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第四章:諸国漫遊Ⅱ
ラッキーフラワーの失敗
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◆
朔らは3日間、ラッキーフラワーとボンビックス狩りに勤しみ、現在は簡易な拠点を造って野営をしていた。密林の中には四方を高い土壁で囲まれた空間があり、その中ではバームクーヘン型のお風呂から湯気が立ち昇っている。
「ベトベトするにゃ~」
「油断ダメ」
風呂の中央部分で髪の毛についたねばねばした何かを取っているバステトがボヤくと、ミラが桶でお湯を掬い、彼女にゆっくりお湯をかける。
「バスさんは斥候職なので、目の前の敵以外にも気を配らないといけませんね」
「うげ、あたしには絶対無理だ」
ナタリアは濡れた髪をタオルでまとめ、熱いお湯につかっており、スズは湯浴み着を着ずに、赤い髪を豪快にかき上げて後ろに流し、両手を左右に伸ばして風呂の縁に背中を預けていた。
「ふーんふふふーん♪ スズちゃんは攻撃特化のアタッカーだからね~」
ヒトミは素っ裸で入ろうとしたのだが、ナタリアから無理やり湯浴み着を着せられ、タオルを頭に乗せて足をぱたぱたさせながら鼻歌を歌っている。
バステトがねばねばまみれになっている理由はというと──
◆
「よしっ! 糸だよ!」
「ふう、ようやく30個か」
「大分慣れたっすね!」
「目標達成にゃ!」
「ふう。魔力がぎりぎりです」
ラッキーフラワーは順調にボンビックスを倒し、30個目の生糸を手に入れた。しかし、密偵隊長のライは浮かれている彼らに厳しい視線を送っていた。
シュルルル!
「……え?」
シュルルル、シュルルル!
「なんっすか?」
「んにゃ!?」
彼らの後方から粘糸が放たれた。最初に狙われたのはアタッカーのカイン。続けて動きの素早いツェンとバステトがボンビックスの粘糸で拘束される。
「ちっ、タンザ! 小火で糸を燃やせ!」
「はい!」
キザンはタンザに指示を出し、粘糸が飛んできた方に向け盾を構える。
「な……」
キザンの目の前では、怒りで目を赤くしている五匹のボンビックスが、カチカチと歯を鳴らしていた。
シュルルル、シュルルル、シュルルル、シュルルル、シュルルル!
「うおっ!?」
「キザン!? 火玉! くっ……魔力切れですか……」
一発は盾で防いだものの、強い力で引っ張られ、キザンは盾から手を離してしまった。タンザは残り少ない魔力で、どうにか真上に火玉を放つと、魔力切れで倒れてしまう。その後はあっという間に、2人も粘糸でぐるぐるに巻かれた。
そして、その様子を少し離れたところから見つめる集団がいた。
「カインたちもまだまだ若いね」
「孤児院のことがあるとはいえ、浮かれすぎです」
「ん」
「まあ、タンタンの最後の火玉だけは悪くなかったかな~」
朔は微笑みながら言っているのだが、ナタリアとミラは真顔で言い放ち、ヒトミは頭の後ろで両手を組んで笑っている。なお、ヒトミが言ったタンタンとはヒトミが勝手に呼んでいるタンザの愛称である。
朔らは早々に必要量の生糸を手に入れており、ライとともにラッキーフラワーの様子を見ていたのだった。そんな朔たちにライが頭を下げる。
「サク男爵、すまない。彼らが成長した姿を見せるつもりだったのだが」
「いえいえ、ライ隊長が鍛えてくれていなければ、Eランクのボンビックスを倒すこと自体できていませんよ。じゃあ、皆行こうか」
朔は、ライににこやかに微笑んでから皆に声をかける。
「クッ!」(あい!)
「フゴッ!」(はいです!)
「かしこまりました」
「ん」
「あいあいさーっ」
シンは風鎌を発動させ、両翼に維持した状態で飛び立ち、リトは盾と短槍を構えて走り出した。ナタリアは弓を取り出してミラと歩みを合わせつつ、前進する。ヒトミと朔は、飛び出したシンとリトを苦笑いを浮かべて追いかける。
ボンビックスの群れはものの数分で殲滅され、魔石とドロップアイテムを残して消える。助け出されたラッキーフラワーは一様に肩を落とし、とぼとぼと朔たちの後を追うのであった。
◆
その後、朔たちは最短距離で地上を目指した。20台の密林を抜け、10台の草原を走破する。避けられはい魔物の群れがいれば殲滅するのだが、その戦いの様子が少し以前と異なっていた。
「助太刀するっ!」
「おらあっ!」
「お前たちは退がってな!」
ラッキーフラワーが戦闘しているところに、レーヴの3人が割り込むように援護に入った。カインはそれに従い、皆に指示を出し直す。
「任せます! 僕、キザン、ツェンはレーヴを援護! バスは警戒! タンザは待機!」
「ちっ」
「了解っす」
「あいにゃ!」
「はい」
これまでは消極的で、守られるばかりであったレーヴが積極的になっていたのに対し、かなり消極的に見えるラッキーフラワーの姿があった。
「よしっ!」
「しゃあっ!」
「楽勝だなっ!」
魔物を殲滅し、レーヴが喜びの声を上げる中、ラッキーフラワーは魔石やドロップアイテムを拾い、共用の収納袋へと入れていく。
全員が進み始めると、中央にいたレーヴは足を緩めて最後尾の朔の元へアピールに向かい、一方のラッキーフラワーはすぐに集まり、仲間内だけでぼそぼそと何かを話しつつ、暗部隊長のアルが指示する方向に進んだ。
朔はレーヴのアピールを聞き流しながら、ラッキーフラワーの姿を優しい眼差しで見つめていた。
朔らは3日間、ラッキーフラワーとボンビックス狩りに勤しみ、現在は簡易な拠点を造って野営をしていた。密林の中には四方を高い土壁で囲まれた空間があり、その中ではバームクーヘン型のお風呂から湯気が立ち昇っている。
「ベトベトするにゃ~」
「油断ダメ」
風呂の中央部分で髪の毛についたねばねばした何かを取っているバステトがボヤくと、ミラが桶でお湯を掬い、彼女にゆっくりお湯をかける。
「バスさんは斥候職なので、目の前の敵以外にも気を配らないといけませんね」
「うげ、あたしには絶対無理だ」
ナタリアは濡れた髪をタオルでまとめ、熱いお湯につかっており、スズは湯浴み着を着ずに、赤い髪を豪快にかき上げて後ろに流し、両手を左右に伸ばして風呂の縁に背中を預けていた。
「ふーんふふふーん♪ スズちゃんは攻撃特化のアタッカーだからね~」
ヒトミは素っ裸で入ろうとしたのだが、ナタリアから無理やり湯浴み着を着せられ、タオルを頭に乗せて足をぱたぱたさせながら鼻歌を歌っている。
バステトがねばねばまみれになっている理由はというと──
◆
「よしっ! 糸だよ!」
「ふう、ようやく30個か」
「大分慣れたっすね!」
「目標達成にゃ!」
「ふう。魔力がぎりぎりです」
ラッキーフラワーは順調にボンビックスを倒し、30個目の生糸を手に入れた。しかし、密偵隊長のライは浮かれている彼らに厳しい視線を送っていた。
シュルルル!
