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第四章:諸国漫遊Ⅱ

のんびりダンジョン探索と焦るレオナルド

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     ◆

 ギリーたちと別れた朔たちは順調に30代前半の階層も攻略し、30階層へと辿りついていた。30階層のボスであるヴェノムフロッグ(Dランク・毒持ち)複数をブリザードで凍らせてからの遠距離攻撃でさくさくっと倒して扉を開けると、そこには一つ一つの木々や花々が巨大な密林が広がっていた。
 
「おー、今度は密林か。王都の近くにあったダンジョンと比べると、木々が大きいね」
「サクさん、油断は禁物ですが、この階層には多種の薬草類が自生していますので、採集しながら次の階層に向かうのもよろしいかと」
「それは良いね。老師からもらった本に書いてある薬のレシピで、材料がないのがたくさんあったから色々見つかると嬉しいな」
 
 朔とナタリアが話していると、レーヴのメンバーの一人であるヘンリーが朔たちの会話に恐る恐るといった様子で加わってくる。
 
「あ、あの、アサクラ男爵、よろしいでしょうか?」
「ヘンリーさん、どうかされましたか?」
「我々に何かできることがあれば、ぜひ申しつけください!」
 
 朔がヘンリーの方を振り向くと、彼は勢いよく頭を下げて懇願した。朔はレーヴを客だと考えていたため、きょとんとした顔で首を捻る。
 
「……? あ、薬草採取を手伝っていただけるということでしょうか?」
「は、はい。薬草に関する知識もほとんどありませんが、何かお手伝いさせていただきたくて……」
「気にされなくて構わないのですが、お願いしてもいいですか?」
「もちろんです!」
 
 朔はヘンリーの申し出を受け入れた。朔は彼が嬉しそうに仲間の元に戻るのを見送り、イルとルイに声をかける。
 
「イルさん、ルイさん、彼らのことをお任せしても?」
「承知」
「了解であります! 薬草の指示から、どんな人物かの観察までばっちりこなすであります!」
(何で言う前にこっちの言いたいことが分かるかな)
「ありがとうございます。話が早くて助かります」
 
 イルとルイは朔の意図を正しく汲み取っていた。朔が求めている薬草を伝えると、二人はレーヴの元へと向かい、準備を始める。そこに、ヒトミが朔に近付き、レーブの方をちらりと見てから尋ねる。
 
「ハニーはあの人たちを誘うつもり?」
「んや、申し込まれそうな気がしたから念のためね」
「いらない」
「いらないとまでは言わないけどね。じゃあ、俺たちはどうしようか?」
 
 朔がはっきりと言わなかったことを、ミラがばっさりと言い捨てた。朔は苦笑いを浮かべて彼女に同意すると、話題を変える。
 
「そうですね。生糸はどうでしょう?」
「生糸?」
「Eランクのボンビックスという大きな芋虫がいるのですが、質の良い滑らかな生糸をドロップします。このダンジョンの名産で、生糸の採集を生業とする冒険者も多くいます」

 ナタリアの説明が終わるやいなや、カインがびしっと手を上げて主張する。

「サクさん! 僕たちに狩らせて下さい!」
「カイン? そういえば、孤児院で刺繍をしてるって言ってたね。もちろん良いよ、俺たちもそうしよっか」
「このボンビックスは木に擬態していますので、僅かな違和感を見落とさないようにしてください」
「クックーッ♪」(ボクの出番―♪)
「フゴゴッ♪」(僕も頑張るです♪)
「よし、じゃあ先導をアルさんたちに任せて、俺たちは狩りや採集をしながら進もうか」
 
 朔たちがこうしてダンジョンをのんびり進んでいる一方──
 
     ◆
 
 レオナルドのクランは40階層のボスであるデザートスコルピオを撃破し、30台の階層を正攻法で進んでいた。
 水飛沫をあげながら進むレオナルドは、苛立ちをにじませながら副長のイーサンに問う。
 
「相変わらず、面倒な階層だな。しかも、次からは泥沼か。アサクラたちにはまだ追いつかんのか?」
「不明です。ただし、30台前半の階層には他のクランもいるはずなので、情報を集めましょう。問題となるのは、誰も彼らの姿を見ていないときです。その際は戻られますか?(野営の後が飛び飛びになっていたが、あれは階段がある島々をほとんど直線で結んだ線上にあった……彼らは水上を移動した? どうやって?)」
「再度、別の探索隊を派遣する。魔法陣の効果が切れる前に本攻略をせねばならん」

 イーサンはレオナルドに尋ね返したが、その回答を聞きながしつつ、思考に耽っていた。そのとき、先を進んでいた斥候部隊が彼らの元に戻って報告する。

「前方に正体不明の集団あり!」
「ちっ、群れの規模と距離は?」
「30前後! 3島先、階段がある島の周辺です!」

 レオナルドは歩みを止めることなく質問し、斥候は少し深いところに外れて追走しながら答えた。レオナルドは小考してから声を上げる。

「……全軍、全速で次の島まで駆け抜けろ! 有利な陸地に釣り出し、迎え撃つぞ!」

 レオナルドのクランは次の島まで走り、陣形を整える。しかし、レオナルドの目に映ったのは──

──蓮の上をぴょんぴょんと飛び跳ねる、エストリアが率いるクラン『エターニア』たちだった。

 レオナルドは朔が作り出した拠点を見たときのように、理解できずに立ち尽くしたまま、イーサンに問いかける。

「……あれはなんだ?」
「『エターニア』のようです」
「それで、あれはなんなんだ?!」
「不明です。ん? 一人やってきますね(なるほど、アサクラ男爵もそうやって進んだということですか。となると、あれは魔導具か魔法杖を利用している訳ですね)」

 声を荒らげるレオナルドに対し、イーサンは冷静に状況を分析していた。さらにイーサンは、刃を構える兵たちに合図をして退かせる。

「よう、『栄光』の」
「ギリー殿、いくらで売っていただけますか?」
「イーサン?」

 蓮の葉の上からギリーが声をかけると、挨拶もせずにイーサンが尋ねた。レオナルドが訝しんでいる中、ギリーはにやりと口端を釣り上げる。

「相変わらず、目端が利くじゃねえか」
「お褒めに預かり光栄です。それでお答えは?」
「残念ながら売れねえな。欲しけりゃ自分で買いな」
「(買えということは、やはりアサクラ男爵が制作したものということですか)ありがとうございます。ちなみに、私にかけるのはおいくらで?」
「くっくっく、情報量込みで金貨3枚だ」
「どうぞ」
「(重力軽減)発動。じゃあな」

 イーサンは腰の革袋から金貨を3枚取り出し、ギリーに放り投げた。彼はそれを掴むと、魔法杖に込められた魔法を発動してから跳び去った。なお、彼がレオナルドたちに情報を与えたのは、朔がギルドに魔法杖を売りつけることを聞いていたからである。

 話についていけずにとり残されていたレオナルドは、イーサンに説明を求める。

「イーサン、どういうことだ?」
「アサクラ男爵は、重さを軽くする魔法が使えるようです。これを利用して蓮の葉を渡れば、大幅に時間を短縮できます」
「……追いつけるのか?」
「かなり離されてしまったのは間違いありません。が、彼らが生きており、魔法杖の存在を知り得たのは僥倖かと。それよりも、急ぎましょう」

 レオナルドたちは再び走り出した。彼らが35階層にたどり着いたとき、再び驚嘆することを知らずに。




※あとがき※
ファンタジー大賞に応募はできませんてましたが、新作を公開しました!
そちらも楽しんでいただけると嬉しいです!
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