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第2章 北楊村編

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ほどなく。
三人は酒造り担当の村人に呼ばれた。

何か不測の事態が起こったのだろうかとやきもきしながら行くと、全くの杞憂で終わった。

「この酒を売るにあたって名前が必要だと皆で話したんだ。あんた達、もうじきいなくなってしまうんだろう?
なら、置き土産にこの酒の名前を考えてほしいんだ」

思わぬ申し出にびっくりするも、三人は考えることにした。
しかしなかなかこれという名前が浮かばず、難航した。

「う~ん…どれもしっくりこないな」

床には書きなぐった紙が散らばっている。
三人で適当な名前を言い、秀英が紙に書くも首をかしげるため、その紙を床に捨てる。

最初のほうは晏寿がその紙を拾い集めていたが、数があまりに多いので集めるのを諦めてしまった。

「だいぶ時間がたってしまった」
「本当だ。もう夕刻なのね」

秀英に言われて初めて時間の経過に気付いた。
そろそろ片づけなければならない時間である。

「名前は明日また考えましょ…」

晏寿が言いかけて、不意に止まる。
秀英と景雲は何事かと晏寿をみやれば、晏寿は外を見ていた。視線の先には村の子供達が楽しそうに何かを歌って遊んでいる姿だった。

その無邪気な姿に晏寿は自然と頬を緩めた。

子供達と晏寿を見て、はっと思いついたように秀英が筆を動かす。

「秀英?…“わらべ唄”?」
「ああ。酒の名だ」

二人の会話を聞いて晏寿がそちらに向きかえる。書いてある紙をしげしげと見つめる。

「どういった由来?」
「さっきの子供達の楽しそうな声を聞いたら思いついた。
貴族に生まれようと村人に生まれようと、子供は無垢で無邪気なほうがいい。この酒も肩書きに囚われず、純粋な気持ちで飲んでほしいという意味だ」
「いいな、それ」
「うん、素敵」

意味を知り、二人も納得する。

肩書きに囚われず。

ある意味この村が置かれていた状況を指す言葉である。
三人が来たばかりの村は荒れ果て、城下に住む者達はこの村を蔑んだ目で見ていた。

村人達には絶望しかなかっただろう。

けれど、三人が来てからというもの、徐々に活気が戻ってきて、今まで村全体を纏っていた負の雰囲気がだんだんと薄れていった。

三人はきっかけにすぎず、本来の姿が現れたのだった。
この村をこれから象徴するであろうこの酒にはぴったりな名前となった。


酒の名前は村人達も納得してくれ、無事に三人の仕事が一つ一つ終わっていった。

そして三人はようやく子供達に別れのことを告げた。

「えー!やだ!ずっとこの村にいてよ!」

三人の足に子供達はひっついて離れようとしない。
裾を引っ張って大泣きしている子もいる。
晏寿はしゃがんで子供達の目線になり、話し始めた。

「もうこれから絶対会えないわけじゃないわ。
寂しくなるけど、私達は皆のこと忘れたりしない」

一人の子供の涙をぬぐう。
それを見ていて、景雲が近くの子供を抱き上げ笑いかける。

「はは、顔ぐちゃぐちゃだな。
いっぱい泣け。そしていっぱい笑え。
それが一番俺が教えたかったことだ。決して忘れるなよ?」

鼻をすする音が返事となった。

「…いつか村を出て、誰かをどうしても頼らなければならない時がくるかもしれない。
その時は俺達を頼ればいい。俺達は絶対に裏切らない」

秀英もぎこちなくも頭を撫でる。
しかし言葉が小難しかったようで、あまり伝わらなかったようだ。

それが秀英には不服だったようで、撫でていた手で子供の頭をぐしゃぐしゃにした。
頭をぐしゃぐしゃにされたのが面白かったのか、やっと笑いだした。

一人が笑いだすと皆つられて笑いだし、三人はやっとほっとした表情になった。

村人達にも挨拶を済ませ、後任への引き継ぎも済ませた。

そして、三人が帰る日となった。

「今までお世話になりました」

晏寿が頭を下げる。

「世話になったのは俺らのほうだ。頭をあげてくれ」
「ああ。本当に感謝してるんだ。また、遊びにきてくれないか?」
「…!是非、また来ます」

村人の嬉しい言葉につい顔が綻ぶ晏寿。
本当にこの村は変わったと、感じる瞬間でもあった。

北楊村はその後地酒・わらべ唄の発展で、見違えるような成長を遂げた。

数年後には廃れた村の面影もなくなり、とても豊かな村になり、のちの歴史にはこの村の発展には三人の若者の努力があったと語られるようになる。



※補足説明

本編で語られるお酒の作り方ですが、本来ならばもっと多くの複雑な工程を経てお酒は作られていきます。
しかし、歴史小説よりもファンタジーに近いお話として書かしていただいておりますので、実際の作り方とは異なっております。

また、現在の日本で自分でお酒を作ると酒税法に引っかかりますのでご注意ください。
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