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3巻
3-3
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「このくらいの速度で大丈夫ですか?」
「フゴッ!」(はいです!)
「問題ありません」
「私も大丈夫ですわ。魔術師とはいえ、基礎訓練は積んでおりますから」
朔の問いに対し、リトは尻尾を振りながら元気よく答え、ロジャーとエマが後に続く。細い身体とは裏腹に、エマはしっかりした足取りで、雨が降る森の中を走ることができていた。
「皆さん! 右奥と左方向から来ます!」
森を走ること数十分、ナタリアの声が森に響いた。エマとナタリアを中心に素早く陣形を組み、武器を構える。
「ロジャーさん、リト!」
準備が整ったところで朔が指示を飛ばす。ロジャーとリトは、距離を取りながらこちらを囲もうとする魔物の群れに対し、魔力を込めて叫ぶ。
「挑発!」
「フゴッ!」(挑発!)
サーベルラットの群れは、挑発によって意思とは関係なく走り出してしまい、木をかき分ける音を立てて朔たちの前に姿を現した。
「リトは挑発をかけ続けて! シンは奥からこっちに追い立てて!」
「フゴッ!」(はいですっ!)
「クッ!」(あいっ!)
朔は指示を出しつつ、バトルスタッフをコンパクトに振り回し、向かってくる敵を数体まとめて叩き潰していった。また、リトのレベルでは一度に釣り出せる数は少ないものの、リトは挑発を何度も繰り返し、シンは後方にいるサーベルラットを風鎌で切り刻んでいく。
一方、ロジャーの方には、一度の挑発で数十体のサーベルラットが殺到していた。
「風鎌!」
ロジャーのすぐ後ろで魔力を練っていたエマが、四つの風鎌を放った。それは、数多くのサーベルラットごと森を切り裂いていく。
「お見事です」
エマを称えたナタリアは二本の矢を番え、連続で放っていく。正確に身体を貫かれたサーベルラットは、ことごとく絶命していった。
「え……もう、終わったのか?」
結局、大盾とメイスを構えたロジャーは一体も倒すことなく、戦闘は終了したのであった。
その頃、馬車での待機組もまた襲撃を受けていた。先ほど倒した何十体ものサーベルラットはラッキーフラワーが処理をし、地面に穴を掘って埋めたにもかかわらず、その血の臭いを、グラスウルフの群れが嗅ぎつけたのだ。
「カイン、三十七匹だ。行けるか?」
「はい! タンザ、バステトは馬車上から攻撃!」
イルの問いかけに、カインは力強く答え、すぐに仲間に指示を飛ばした。
「かしこまりました。火玉」
「はい……にゃっ!」
タンザは範囲を重視した火玉を飛ばしてグラスウルフの行動を制限し、バステトは短弓を引き絞り丁寧に放っていく。
「キザンは気を引きつつ防御、僕とツェンで素早く倒す!」
「おうっ!」
「やっと出番っす!」
キザンとツェンは武器を構え、カインの横に並び立つ。武装を新調したことも相まり、彼らに新人冒険者らしさはなくなっていた。
しかし、彼らの気合とは裏腹に、その戦いは思わぬ形で終わることになる。イアンとトウカの活躍だ。
その理由は単純で、朔が重たい馬車を引かせるからと、レベルが最大になるまで二頭に魔石を与えたからであった。
「「ヒヒイイイイイイイインッ!!!」」
Eランクの最大までレベルアップし、手綱と馬車から解放されたイアンとトウカは、平原を縦横無尽に駆け回った。
そしてFランクの魔物であるグラスウルフを、ミスリルと魔鉄の合金でできた蹄鉄で踏みつけたり、蹴り上げたりしていく。
後ろから迫ったグラスビッグウルフは、トウカの後ろ脚での蹴りによって無残な姿にされていた。
「また出番がないっす!」
「楽でいいにゃ~」
ツェンの叫び、そして対照的なバステトののんびりした声が平原に響いた。
■
朔たちが捜索を開始して数時間後、森にある池のほとりの草むらでは、全身泥まみれの大柄な男が高熱に苛まれながら、うつぶせの状態で息を殺していた。
(くっ、池に潜ってやつらを撒いたのはいいが……これは駄目かもな)
彼の名はダン。シンシアの父親であり、朔たちが必死になって捜している男だ。
昨夜から一睡もしておらず、ダンは重くなってきた瞼を必死の思いで開けて、周囲の気配を探り続けていた。
(シンシアたちは逃げきれただろうか……。ガストロは頼りになるし、癪にさわるがサジの野郎がいるから大丈夫だよな……っと、何だ?)
ダンは突然自分の周囲が暗くなったことに違和感を持ち、ごろりと体を半回転させて空を見上げる。視線の先には、舌をちょろちょろ出し、鎌首をもたげる大蛇がいた。
(ちっ……シンシア、最後まで駄目な父親ですまん)
ダンは力を抜き、目を閉じる。
しかし、いつまで経っても大蛇の牙が彼を貫くことはなかった。
不審に思った彼は、目をそっと開ける。すると大蛇の目には、先程までは確かになかった矢が突き刺さっていた。
(なんだ!?)
