時計の魔女の追憶

結月彩夜

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1章

2.

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「うにゃ…」
「目、覚めました?」
「にゃい…」
「……寝ぼけてますね。」

気づけば朝になっていた。
「おはようございます。ルリ、でしたよね。」
「ん。ルリだよ。おはようですなの。」
「朝食にしますよ。」
そう昨日の金髪に真紅の目のお兄さんが言って、テーブルの上にトレーを置いた。
トレーの上にはパンと目玉焼きと、葉野菜がのっかっていた。
ルリの分は少なめに持ってあった。
それでもルリは多いなあと思っていた。
「「感謝を」」
「う?それなあに?」
「ルリのいたところは食べる前に何かしていませんでしたか?」
「んとね、りょうてをくんでね、ごかごをっていってたよ。」
「なるほど。私たちがやったのとは違いますね。私たちの言ったものは恵みに対する感謝ですが、君のところは神に対する祈りなのですね。」
ルリは何となく”かんしゃ”の方が素敵な木がした。
だから、真似してやってみたのだ。
…んと。りょうてをあわせて。
「かんしゃを」
そんなルリを2人は微笑ましげに眺めていた。


「では、自己紹介をしましょうか。俺は、『星守りの魔法使いエトア・ルー』です。君の名前は?」
「ルリだよ。」
「ではルリと呼びますね。よろしくお願いしますね。俺の妹弟子の『ルリ』。」
「うんっ。」

「魔法は世界とつながることで行使することができます。もっともやりやすい方法は、『詠唱すること』です。今回は、世界とつながってみましょうか。」
そういって、エトアにいさんは私の眉間に、人差し指をつけてトンっと押した。
とぷんっ
次の瞬間、私は水の中にいた。
沈んでいく。
ああ。
これが世界。
ねむいな。
心地いいな。
私は、体中の力を抜いて墜ちていく。
どこまでも。どこまでも。
そうして、意識をなくした。

「怖くはなかったですか。」
目が覚めると、エトアにいさんが心配そうに私をのぞき込んでいた。
「うん。すんごいねえ、いごこちがよかったよ。たのしかった。またやりたいなあ。」
「ここまで、順応が早い子供も珍しいですね。さっきの間隔忘れないでくださいね。」
「はあいっ」
「さて、俺も先生も攻守で言うなら、守りの魔法使いです。ですから、守りの魔法を教えますね。」

初めに教わった魔法は、結界だったことを思い出す。
月日が幾日も幾年もたった。
ある時、先生にもらった懐中時計がルリの人生の起点となった。
魔女名を持つ魔法使いや魔女の中には自分だけの持つ魔法『固有魔法』を持つ者もいる。
ルリは時計と出会ったことで、固有魔法の才能を開花させた。
 
「ルリ。君を一人前の魔女だと認めます。私が君に与える魔女名は『時計の魔女ルー・ルー』。」
魔女名を師から、与えられるというのは半人前ではなく一人前なのだという証。
「今この時をもって、「見習い魔女ルリ」は、『時計の魔女ルー・ルー』です。
…よく頑張りましたね。ルリ…いえ、ルー・ルー。君の門出を祝福しましょう。」
先生はそう言って薬草の花を手折っていった。
「『宝石の魔法使いシュム・クー』が告げる。この幸いにふさわしき祝福を。」
ピキり
花は固まり、宝石となった。
これこそが、先生が『宝石の魔法使い』といわれる所以であり、これが先生の固有魔法であった。
「相変わらず、綺麗です。」
「きみに差し上げますよ。これは君の祝福を願ったものなので。」
「次は俺の番ですね。」
「『星守りの魔法使いエトア・ルー』が告げる。祝福の星よ、降りそそげ。」
兄さんが命ずるとおり、星が降り注ぐ。
今日は、月さえない暗闇。
その中で、流れ星はひどく美しかった。
2人の魔法使いによってなされた祝福は、本物で同時に貴重なものであった。
魔法使いや魔女は、あまり、祝福をしないからだ。
今だけは、この美しい光景に見とれていたいと思った。

夜が明ければ、私の生活は変わる。
何せ、今日からわたしは、王宮魔女として、勤務することになるからだった。
実のところ、先生も兄さんも王宮魔法使いだ。
その関係で、私も王宮に勤めることになったのだ。


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