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第2章 北楊村編
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三人が北楊村で畑仕事を手伝っているときだった。
「伯 秀英、柳 晏寿、容 景雲」
いきなり見知らぬ男に声をかけられた。
男の身なりは整っていて、すぐに村の者ではないとわかった。
男は持っていた鞄から紙を一枚取り出した。
「このたび李 儀円大臣の名のもとに三名を任期満了とし、北楊村での任を完了したものとする。
よって三名は早急に仕事を後任へと引き継ぎ、王宮へ戻るように命ずる」
男が読み上げたあとも、三人は硬直して動けなかった。
「定住してもいいって言った癖に、今度は帰れってか。随分勝手だな」
畑仕事の休憩中、景雲がぼやいた。
男はあの後、すぐさま帰っていった。
残された三人は暫く呆然としていたが、双子の父親・銀悠によって意識を取り戻した。
「意外だね。景雲が一番帰りたがると思ってたんだけど」
「そりゃあ最初の頃はそうだったが『住めば都』って言うだろ?
ここでは想定外のことばかりで、毎日刺激だらけだったからな」
ふっと今までのことを思いだしたのだろうか。
懐かしむように景雲は笑った。
「しっかし、思い出にふけっている場合ではないのだろうな。早急に帰れ、だからな」
「いつ引き継ぎが来るかはわからないが、資料をまとめてたほうがいい」
「だな。幸い酒造りのほうは村の人だけでできるようになってるから、その空き時間を使ってまとめるか」
今後のことを簡単に話したところで村達が仕事を再開し始めたので、三人も作業へと戻っていった。
引き継ぎの準備と酒造りの監督、更には畑仕事の手伝い。
三人は今まで以上に働いた。
そして後任の赴任の日程が一週間後という達しが来たので、村人に自分達が帰ることを伝えた。
「そうか…なんだか寂しくなるな」
「あんた達は俺らのために全力でいろんなことをしてくれたから、感謝してもしきれないよ」
まず一緒に畑仕事をしていた人達に話した。
皆手を止め、三人を見て残念そうに零した。
次に酒造りをしている建物に行き、帰ることを話した。
こちらでも畑と同じように皆、残念がっていた。
その後村を回っていって別れの挨拶をしていったが、三人はなかなか子供達に伝えることができなかった。
「花蘭達には言いにくいなぁ…」
晏寿がぽろっと漏らす。
二人も同感なようだった。
「ある意味、子供達がいたから俺達は受け入れられたようなもんだからな」
「そうだな。ただ、黙っておくわけにもいかないからいずれ言わないといけなくなる」
「泣くだろうね。なんだかんだ皆泣き虫だから」
子供達一人一人の顔を思い出し、三人は小さく笑いあうのだった。
「伯 秀英、柳 晏寿、容 景雲」
いきなり見知らぬ男に声をかけられた。
男の身なりは整っていて、すぐに村の者ではないとわかった。
男は持っていた鞄から紙を一枚取り出した。
「このたび李 儀円大臣の名のもとに三名を任期満了とし、北楊村での任を完了したものとする。
よって三名は早急に仕事を後任へと引き継ぎ、王宮へ戻るように命ずる」
男が読み上げたあとも、三人は硬直して動けなかった。
「定住してもいいって言った癖に、今度は帰れってか。随分勝手だな」
畑仕事の休憩中、景雲がぼやいた。
男はあの後、すぐさま帰っていった。
残された三人は暫く呆然としていたが、双子の父親・銀悠によって意識を取り戻した。
「意外だね。景雲が一番帰りたがると思ってたんだけど」
「そりゃあ最初の頃はそうだったが『住めば都』って言うだろ?
ここでは想定外のことばかりで、毎日刺激だらけだったからな」
ふっと今までのことを思いだしたのだろうか。
懐かしむように景雲は笑った。
「しっかし、思い出にふけっている場合ではないのだろうな。早急に帰れ、だからな」
「いつ引き継ぎが来るかはわからないが、資料をまとめてたほうがいい」
「だな。幸い酒造りのほうは村の人だけでできるようになってるから、その空き時間を使ってまとめるか」
今後のことを簡単に話したところで村達が仕事を再開し始めたので、三人も作業へと戻っていった。
引き継ぎの準備と酒造りの監督、更には畑仕事の手伝い。
三人は今まで以上に働いた。
そして後任の赴任の日程が一週間後という達しが来たので、村人に自分達が帰ることを伝えた。
「そうか…なんだか寂しくなるな」
「あんた達は俺らのために全力でいろんなことをしてくれたから、感謝してもしきれないよ」
まず一緒に畑仕事をしていた人達に話した。
皆手を止め、三人を見て残念そうに零した。
次に酒造りをしている建物に行き、帰ることを話した。
こちらでも畑と同じように皆、残念がっていた。
その後村を回っていって別れの挨拶をしていったが、三人はなかなか子供達に伝えることができなかった。
「花蘭達には言いにくいなぁ…」
晏寿がぽろっと漏らす。
二人も同感なようだった。
「ある意味、子供達がいたから俺達は受け入れられたようなもんだからな」
「そうだな。ただ、黙っておくわけにもいかないからいずれ言わないといけなくなる」
「泣くだろうね。なんだかんだ皆泣き虫だから」
子供達一人一人の顔を思い出し、三人は小さく笑いあうのだった。
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