「リア、ナイス! ロジャーさん!」
「挑発!」
声が響いたと同時に、大蛇は目の色を変えてその声がした方へと猛進していった。
「風鎌! なっ? この蛇、MDFが高いですわよっ!」
「うおおおお! シールドバッシュ!」
エマが放った風鎌を食らいながらもスピードを落とさない蛇に対し、ロジャーが大盾で迎え撃った。金属製の大盾で殴りつけられた大蛇は、ふらふらしつつもロジャーを睨みつけるが、動きは完全に止まっていた。
「好機です!」
ナタリアは、引き絞っていた対大型魔物用の矢を放つ。空気を切り裂きながら飛ぶ矢を、大蛇は全身を捻って躱す。しかしそこへ、両翼に風鎌を維持し、両足にそれぞれ瓶を掴んだシンが、気配遮断と無音飛行を最大限に発動させて飛び込んでいく。
「クック?」(あれ、バレてる?)
シンが感づいた通り、大蛇は熱感知というスキルでシンを捕捉していた。大蛇は近づいてくるシンを丸呑みにしようと、大きく口を開いて襲いかかる。
「クッククー♪」(残念でしたー♪)
シンは閉じられようとしていた大蛇の口をすり抜けて、後方へ向かって加速した。
本当の狙いは風鎌による攻撃などではなかったのだ。
シンはタイミングを慎重に見計らい、両足に掴んでいた瓶を放し――それはダンのそばに落ちた。
「わっ、なんだっ!? これは……ポーション!?」
シンが落とした瓶の中身は、ポーションとキュアポーションだった。
ダンには気配遮断を使ったシンの姿が見えていないため、空から突然降ってきたようなものであったが、弱った力を振り絞って蓋を開け、二瓶とも一気にあおる。
ポーションによる効果は早く、体力と苦しんでいた鼠咬症の症状がすぐに和らいでいく。
そこへ、ガストロが駆け寄ってきた。
「ダン! ちゃんと生きてたな!」
「ガストロ!? どうしてここへ!?」
「説明は後だ! 早く離れないと巻き込まれるぞ!」
「はあ!?」
「いいから走れ!」
ガストロは、ダンの肩を担いで無理やり立ち上がらせた。そして、すぐに移動を始めるが、ダンには何がなんだかわかるわけもない。
「ダンさんは無事に離れたね。じゃあ、ちゃんと範囲を絞って……炎壁!」
ガストロがダンのもとに向かったとき、朔は既に大量の魔力を大蛇の周囲に行き渡らせており、二人が離れるやいなや魔術を発動させた。待っている間に溜まっていた魔力により、大蛇は木々よりも高く燃え上がる炎の柱に包まれる。
「キシャアアアアアアア!!!」
高温の炎にさらされた大蛇は、毒液を撒き散らして逃げようとするが、ナタリアが放った太く長い矢が飛来した。
「シャ!?」
矢は硬い鱗を貫き、大蛇の身体は地面に縫いつけられた。矢を抜こうと身を捩って暴れるが、次々と放たれた矢が容赦なく大蛇を貫いていく。
やがて大蛇は焼き尽くされ、黒い跡と魔石だけが、からからに乾燥した湿地の地面に残っていた。
「サクさん?」
「はい、ごめんなさい。相手の強さを確認していなかったので、かなり本気でやりました」
「正解です」
「え?」
「今回に関してはそれで問題ありません。あの大蛇は危険な毒液と高いMDFを持つ、Dランクのアシッドパイソン。一度捕まって締めつけられれば、オークでさえも全身の骨を折られて絶命してしまうような強敵です」
そう言ってナタリアは微笑み、その笑顔を見た朔はほっと胸を撫で下ろすのであった。そんな彼の頭の中にいつもの声が響く。
《レベルが上がりました》
(お、やっぱりDランクは経験値がおいしいね。ステータス)
NAME:朝倉朔
AGE:15(28)
SPECIES:人族
LV:40←UP!
JOB:上級錬金術師LV23←NEW!、上級魔術師LV19←NEW!
仲魔:シン(シャドウオウル)、リト(リザードオークナイト)
ステータス←UP!
