私みたいにするのはちょっと問題があるかと…」
「そうそう、晏寿のように振る舞っても得はしないと思うぞ。あ、俺の呼び方は景雲お兄様で」
「景雲、何便乗してるのよ!それに失礼ね。確かに得はしないけど、何か得るかもしれないじゃない」
こうして景雲と言い合いをしている間も紅露は晏寿を羨望の眼差しで見ていた。
今まではっきりとした好意を見せられたのは初めてだったものだから、晏寿は戸惑ってしまった。
「あー、紅露様?」
「是非紅露とお呼び下さいませ!」
「じゃあ、紅露。ひとまず、お腹空きませんか?」
「そんな仰々しい話し方ではなく、気軽に話して下さい。お腹は、そうですね」
「私の料理でよければ、ウチで食べていかない?」
「いいんですか?それに、お姉様は料理ができますの?料理人はいませんの?」
「うちには料理人はいないわ。自分でできることは自分でやるの」
『料理人』という発言に、やはり紅露はお嬢様だなと感じた晏寿。
つい苦笑を漏らしてしまった。
「晏寿の料理は美味いからな。存分に二人で楽しんでくれ」
いつもの流れで景雲も当然のようについて来ると思っていた晏寿は、景雲の発言に面喰ってしまった。
「景雲来ないの?」
「ああ、俺は暇じゃないのでな。二人で楽しんでくれ」
実際用事などなかった。
だが自分が行けば、怜峯がまた気を張らねばならないということがわかっていたので断ったのだった。
景雲は手を振りながら、二人を残して帰っていった。
「…うちに行く?」
「はい!」
紅露の元気の良い返事を聞いて、晏寿達もその場をあとにした。
「ふわ~、すごいです…」
「そんなことないよ。毎日やってればできるようになるし」
料理をする晏寿の横で物珍しそうに見る紅露。
「私が勝手場に行くといつも周りの者に止められてしまいますの。やってみたいのに」
「なら、うちでやる?私が休暇中だけだけど」
「よろしいのですか?お姉様から習えるなんて!」
大したことは言っていないし、貴族の息女にそんなことを言って良かったのか不安になったが、やりたいという気持ちを摘んでしまいたくない。
大喜びする紅露を見ていると、妹がいるとこんな感じなのだろうかと感じる晏寿だった。
「じゃあ、やってみようか」
「はい!」
覚束ない手つきであったが精いっぱいやる紅露を優しく見守ることにしたのだった。
そうして昼食ができあがったので、晏寿は怜峯を呼びにいく。
「兄様、昼食ができたよ」
「ああ。わかった」
「報告が遅れたけど、今日は私の知り合いが来てるから。その人も一緒に食べるけどいい?」
「それは…、昨日の二人か?」
探るような口調で聞く怜峯。
そんな怜峯に晏寿は呆れてしまった。
「違うわ、女の子よ。景雲がいたけど、今日は用事があるって」
「そうか!」
急に機嫌が良くなった怜峯を見て、晏寿はため息をつくのだった。
そして、紅露を待たせている食卓へと向かう。
紅露は怜峯に気付くと、恭しく頭を下げた。
「初にお目にかかります。伯家の紅露と申します」
「晏寿の兄の柳 怜峯です。どうぞよろしく」
挨拶も済んだところで、三人は昼食をとった。
「これは紅露が作ったの。今日が初めて料理をしたらしいんだけど、上手く出来てるでしょ?」
「ああ。しっかりと味もついていて美味しいよ」
「ありがとうございます!」
二人から褒められて、嬉しそうに笑う紅露。
怜峯も今回晏寿が連れてきたのが女の子とだけあって、とても和やかに食事が行われた。
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