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拾われ令嬢、家をもらう

アティ、ネックレスをもらう

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 翌日、アティはハロルドの執務室の隣にある休憩室で目を覚ました。工房に家具が届くまで、この部屋がアティの仮住まいになったのだ。
 セドリックは本来の性別が男と言うことで、ウィルによって問答無用で宿舎の方へ連れていかれていた。

 身支度を整えたアティは、執務室を出た。彼女は貴族令嬢だが、長い寮暮らしのおかげで1人で自分の身支度をできるのだ。
 すると、執務室の外にハロルド、ディーン、セドリックの3人が立っていた。

「おはよう、アティさん。よく眠れたかい?」

 一番にアティに気づいたハロルドは、朝早くだというのに輝かんばかりの笑顔で挨拶する。

「おはよう、アティちゃん。今日も可愛いね」

 ハロルドとは対照的に、ディーンは少し眠たそうだ。彼も笑ってはいるのだが、覇気がない。

「おはようございます、姫様。今日も良い天気ですよ」

 嬉しそうな笑顔のセドリックはアティの近くに飛んで来ると、可愛らしくお辞儀をする。

「みなさん、おはようございます。すみません、私、遅刻してしまいましたね」

 アティは失敗してしまったと可憐な顔をしかめた。
 しかし、すぐにハロルドが訂正する。

「いやいや、騎士団の朝の訓練があったから早くいただけで、約束の時間までには、まだまだはあるよ」
「うーん、早く来ちゃったから驚かせちゃったかな。ごめんね」
「わたくしだけで姫様の元に馳せ参じると言ったのに、ハロルド殿とディーン殿が共に来たのです。朝一番の挨拶は、わたくしが言いたかったのに……!」
「セドリックくんは過激だねー」

 ディーンは眠たそうな目をこすりながら言った。

「ディーンさん、眠たそうですけど大丈夫ですか? ドレスは今日でなくても……」

 そう、今日のアティの予定は、これからの衣類や消耗品を買いに行くことだった。
 それは昨日の内に済ます予定だったのが、あの騒動で時間が足りなくなってしまったのだ。

「いや、寝不足なだけだから大丈夫……そういえば、アティちゃんにこれを渡そうと思ってたんだ」

 そして、ディーンは胸元から1つのネックレスを取り出した。
 それは透明な石の中に魔方陣が閉じ込められていて、革紐のネックレスだった。
 
「これは第2騎士団の団員に渡してる守護魔術がかかってるネックレスだよ。1度だけだけど、致死ダメージの身代わりになってくれるから、いつでも身につけててね」

 騎士団員として認められたのだと思うと、アティは嬉しさで笑顔になった。

「ありがとうございます、ディーンさん。着けてくれますか?」
「姫様、それはダメでございます! わたくしが着けますから、ご容赦ください!」

 微笑みながらアティが頼むと、セドリックが焦ったように大声をだした。

「この軟派男に首筋をさらせば何をされるか分かりません。わたくしにお命じください」

 そのあんまりな発言に、ハロルドがムッとした顔で抗議する。

「うちのディーンはレディに対して失礼なことはしませんよ。そんなことを思いつくセドリックさんの方こそ危険なのでは?」
「な!? このわたくしに下心があると申すのですか?!」
「下心があるからディーンにあんな下劣なことを言ったんでしょう? セドリックさん、ディーンに謝ってください」

 バチバチと火花を散らす2人に、アティは困ったようにディーンを見た。
 すると彼は嬉しそうな笑顔をしており、アティの視線に気づくと彼女の耳元でささやいた。

「ハロルドさんって本当にお兄ちゃんだよね。ほんと、眩しいくらい」

 笑顔でそう言うディーンの方が、アティには眩しく見えた。

「ハロルドさんとセドリックは、いったい何をしているんだ? 喧嘩か?」
「あれ、バートくんじゃん。どうしたの?」

 そんなことをしている廊下に、書類を抱えたバートが歩いて来た。

「ハロルドさんに急ぎの書類を持ってきたんだが……取り組み中みたいだな」
「ハロルドさんはね、いまオレのためにセドリックくんに抗議してくれてるの。ありがたいよね」
「ああ、それはハロルドさんなら当然だな」

 ニコニコと笑顔を絶やさないディーンに、バートは肩をすくめて生真面目な顔で答えた。
 そして、彼はアティが手に持っていたネックレスを見ると、合点がいったとうなずく。

「ああ、さすがディーンだ。仕事が早いな……また、徹夜したのか?」
「……うん、波に乗っちゃったら止まらなくて寝るのを忘れちゃったんだよね。それにアティちゃんに早く渡したかったし、まあ、いいかなって」
「ディーンさんが作ってくださったんですか?」

 アティはディーンの言葉に驚いた。学校の座学で習っただけの彼女でも、この宝石が上等なものだと分かっていたからだ。

「うん、バートくんと一緒に作ってるんだ」
「僕がスケープゴートネックレスを作って、ディーンが発動の要になる魔方陣を組み込んでいるんだ。
 第2騎士団のために僕たちが作り出した装備品で、新しく団員が入ったらすぐ渡すことにしている。命に関わるからね。
 これの素晴らしいところは……」
「バートくん、わかったから落ち着いて。というか、いっつも思うけど、バートくんのネーミングセンスってちょっと微妙だよね」
「なんだと!? 簡潔ではっきりとしていて良いじゃないか!」

「あ、あの!」

 アティは段々とずれていく話に、待ったをかける。
 すると、言い合っていた2人は申し訳なさそうな顔で、ごめん、と謝った。

 そして、ディーンは過激な熱を帯び始めたハロルドとセドリックにようやく気づく。

「あ、そろそろ、あっちも止めなきゃね」

 機嫌の良さそうなディーンが軽い足取りで言い合いする2人のもとへ向かった。
 それを見守ってたバートは、アティがネックレスを握りしめていることに気づくと声をかける。

「もしよければ、僕が着けようか?」
「いいんですか?」
「ああ、もちろんだ」

 そしてアティはネックレスをバートに渡し、髪の毛を横に流した。

「これは団員の死亡率が高かったときに、ディーンと必死に考えて作ったんだ。僕たちは王都の治安警備が主な仕事だが、モンスターとも戦うからね。
 絶対に外さないでくれ。僕たちは君の命を守りたい。
 これならそれができるんだ」

 首の後ろで結ばれたネックレスには、暖かな熱を宿っているように感じた。それはディーンとバートの祈りの熱量なのだと、アティは思う。

「はい、ありがとうございます、バートさん」

 アティは花が咲くように笑う。2人の気持ちが、彼女にはとても嬉しかった。
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