HP:40064/40064+-(1024)
MP:47348/48188+-(2048)
STR:549+-(13)
VIT:547+-(13)
AGL:563+-(13)
DEX:713+-(17)
INT:719+-(18)
MAT:692+-(18)
MDF:518+-(12)
TALENT:回復魔法の才能、錬金術の才能、魔法の才能、生産の才能
SKILL:テイムⅢ、直感Ⅲ、剣術Ⅲ、高速思考Ⅲ、診断Ⅳ、調合Ⅴ、解体Ⅲ、料理Ⅳ、大陸共通語Ⅱ、絶倫Ⅰ、火魔法Ⅳ、意思疎通Ⅱ(仲魔)、恐怖耐性Ⅰ、魔力操作Ⅳ、回復魔法Ⅴ、【神聖魔法Ⅶ:隠蔽中】、魔力精密操作Ⅲ、魔具作成(魔法陣)Ⅴ、杖術Ⅱ←UP!、魔力遠隔操作Ⅲ、土魔法Ⅲ、重力魔法Ⅲ←UP!、付与魔法Ⅳ、魔具作成(魔法付与)Ⅳ←UP!、身体操作Ⅰ←NEW!、鍛冶魔法Ⅱ←NEW!、雷魔法Ⅱ←NEW!、秘薬作成Ⅰ←NEW!、消費魔力減少Ⅰ←NEW!
GIFT:アイテムボックスⅡ←UP!、看破の魔眼、伝言板
称号:【聖者、神の友人:隠蔽中】、奇妙な回復師、ダンジョン攻略者(Eランク)
残りポイント15
(うん、順調だね。よし、ダンさんって人のとこに行かないと)
ステータスを急いで確認し、ご満悦の朔であった。
なお、朔は王都での大量の魔導具作りにより、いくつかのスキルが上昇した上、下級錬金術師のレベルが最大まで上がったため、上級錬金術師へとジョブを変更していた。
ちなみに、上級錬金術師は才能値のMPに×2、DEXに+3、INTに+3、MATに+2の補正がかかり、秘薬作成という薬やポーションの効果を著しく上昇させるジョブスキルも習得可能だった。
また、上級魔術師は才能値のINTに+1,MATに+1、MDFに+1の補正がかかり、消費魔力減少というMPの消費を抑えるジョブスキルを習得できる。
朔がダンの姿を探していたら、ゆっくりした足取りで彼とガストロが近づいてきていた。
「アサクラ男爵、この度は本当にありがとうございました。おい、ダン」
「俺はダン……です。シンシアを助けてくれたと、こいつから聞いた……ました。ありがとうございます」
ガストロに肘で小突かれ、ダンはたどたどしい口調で感謝を告げた。スキンヘッドで強面のおっさんである彼のその姿に、朔は思わず笑いがこみ上げてしまう。
「あはは、普通に話していただいて構いませんよ。私はサク・フォン・アサクラと言います。シンシアさんやサジさんも首を長くして待っているでしょうし、早く帰って休みましょう」
「あ、ああ」
気軽な朔の態度に、ダンはあっけに取られてしまった。一方、そこには別の理由で呆けている者もいた。
「アシッドパイソンを魔術で焼き尽くす……私たちって必要ですの?」
エマは焼けた跡からアシッドパイソンの魔石を拾い上げる。その大きさから、Dランクの中でも高いレベルであることが彼女にはわかっていた。ロジャーはエマの肩に手を置き、朔の方を見ながら口を開く。
「一人の英雄ができる範囲は限られてるからな。俺たちがするのはそのフォローだよ」
「ナタリア様の剛弓といい、まるでおとぎ話でも見ているようですわ」
「確かに、後に英雄譚として語られるのかもしれない。従者としてそばにいられるのは名誉なことだ。ひょっとしたら、俺たちの名前が出るかもしれないぞ?」
「はあ……せめて足を引っ張らないように頑張らないとですわね」
余談であるが、エマは後にある冒険記を書くことになり、それはとある国で大量に印刷され、大ベストセラーとなった。その作品にロジャーという名前が出てくるかどうかは、今のところ神すら知らぬことである。
■
一時間ほどで、朔たちは馬車がある場所へと帰ってきた。リトがダンを背負って走ったことに加え、サーベルラットに襲われることがなかったため、かなり早く戻ってこられたのだ。
「サク様だにゃ~!」
馬車の上で警戒していたバステトが朔たちに気づき、手をぶんぶんと振りながら声を上げた。朔もまた手を振り返し、屋根から跳び下りた彼女に声をかける。
「バス、ただいま。アル隊長たちは?」
「まだ戻ってきてないにゃ」
「そっか、皆さんのことだし、心配しなくてもすぐに戻ってくるかな」
「戻ってきたら教えるにゃ。それより、ミラが美味しいスープを用意してくれてるから、早く中に入るにゃ~」
「バス、ありがと。雨の中大変だろうけど、もう少しだけよろしくね」
朔を先頭に、馬車後部の扉から中へと入っていく。
訝しむ表情のガストロとダンが、促されるままにおそるおそる足を踏み入れると、馬車とは到底思えない空間と設備を見て、かつてのアルたちと同じく固まってしまった。そのとき、ダンは帰りを待っていたシンシアに抱きつかれた。
「お父さんっ!」
「っ! シンシア!」
シンシアを抱きしめ返すダン。一日程度ではあるが、命の軽いこの世界では感動の再会であった。さらに、二人の横ではサジが涙を流し、おおげさに喜びを表していた。
