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第3章 休暇編
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「そうだ、晏寿の仕事ぶりはどうなんだ?
ぜひ同僚の君達からの評価を聞いてみたい」
食事が進んでいくとだんだん二人にも慣れたのか、食後に怜峯がそんなことを聞いてきた。
晏寿は後片付けをしていたが怜峯の発言にどきりとする。
「ちょっと兄様、変なこと聞かないでよ」
「いいじゃないか、減るもんじゃないし」
晏寿の不満も景雲があっさりと否定してしまい、また片づけに手いっぱいになってしまったため晏寿はそれ以上の苦言が言えなかった。
「もし晏寿がいなかったら、先日まで行っていた北楊村で馴染むのに時間がかかっていたと思います。女人の柔らかい雰囲気のお蔭でまず子供達が馴染んでくれて。
俺と秀英だけだったらきっとあそこまで溶け込めなかった」
「確かに。それに実を言うと、今の大臣のところに配属されたばかりの頃は晏寿は周りから存在を否定されていました。
しかし、彼女自身の頑張りと実力で今の職場で晏寿を悪く言う人はいません。むしろ華があると喜んでいます」
「もー、やだなぁ。
二人が変なこというから居心地悪いじゃない」
バツの悪い表情でせっせと茶碗や鍋を片づけていく。質問をした怜峯はというと、自分の妹の評価が高かったことに満足なのか嬉しそうに目を細めた。
晏寿はこれ以上自分に分が悪いことを言われないために二人を促した。
「あ、ほら。だいぶ遅くなっちゃったじゃない。家の人が心配してるんじゃない?」
「ああ、だいぶ長居してしまったな。
景雲、そろそろ帰るぞ」
秀英が晏寿の真意には気付かずに、単純に人への迷惑を考えた行動に出る。
景雲は秀英に言われて渋々腰をあげた。
そして玄関まで晏寿と怜峯は見送りに出る。
「遅くまですみませんでした。そして夕食をありがとうございます」
「いや、晏寿の仕事をしている様子なんてなかなか聞ける話ではないからこちらこそありがとう」
秀英と怜峯のやり取りを聞いていて、最初は二人のことを良く思っていなかった怜峯が打ち解けてくれたことにほっとする晏寿。
「だがな」
しかしそんな雰囲気を怜峯はあっさりとぶち壊した。
「同僚、友人としては認めるが、晏寿を嫁にはやらんからな!」
二人が帰ったあと怜峯が晏寿にこっぴどく怒られたのは言うまでもない。
「お帰りなさいませ、秀英様」
秀英が家に帰ると恭しく鈴が頭を下げる。
それを秀英は「ああ」と軽く流す。
「あの、秀英様」
「なんだ」
「本日はどちらに…
このように遅くなることは今までなかったので、ご主人様も奥様も心配なさって」
「鈴には関係ない。用があれば直接二人から聞く」
「っ!」
晏寿の家での柔らかい雰囲気はなく、後ろをちょこちょこ歩く鈴を冷たくあしらう。
その反応に鈴は息を飲んだ。その様子を気にするでもなく、秀英は自室へと向かった。
「お兄様!おかえりなさいませ」
鈴を撒いたあと、次に現れたのは妹・伯 紅露である。
桃色の着物をひらひらさせながら秀英に近づいてくる。
「お兄様、今日は遅かったのですね?」
「…友人と夕食を食べて帰ってきた」
実妹は鈴のようにはあしらえない。
正直に何をしていたのか話す。
「まぁ!
