時計の魔女の追憶

結月彩夜

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1章

4.

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「たしかに、きれいです。うつくしいとも思います。でもね、ここには、人がいたんです。いえ、今もいます。彼ら彼女らは、水の中では、生きられない。しんでしまう。」
《そうなの?水の中できれいになれたから良かったんじゃない?》
私の背後から、“アメフラシ”に向かって火の玉が飛んだ。
「ルー君っ!無事ですかっ!」
振り返りはしなかったが、声で誰だかはわかった。
副隊長の『火焔の魔法使いアルシャ・ルーヴ』だ。
「無事です。問題ありません。」
《ニンゲンが増えた?》
「なぜ、君はサイラン王国を沈めているのですかっ!?水の魔物“アメフラシ”っ」
《?だって、水の中の方がきれいでしょう?》
「は?」
副隊長は、絶句して固まってしまった。
「君は、いったい、なにを、言っているのです…?」
一語一語切るようにして、副隊長はいった。
《私は、きれいなものがすき。だからだよ?》
“アメフラシ”は、何か問題でも?といった様子で、答える。
「………そうですか。」
「『火焔かえんの魔法使いアルシャ・ルーヴ』が告げる。かの敵を討ち滅ぼすほむらを我が手に与えよ、と。」
副隊長のまわりが、真白の焔であふれた。
副隊長は、右手を振り上げ前方のアメフラシを指差した。
「いけ。」
静かなけれども、怒りのこもる声で周りにうかがている焔に命じた。
真白の焔は、いまだ私の水の魔法で縛られている“アメフラシ”へと向かっていく。
“アメフラシ”は、水で副隊長の焔を相殺してしまった。
「っ!」
私の鎖は、別に”アメフラシ“の能力を封じるものではなかったからだ。
そこから、副隊長と”アメフラシ“の応酬が始まった。

これは、やばいかも知れない…。
“アメフラシ”はもともと周囲に注意なんか払っていなかったが、副隊長も頭に血が上っていて、周囲に意識が向いていない。
へたしたら、いや、下手しなくても、周囲が破壊されてしまう。

結界魔法──展開
本来の結界は、外からの影響を排除するものだ。
今回は、それを反転させて、中のものを外に出さないようにしている。
これで、周囲に影響が及ぶことはないはずだ。

副隊長の魔力がつきかけている。
それも仕方ないことだ。
あれから、一刻はたっている。
そろそろ、交代した方が良いだろう。
「副隊長っ!替わりますっ!」
私は、そう言って副隊長と位置を入れ替えた。
転移の魔法の応用である。
「っ!ルー君っ!?」
「副隊長は、休んでて下さいっ。魔力つきかけていらっしゃるでしょうっ!」
「っですが…!」
「私は問題ありませんっ。歴代1位誇る魔力量があるんですよ?わたし。」
そういうと私は“アメフラシ”を見た。
やっぱり、なんで副隊長があんなに怒ったのか、わからないという顔でこちらを見ている。
「『時計の魔女ルー・ルー』が告げる。かの者の時は緩やかにながれり、と。」
“アメフラシ”の時間だけを緩やかに、つまりは遅くする。
私の持つ固有魔法は、“時間支配”である。
とはいえ、過去に戻ることは出来ない。
ただ、その場限りで時間をはやくしたり、遅くしたり出来る魔法である。
対人戦においては!非常に有利である。
相手が、ほぼ止まっている隙に逃げたり相手を倒したりといったことが出来てしまうからだ。
あとは、このまま放置して、避難完了の連絡を待つだけだ。 


「避難完了しましたあっ!」
待ち望んだ報告がきた。
さて、目の前の“アメフラシ”をどうしよう…。
そう思って、ふと、思い出した。
先生の言葉と魔法に関する一コマを。

『すべての事柄は、一生に一度の出逢いです。ですから、その出逢いを大切になさい。』
『一般的には、魔物は単なる討伐対象ですが、私たち魔法使いや魔女にとっては、違う場合があります。あまりいませんが知性のある程度存在する高位の魔物とは、契約を結ぶことが可能です──。』

「一生に一度の出逢い…。魔物と契約…。」
あ。良いこと思いついたっ!
「水の魔物“アメフラシ”私と契約を結びませんかっ?!」


───
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