「お義父さん! 無事でよかったっすよおおおおおお!」
「誰がお義父さんだ、てめえ!」
「ダンさんが、残るときに『……サジ、シンシアを頼む』って言ったんじゃないっすか!」
「俺は生きてるからそんなのは知らん! シンシアはまだまだ俺が守る!」
ダンは、抱きしめていたシンシアをサジから隠すように移動させた。
ダンの親馬鹿な姿を再び見ることができたシンシアは、泣きながらも笑顔になってしまう。
「もうっ、お父さんったら」
「まあ、それでこそ本物のダンさんっすね!」
「そろそろ認めてやればいいものを……」
「ガストロ、お前はどっちの味方だ!」
ぎゃあぎゃあと喚きながら喜び合う四人。
朔たちもまた、彼らの様子を微笑みつつ見つめていた。
そして、四人が温かい目で見られている状況に気づいた頃には、風呂の準備が整っていた。そこで、貴族の前での失態に恐縮する彼らを、カインたちが無理やり案内するのであった。
女性用の浴室では――
「いい湯ですわ~」
「い~湯だにゃ~」
ツインテールの先をお湯に垂らしたエマが艶のある声を上げれば、身体を動かすことなく雨に打たれていたバステトが、肩までつかるどころか顔だけをお湯から出した状態で、間延びした声を漏らす。
「気持ちいいですね」
「ん」
ナタリアは片側に髪を寄せて姿勢よく湯につかり、ちょこんと座るミラの青い髪は波紋のない冷たい水に美しく広がっている。
「ほわああああああ」
最後に、初めてお風呂に入ったシンシアは、未体験の感覚に不思議な声を出しながら気持ちよさそうにしまりのない顔を晒していた。
女性陣はシンシアも含め、全員でバームクーヘン型の風呂に入っており、穏やかに風呂を楽しんでいる。
ある程度体が温まったところで、エマが何気なく口を開いた。
「雨で冷えた身体がほぐされるようですわ」
「サク様のおかげだにゃ」
「ほえ? これって男爵が作ったんですか?」
シンシアがだらしのない顔を二人へ向ける。しかし、その疑問に答えたのは、後ろにいたナタリアだった。
「正しくは、このお湯を出している魔導具を、ですよ。湯加減も調整できるようになっていますし、サクさんはお風呂にはかなりこだわりがあるようです」
「ほえ~、こんなに気持ちのいいものを作るなんてすごいですね~。サジも訓練ばっかしてないで、何か作ってくれればいいのにな~」
「うふふ、サジはシンシアさんの恋人ですの?」
「かわいい顔して、やることはやってるのかニャ?」
今度はエマがシンシアへとにじり寄り、バステトもまた、自分の湯舟からエマが入っている湯舟へと移ってしまうほど興味津々の様子であった。
「ん~と、まだ今は幼馴染ですね~。ちょっと男らしくないっていうか、いっつもお父さんに言い負かされてるんですよね。それに引き換え、男爵はしっかりしてますし、貴族でこんな馬車を持てるくらいお金持ちですし」
シンシアがそう朔のことをべた褒めした瞬間、ミラが入っている風呂に氷が張る。
「あげない」
「ほえ?」
「ミラ、シンシアさんはそんなつもりで言っていませんから」
「油断は禁物。サクもあの乳にたぶらかされるかもしれない」
ミラはナタリアに窘められたにもかかわらず、シンシアの大きな乳房を無表情で指差す。びくっとして後ろに下がるシンシア。しかし、彼女にはエマの魔の手が後ろから迫っていた。
「確かに大きいですわよね。何か秘訣でもあるんですの?」
「ひゃあっ!?」
湯浴み着越しではあるものの、シンシアは背後から胸を鷲掴みにされて悲鳴を上げた。
「……これは! すごいですわっ!」
「にゃははは、雄はおっきなおっぱいが好きだからにゃ~」
「ちょっと失礼しますね。……なるほど」
「なんでナタリアさんまで触ってるんですか! 秘訣なんてないですってば!」
「隠さずに吐く。そして私もサクを誘惑する」
女風呂はまさに文字通りの姦しさで溢れていくのだった。
一方、男風呂では、よくわからないまま身体を洗わされたダン、サジ、ガストロの三人が大風呂に並んでつかっていた。
「サジ、いったい何が起きているんだ?」
「わかりません! すごい馬車ですけど、貴族の馬車って全部こんな感じなんですか?」
「そんなわけないだろう。しかし、温かい食事を用意した上に、俺たちのような冒険者に風呂に入れなどと、アサクラ男爵はいったい何を考えているのか」
ダンの問いかけに質問で返したサジ。質問にはガストロが答えたものの、彼らの常識とはあまりにも異なる出来事に、三人は混乱しきっていた。
そんな中、ダンがはっと何かを思いついたように顔を上げる。
「……男爵がそうだとは思わねえが、貴族の中には俺たちみたいなのが趣味のやつがいるって噂を聞いたことがある」
「……」
「……」
混乱ゆえのことではあるのだが、三人は激しく誤解をし、悲痛な空気の中、静かに風呂につかっているのであった。
「フゴッ!」(はいです!)