お兄様にそんな仲のご友人がいらっしゃったのね。ねぇ、どんな方?」
質問を投げかけながら、部屋に入っていく秀英のあとを追う紅露。
どんな、と言われて暫く考え、思いついたことを口にする。
「…言動が軽い者と、根性が座っている者だな」
「全然お兄様と性格が違うのですね。どこでお知り合いになったの?」
「同僚だ」
「お仕事仲間なのね」
口元に両手をあてて、楽しそうに笑う紅露。
それを秀英は不思議そうに見る。
「そんなに俺の同僚の話が面白いか?」
「そうではなくて。
お兄様が誰かと出かけたり、誰かの話をするなんて今までありませんでしたし。初めてお兄様が人間に感じましたわ」
「…俺は生まれたときから人間だが」
「まるで人形のようでしたもの。兄妹とは思えないくらい。だから、お兄様と無駄話ができて嬉しいの」
本当に嬉しそうに紅露が笑うので、秀英はそれ以上何も言えなかった。
ただ『一年以上おしゃべりと一緒にいたから移ってしまったか』と少しばかり心配するのだった。
ぜひ同僚の君達からの評価を聞いてみたい」
食事が進んでいくとだんだん二人にも慣れたのか、食後に怜峯がそんなことを聞いてきた。
晏寿は後片付けをしていたが怜峯の発言にどきりとする。
「ちょっと兄様、変なこと聞かないでよ」
「いいじゃないか、減るもんじゃないし」
晏寿の不満も景雲があっさりと否定してしまい、また片づけに手いっぱいになってしまったため晏寿はそれ以上の苦言が言えなかった。
「もし晏寿がいなかったら、先日まで行っていた北楊村で馴染むのに時間がかかっていたと思います。女人の柔らかい雰囲気のお蔭でまず子供達が馴染んでくれて。
俺と秀英だけだったらきっとあそこまで溶け込めなかった」
「確かに。それに実を言うと、今の大臣のところに配属されたばかりの頃は晏寿は周りから存在を否定されていました。
しかし、彼女自身の頑張りと実力で今の職場で晏寿を悪く言う人はいません。むしろ華があると喜んでいます」
「もー、やだなぁ。
二人が変なこというから居心地悪いじゃない」
バツの悪い表情でせっせと茶碗や鍋を片づけていく。質問をした怜峯はというと、自分の妹の評価が高かったことに満足なのか嬉しそうに目を細めた。
晏寿はこれ以上自分に分が悪いことを言われないために二人を促した。
「あ、ほら。だいぶ遅くなっちゃったじゃない。家の人が心配してるんじゃない?」
「ああ、だいぶ長居してしまったな。
景雲、そろそろ帰るぞ」
秀英が晏寿の真意には気付かずに、単純に人への迷惑を考えた行動に出る。
景雲は秀英に言われて渋々腰をあげた。
そして玄関まで晏寿と怜峯は見送りに出る。
「遅くまですみませんでした。そして夕食をありがとうございます」
「いや、晏寿の仕事をしている様子なんてなかなか聞ける話ではないからこちらこそありがとう」
秀英と怜峯のやり取りを聞いていて、最初は二人のことを良く思っていなかった怜峯が打ち解けてくれたことにほっとする晏寿。
「だがな」
しかしそんな雰囲気を怜峯はあっさりとぶち壊した。
「同僚、友人としては認めるが、晏寿を嫁にはやらんからな!」
二人が帰ったあと怜峯が晏寿にこっぴどく怒られたのは言うまでもない。
「お帰りなさいませ、秀英様」
秀英が家に帰ると恭しく鈴が頭を下げる。
それを秀英は「ああ」と軽く流す。
「あの、秀英様」
「なんだ」
「本日はどちらに…
このように遅くなることは今までなかったので、ご主人様も奥様も心配なさって」
「鈴には関係ない。用があれば直接二人から聞く」
「っ!」
晏寿の家での柔らかい雰囲気はなく、後ろをちょこちょこ歩く鈴を冷たくあしらう。
その反応に鈴は息を飲んだ。その様子を気にするでもなく、秀英は自室へと向かった。
「お兄様!おかえりなさいませ」
鈴を撒いたあと、次に現れたのは妹・伯 紅露である。
桃色の着物をひらひらさせながら秀英に近づいてくる。
「お兄様、今日は遅かったのですね?」
「…友人と夕食を食べて帰ってきた」
実妹は鈴のようにはあしらえない。
正直に何をしていたのか話す。
「まぁ!
お兄様にそんな仲のご友人がいらっしゃったのね。ねぇ、どんな方?」
質問を投げかけながら、部屋に入っていく秀英のあとを追う紅露。
どんな、と言われて暫く考え、思いついたことを口にする。
「…言動が軽い者と、根性が座っている者だな」
「全然お兄様と性格が違うのですね。どこでお知り合いになったの?」
「同僚だ」
「お仕事仲間なのね」
口元に両手をあてて、楽しそうに笑う紅露。
それを秀英は不思議そうに見る。
「そんなに俺の同僚の話が面白いか?」
「そうではなくて。
お兄様が誰かと出かけたり、誰かの話をするなんて今までありませんでしたし。初めてお兄様が人間に感じましたわ」
「…俺は生まれたときから人間だが」
「まるで人形のようでしたもの。兄妹とは思えないくらい。だから、お兄様と無駄話ができて嬉しいの」
本当に嬉しそうに紅露が笑うので、秀英はそれ以上何も言えなかった。
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