「……え?」
シュルルル、シュルルル!
「なんっすか?」
「んにゃ!?」
彼らの後方から粘糸が放たれた。最初に狙われたのはアタッカーのカイン。続けて動きの素早いツェンとバステトがボンビックスの粘糸で拘束される。
「ちっ、タンザ! 小火で糸を燃やせ!」
「はい!」
キザンはタンザに指示を出し、粘糸が飛んできた方に向け盾を構える。
「な……」
キザンの目の前では、怒りで目を赤くしている五匹のボンビックスが、カチカチと歯を鳴らしていた。
シュルルル、シュルルル、シュルルル、シュルルル、シュルルル!
「うおっ!?」
「キザン!? 火玉! くっ……魔力切れですか……」
一発は盾で防いだものの、強い力で引っ張られ、キザンは盾から手を離してしまった。タンザは残り少ない魔力で、どうにか真上に火玉を放つと、魔力切れで倒れてしまう。その後はあっという間に、2人も粘糸でぐるぐるに巻かれた。
そして、その様子を少し離れたところから見つめる集団がいた。
「カインたちもまだまだ若いね」
「孤児院のことがあるとはいえ、浮かれすぎです」
「ん」
「まあ、タンタンの最後の火玉だけは悪くなかったかな~」
朔は微笑みながら言っているのだが、ナタリアとミラは真顔で言い放ち、ヒトミは頭の後ろで両手を組んで笑っている。なお、ヒトミが言ったタンタンとはヒトミが勝手に呼んでいるタンザの愛称である。
朔らは早々に必要量の生糸を手に入れており、ライとともにラッキーフラワーの様子を見ていたのだった。そんな朔たちにライが頭を下げる。
「サク男爵、すまない。彼らが成長した姿を見せるつもりだったのだが」
「いえいえ、ライ隊長が鍛えてくれていなければ、Eランクのボンビックスを倒すこと自体できていませんよ。じゃあ、皆行こうか」
朔は、ライににこやかに微笑んでから皆に声をかける。
「クッ!」(あい!)
「フゴッ!」(はいです!)
「かしこまりました」
「ん」
「あいあいさーっ」
シンは風鎌を発動させ、両翼に維持した状態で飛び立ち、リトは盾と短槍を構えて走り出した。ナタリアは弓を取り出してミラと歩みを合わせつつ、前進する。ヒトミと朔は、飛び出したシンとリトを苦笑いを浮かべて追いかける。
ボンビックスの群れはものの数分で殲滅され、魔石とドロップアイテムを残して消える。助け出されたラッキーフラワーは一様に肩を落とし、とぼとぼと朔たちの後を追うのであった。
◆
その後、朔たちは最短距離で地上を目指した。20台の密林を抜け、10台の草原を走破する。避けられはい魔物の群れがいれば殲滅するのだが、その戦いの様子が少し以前と異なっていた。
「助太刀するっ!」
「おらあっ!」
「お前たちは退がってな!」
ラッキーフラワーが戦闘しているところに、レーヴの3人が割り込むように援護に入った。カインはそれに従い、皆に指示を出し直す。
「任せます! 僕、キザン、ツェンはレーヴを援護! バスは警戒! タンザは待機!」
「ちっ」
「了解っす」
「あいにゃ!」
「はい」
これまでは消極的で、守られるばかりであったレーヴが積極的になっていたのに対し、かなり消極的に見えるラッキーフラワーの姿があった。
「よしっ!」
「しゃあっ!」
「楽勝だなっ!」
魔物を殲滅し、レーヴが喜びの声を上げる中、ラッキーフラワーは魔石やドロップアイテムを拾い、共用の収納袋へと入れていく。
全員が進み始めると、中央にいたレーヴは足を緩めて最後尾の朔の元へアピールに向かい、一方のラッキーフラワーはすぐに集まり、仲間内だけでぼそぼそと何かを話しつつ、暗部隊長のアルが指示する方向に進んだ。
朔はレーヴのアピールを聞き流しながら、ラッキーフラワーの姿を優しい眼差しで見つめていた。
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