「問題ありません」
「私も大丈夫ですわ。魔術師とはいえ、基礎訓練は積んでおりますから」
朔の問いに対し、リトは尻尾を振りながら元気よく答え、ロジャーとエマが後に続く。細い身体とは裏腹に、エマはしっかりした足取りで、雨が降る森の中を走ることができていた。
「皆さん! 右奥と左方向から来ます!」
森を走ること数十分、ナタリアの声が森に響いた。エマとナタリアを中心に素早く陣形を組み、武器を構える。
「ロジャーさん、リト!」
準備が整ったところで朔が指示を飛ばす。ロジャーとリトは、距離を取りながらこちらを囲もうとする魔物の群れに対し、魔力を込めて叫ぶ。
「挑発!」
「フゴッ!」(挑発!)
サーベルラットの群れは、挑発によって意思とは関係なく走り出してしまい、木をかき分ける音を立てて朔たちの前に姿を現した。
「リトは挑発をかけ続けて! シンは奥からこっちに追い立てて!」
「フゴッ!」(はいですっ!)
「クッ!」(あいっ!)
朔は指示を出しつつ、バトルスタッフをコンパクトに振り回し、向かってくる敵を数体まとめて叩き潰していった。また、リトのレベルでは一度に釣り出せる数は少ないものの、リトは挑発を何度も繰り返し、シンは後方にいるサーベルラットを風鎌で切り刻んでいく。
一方、ロジャーの方には、一度の挑発で数十体のサーベルラットが殺到していた。
「風鎌!」
ロジャーのすぐ後ろで魔力を練っていたエマが、四つの風鎌を放った。それは、数多くのサーベルラットごと森を切り裂いていく。
「お見事です」
エマを称えたナタリアは二本の矢を番え、連続で放っていく。正確に身体を貫かれたサーベルラットは、ことごとく絶命していった。
「え……もう、終わったのか?」
結局、大盾とメイスを構えたロジャーは一体も倒すことなく、戦闘は終了したのであった。
その頃、馬車での待機組もまた襲撃を受けていた。先ほど倒した何十体ものサーベルラットはラッキーフラワーが処理をし、地面に穴を掘って埋めたにもかかわらず、その血の臭いを、グラスウルフの群れが嗅ぎつけたのだ。
「カイン、三十七匹だ。行けるか?」
「はい! タンザ、バステトは馬車上から攻撃!」
イルの問いかけに、カインは力強く答え、すぐに仲間に指示を飛ばした。
「かしこまりました。火玉」
「はい……にゃっ!」
タンザは範囲を重視した火玉を飛ばしてグラスウルフの行動を制限し、バステトは短弓を引き絞り丁寧に放っていく。
「キザンは気を引きつつ防御、僕とツェンで素早く倒す!」
「おうっ!」
「やっと出番っす!」
キザンとツェンは武器を構え、カインの横に並び立つ。武装を新調したことも相まり、彼らに新人冒険者らしさはなくなっていた。
しかし、彼らの気合とは裏腹に、その戦いは思わぬ形で終わることになる。イアンとトウカの活躍だ。
その理由は単純で、朔が重たい馬車を引かせるからと、レベルが最大になるまで二頭に魔石を与えたからであった。
「「ヒヒイイイイイイイインッ!!!」」
Eランクの最大までレベルアップし、手綱と馬車から解放されたイアンとトウカは、平原を縦横無尽に駆け回った。
そしてFランクの魔物であるグラスウルフを、ミスリルと魔鉄の合金でできた蹄鉄で踏みつけたり、蹴り上げたりしていく。
後ろから迫ったグラスビッグウルフは、トウカの後ろ脚での蹴りによって無残な姿にされていた。
「また出番がないっす!」
「楽でいいにゃ~」
ツェンの叫び、そして対照的なバステトののんびりした声が平原に響いた。
■
朔たちが捜索を開始して数時間後、森にある池のほとりの草むらでは、全身泥まみれの大柄な男が高熱に苛まれながら、うつぶせの状態で息を殺していた。
(くっ、池に潜ってやつらを撒いたのはいいが……これは駄目かもな)
彼の名はダン。シンシアの父親であり、朔たちが必死になって捜している男だ。
昨夜から一睡もしておらず、ダンは重くなってきた瞼を必死の思いで開けて、周囲の気配を探り続けていた。
(シンシアたちは逃げきれただろうか……。ガストロは頼りになるし、癪にさわるがサジの野郎がいるから大丈夫だよな……っと、何だ?)
ダンは突然自分の周囲が暗くなったことに違和感を持ち、ごろりと体を半回転させて空を見上げる。視線の先には、舌をちょろちょろ出し、鎌首をもたげる大蛇がいた。
(ちっ……シンシア、最後まで駄目な父親ですまん)
ダンは力を抜き、目を閉じる。
しかし、いつまで経っても大蛇の牙が彼を貫くことはなかった。
不審に思った彼は、目をそっと開ける。すると大蛇の目には、先程までは確かになかった矢が突き刺さっていた。
(なんだ!?)
「リア、ナイス! ロジャーさん!」
「挑発!」
声が響いたと同時に、大蛇は目の色を変えてその声がした方へと猛進していった。
「風鎌! なっ? この蛇、MDFが高いですわよっ!」
「うおおおお! シールドバッシュ!」
エマが放った風鎌を食らいながらもスピードを落とさない蛇に対し、ロジャーが大盾で迎え撃った。金属製の大盾で殴りつけられた大蛇は、ふらふらしつつもロジャーを睨みつけるが、動きは完全に止まっていた。
「好機です!」
ナタリアは、引き絞っていた対大型魔物用の矢を放つ。空気を切り裂きながら飛ぶ矢を、大蛇は全身を捻って躱す。しかしそこへ、両翼に風鎌を維持し、両足にそれぞれ瓶を掴んだシンが、気配遮断と無音飛行を最大限に発動させて飛び込んでいく。
「クック?」(あれ、バレてる?)
シンが感づいた通り、大蛇は熱感知というスキルでシンを捕捉していた。大蛇は近づいてくるシンを丸呑みにしようと、大きく口を開いて襲いかかる。
「クッククー♪」(残念でしたー♪)
シンは閉じられようとしていた大蛇の口をすり抜けて、後方へ向かって加速した。
本当の狙いは風鎌による攻撃などではなかったのだ。
シンはタイミングを慎重に見計らい、両足に掴んでいた瓶を放し――それはダンのそばに落ちた。
「わっ、なんだっ!? これは……ポーション!?」
シンが落とした瓶の中身は、ポーションとキュアポーションだった。
ダンには気配遮断を使ったシンの姿が見えていないため、空から突然降ってきたようなものであったが、弱った力を振り絞って蓋を開け、二瓶とも一気にあおる。
ポーションによる効果は早く、体力と苦しんでいた鼠咬症の症状がすぐに和らいでいく。
そこへ、ガストロが駆け寄ってきた。
「ダン! ちゃんと生きてたな!」
「ガストロ!? どうしてここへ!?」
「説明は後だ! 早く離れないと巻き込まれるぞ!」
「はあ!?」
「いいから走れ!」
ガストロは、ダンの肩を担いで無理やり立ち上がらせた。そして、すぐに移動を始めるが、ダンには何がなんだかわかるわけもない。
「ダンさんは無事に離れたね。じゃあ、ちゃんと範囲を絞って……炎壁!」
ガストロがダンのもとに向かったとき、朔は既に大量の魔力を大蛇の周囲に行き渡らせており、二人が離れるやいなや魔術を発動させた。待っている間に溜まっていた魔力により、大蛇は木々よりも高く燃え上がる炎の柱に包まれる。
「キシャアアアアアアア!!!」
高温の炎にさらされた大蛇は、毒液を撒き散らして逃げようとするが、ナタリアが放った太く長い矢が飛来した。
「シャ!?」
矢は硬い鱗を貫き、大蛇の身体は地面に縫いつけられた。矢を抜こうと身を捩って暴れるが、次々と放たれた矢が容赦なく大蛇を貫いていく。
やがて大蛇は焼き尽くされ、黒い跡と魔石だけが、からからに乾燥した湿地の地面に残っていた。
「サクさん?」
「はい、ごめんなさい。相手の強さを確認していなかったので、かなり本気でやりました」
「正解です」
「え?」
「今回に関してはそれで問題ありません。あの大蛇は危険な毒液と高いMDFを持つ、Dランクのアシッドパイソン。一度捕まって締めつけられれば、オークでさえも全身の骨を折られて絶命してしまうような強敵です」
そう言ってナタリアは微笑み、その笑顔を見た朔はほっと胸を撫で下ろすのであった。そんな彼の頭の中にいつもの声が響く。
《レベルが上がりました》
(お、やっぱりDランクは経験値がおいしいね。ステータス)
NAME:朝倉朔
AGE:15(28)
SPECIES:人族
LV:40←UP!
JOB:上級錬金術師LV23←NEW!、上級魔術師LV19←NEW!
仲魔:シン(シャドウオウル)、リト(リザードオークナイト)
ステータス←UP!
HP:40064/40064+-(1024)
MP:47348/48188+-(2048)
STR:549+-(13)
VIT:547+-(13)
AGL:563+-(13)
DEX:713+-(17)
INT:719+-(18)
MAT:692+-(18)
MDF:518+-(12)
TALENT:回復魔法の才能、錬金術の才能、魔法の才能、生産の才能
SKILL:テイムⅢ、直感Ⅲ、剣術Ⅲ、高速思考Ⅲ、診断Ⅳ、調合Ⅴ、解体Ⅲ、料理Ⅳ、大陸共通語Ⅱ、絶倫Ⅰ、火魔法Ⅳ、意思疎通Ⅱ(仲魔)、恐怖耐性Ⅰ、魔力操作Ⅳ、回復魔法Ⅴ、【神聖魔法Ⅶ:隠蔽中】、魔力精密操作Ⅲ、魔具作成(魔法陣)Ⅴ、杖術Ⅱ←UP!、魔力遠隔操作Ⅲ、土魔法Ⅲ、重力魔法Ⅲ←UP!、付与魔法Ⅳ、魔具作成(魔法付与)Ⅳ←UP!、身体操作Ⅰ←NEW!、鍛冶魔法Ⅱ←NEW!、雷魔法Ⅱ←NEW!、秘薬作成Ⅰ←NEW!、消費魔力減少Ⅰ←NEW!
GIFT:アイテムボックスⅡ←UP!、看破の魔眼、伝言板
称号:【聖者、神の友人:隠蔽中】、奇妙な回復師、ダンジョン攻略者(Eランク)
残りポイント15
(うん、順調だね。よし、ダンさんって人のとこに行かないと)
ステータスを急いで確認し、ご満悦の朔であった。
なお、朔は王都での大量の魔導具作りにより、いくつかのスキルが上昇した上、下級錬金術師のレベルが最大まで上がったため、上級錬金術師へとジョブを変更していた。
ちなみに、上級錬金術師は才能値のMPに×2、DEXに+3、INTに+3、MATに+2の補正がかかり、秘薬作成という薬やポーションの効果を著しく上昇させるジョブスキルも習得可能だった。
また、上級魔術師は才能値のINTに+1,MATに+1、MDFに+1の補正がかかり、消費魔力減少というMPの消費を抑えるジョブスキルを習得できる。
朔がダンの姿を探していたら、ゆっくりした足取りで彼とガストロが近づいてきていた。
「アサクラ男爵、この度は本当にありがとうございました。おい、ダン」
「俺はダン……です。シンシアを助けてくれたと、こいつから聞いた……ました。ありがとうございます」
ガストロに肘で小突かれ、ダンはたどたどしい口調で感謝を告げた。スキンヘッドで強面のおっさんである彼のその姿に、朔は思わず笑いがこみ上げてしまう。
「あはは、普通に話していただいて構いませんよ。私はサク・フォン・アサクラと言います。シンシアさんやサジさんも首を長くして待っているでしょうし、早く帰って休みましょう」
「あ、ああ」
気軽な朔の態度に、ダンはあっけに取られてしまった。一方、そこには別の理由で呆けている者もいた。
「アシッドパイソンを魔術で焼き尽くす……私たちって必要ですの?」
エマは焼けた跡からアシッドパイソンの魔石を拾い上げる。その大きさから、Dランクの中でも高いレベルであることが彼女にはわかっていた。ロジャーはエマの肩に手を置き、朔の方を見ながら口を開く。
「一人の英雄ができる範囲は限られてるからな。俺たちがするのはそのフォローだよ」
「ナタリア様の剛弓といい、まるでおとぎ話でも見ているようですわ」
「確かに、後に英雄譚として語られるのかもしれない。従者としてそばにいられるのは名誉なことだ。ひょっとしたら、俺たちの名前が出るかもしれないぞ?」
「はあ……せめて足を引っ張らないように頑張らないとですわね」
余談であるが、エマは後にある冒険記を書くことになり、それはとある国で大量に印刷され、大ベストセラーとなった。その作品にロジャーという名前が出てくるかどうかは、今のところ神すら知らぬことである。
■
一時間ほどで、朔たちは馬車がある場所へと帰ってきた。リトがダンを背負って走ったことに加え、サーベルラットに襲われることがなかったため、かなり早く戻ってこられたのだ。
「サク様だにゃ~!」
馬車の上で警戒していたバステトが朔たちに気づき、手をぶんぶんと振りながら声を上げた。朔もまた手を振り返し、屋根から跳び下りた彼女に声をかける。
「バス、ただいま。アル隊長たちは?」
「まだ戻ってきてないにゃ」
「そっか、皆さんのことだし、心配しなくてもすぐに戻ってくるかな」
「戻ってきたら教えるにゃ。それより、ミラが美味しいスープを用意してくれてるから、早く中に入るにゃ~」
「バス、ありがと。雨の中大変だろうけど、もう少しだけよろしくね」
朔を先頭に、馬車後部の扉から中へと入っていく。
訝しむ表情のガストロとダンが、促されるままにおそるおそる足を踏み入れると、馬車とは到底思えない空間と設備を見て、かつてのアルたちと同じく固まってしまった。そのとき、ダンは帰りを待っていたシンシアに抱きつかれた。
「お父さんっ!」
「っ! シンシア!」
シンシアを抱きしめ返すダン。一日程度ではあるが、命の軽いこの世界では感動の再会であった。さらに、二人の横ではサジが涙を流し、おおげさに喜びを表していた。
「お義父さん! 無事でよかったっすよおおおおおお!」
「誰がお義父さんだ、てめえ!」
「ダンさんが、残るときに『……サジ、シンシアを頼む』って言ったんじゃないっすか!」
「俺は生きてるからそんなのは知らん! シンシアはまだまだ俺が守る!」
ダンは、抱きしめていたシンシアをサジから隠すように移動させた。
ダンの親馬鹿な姿を再び見ることができたシンシアは、泣きながらも笑顔になってしまう。
「もうっ、お父さんったら」
「まあ、それでこそ本物のダンさんっすね!」
「そろそろ認めてやればいいものを……」
「ガストロ、お前はどっちの味方だ!」
ぎゃあぎゃあと喚きながら喜び合う四人。
朔たちもまた、彼らの様子を微笑みつつ見つめていた。
そして、四人が温かい目で見られている状況に気づいた頃には、風呂の準備が整っていた。そこで、貴族の前での失態に恐縮する彼らを、カインたちが無理やり案内するのであった。
女性用の浴室では――
「いい湯ですわ~」
「い~湯だにゃ~」
ツインテールの先をお湯に垂らしたエマが艶のある声を上げれば、身体を動かすことなく雨に打たれていたバステトが、肩までつかるどころか顔だけをお湯から出した状態で、間延びした声を漏らす。
「気持ちいいですね」
「ん」
ナタリアは片側に髪を寄せて姿勢よく湯につかり、ちょこんと座るミラの青い髪は波紋のない冷たい水に美しく広がっている。
「ほわああああああ」
最後に、初めてお風呂に入ったシンシアは、未体験の感覚に不思議な声を出しながら気持ちよさそうにしまりのない顔を晒していた。
女性陣はシンシアも含め、全員でバームクーヘン型の風呂に入っており、穏やかに風呂を楽しんでいる。
ある程度体が温まったところで、エマが何気なく口を開いた。
「雨で冷えた身体がほぐされるようですわ」
「サク様のおかげだにゃ」
「ほえ? これって男爵が作ったんですか?」
シンシアがだらしのない顔を二人へ向ける。しかし、その疑問に答えたのは、後ろにいたナタリアだった。
「正しくは、このお湯を出している魔導具を、ですよ。湯加減も調整できるようになっていますし、サクさんはお風呂にはかなりこだわりがあるようです」
「ほえ~、こんなに気持ちのいいものを作るなんてすごいですね~。サジも訓練ばっかしてないで、何か作ってくれればいいのにな~」
「うふふ、サジはシンシアさんの恋人ですの?」
「かわいい顔して、やることはやってるのかニャ?」
今度はエマがシンシアへとにじり寄り、バステトもまた、自分の湯舟からエマが入っている湯舟へと移ってしまうほど興味津々の様子であった。
「ん~と、まだ今は幼馴染ですね~。ちょっと男らしくないっていうか、いっつもお父さんに言い負かされてるんですよね。それに引き換え、男爵はしっかりしてますし、貴族でこんな馬車を持てるくらいお金持ちですし」
シンシアがそう朔のことをべた褒めした瞬間、ミラが入っている風呂に氷が張る。
「あげない」
「ほえ?」
「ミラ、シンシアさんはそんなつもりで言っていませんから」
「油断は禁物。サクもあの乳にたぶらかされるかもしれない」
ミラはナタリアに窘められたにもかかわらず、シンシアの大きな乳房を無表情で指差す。びくっとして後ろに下がるシンシア。しかし、彼女にはエマの魔の手が後ろから迫っていた。
「確かに大きいですわよね。何か秘訣でもあるんですの?」
「ひゃあっ!?」
湯浴み着越しではあるものの、シンシアは背後から胸を鷲掴みにされて悲鳴を上げた。
「……これは! すごいですわっ!」
「にゃははは、雄はおっきなおっぱいが好きだからにゃ~」
「ちょっと失礼しますね。……なるほど」
「なんでナタリアさんまで触ってるんですか! 秘訣なんてないですってば!」
「隠さずに吐く。そして私もサクを誘惑する」
女風呂はまさに文字通りの姦しさで溢れていくのだった。
一方、男風呂では、よくわからないまま身体を洗わされたダン、サジ、ガストロの三人が大風呂に並んでつかっていた。
「サジ、いったい何が起きているんだ?」
「わかりません! すごい馬車ですけど、貴族の馬車って全部こんな感じなんですか?」
「そんなわけないだろう。しかし、温かい食事を用意した上に、俺たちのような冒険者に風呂に入れなどと、アサクラ男爵はいったい何を考えているのか」
ダンの問いかけに質問で返したサジ。質問にはガストロが答えたものの、彼らの常識とはあまりにも異なる出来事に、三人は混乱しきっていた。
そんな中、ダンがはっと何かを思いついたように顔を上げる。
「……男爵がそうだとは思わねえが、貴族の中には俺たちみたいなのが趣味のやつがいるって噂を聞いたことがある」
「……」
「……」
混乱ゆえのことではあるのだが、三人は激しく誤解をし、悲痛な空気の中、静かに風呂につかっているのであった。
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