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まるぽろ

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第四章:諸国漫遊Ⅱ

脱出開始前のあれこれ

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     ◆
 
 ワイバーンを討伐した朔たちはラッキーフラワーらが待つ拠点へと帰りつき、朔はヒトミを背負ったまま、ぼろぼろのドアの取っ手に手をかけていた。古くなった蝶番はぎいいと音を立て、ドアがゆっくりと開く。
 
「ただい──」
「──サク様だにゃ!」
 
 声をかけようとした朔の腹に、バステトが突っ込んだ。朔はヒトミを背負っているため、後ろに倒れることもできずに衝撃を直に受け止める。
 
「ぐふ……って、バステト大丈夫!?」
「痛いにゃ~」
「サクさんすみません! バス、なにやってんの!?」
 
 カインは朔に頭突きをしたバステトに声を張るが、頭をさすっていた彼女はミラの元へと駆け寄る。
 
「ミラもにゃ! 皆、無事でよかったにゃ! ヒトミはどうしたんだにゃ?」
「ん。バス、ただいま」
「バスさんただいま戻りました。ヒトミはMP切れで眠っているだけなので大丈夫ですよ」
「クックーッ♪」(ただいまー♪)
「フゴゴッ♪」(ただいまです♪)
 
 ミラは微笑みながらバステトに返事をし、皆もバステトと挨拶を交わした。カインは彼女の頭をはたこうとして振り上げた手をぷるぷるとさせており、朔はその手をそっと下ろして笑いかける。
 
「あはは、カイン気にしなくていいよ。それより、こっちは無事だった?」
「無事ではあるんですけど、雷の音が聞こえたと思ったら、魔物の群れがすぐ近くを走って行ったり、物凄く恐ろしい声が聞こえてきたりと、気が気じゃなかったですよ。多分サクさんが何かしたんでしょうけど、何があったんですか?」
(なんで俺のせいに……。雷で魔物の群れが集まってきたのが事の発端ではあるけどさ!)
「ピアスリックスの群れを倒した後は、翼亜竜と戦ったんだよ」
 
 朔がどこか釈然としないままカインの問いに答えると、カインたちの後ろで朔たちを出迎えていたレ―ヴのリーダーが、血相を変えて前に出て来る。
 
「ワイバーン!? ワイバーンがこの近くにいるのですか!?」
「この通り討伐いたしましたので大丈夫ですよ」
「「「「「は?」」」」」
 
 朔が取り出した翼亜竜の魔石は彼らが初めて見るBランクの魔石であり、彼らはその大きさに圧倒され、口を開いたまま呆然としてしまう。その中でただ一人、タンザが冷静に突っ込みを入れる。
 
「偵察でBランクを狩ってくるなんて、どうかしてますよ」
「タンザまでひどいな。はいこれ、肉がドロップしたから夕食に使って」
「私達が普通なんです。それはともかく、新鮮な肉は嬉しいですね。ちなみにこれはなんの肉でしょう?」
「Dランクのピアスリックスのだよ。美味しいかはわからないけどね」
「……おそらくかなりの高級肉なのですが、よろしいのですか?」
「大量にあるし、がっつりステーキにして食べようよ。エールもあるし、今日はちょっと豪華にしよう。翼亜竜の危険がなくなったし、アル隊長たちが戻った次の日には出発するからそのつもりでね。タンザに料理を任せるから、リアはちょっと手伝ってくれる?」
 
 朔は、5kgはある大きな塊肉を2つタンザに渡し、料理をしたい思いをぐっと堪えてナタリアに声をかけた。タンザは簡易的な調理場へと向かい、ミラもまた朔に断ってからタンザを追いかけた。ナタリアはその様子を見送ってから、朔に視線を戻して答える。
 
「はい。何をしましょうか?」
「ここに魔物の群れがどのくらいまで近寄っていたのか、痕跡を見て欲しいんだ。その範囲内でここを拠点化しておこうと思ってさ」
「拠点なんて造ってどうするのにゃ?」
「あの魔法陣が消えるまでは積極的に利用するだろうからね。ここは探索の重要拠点になると思うんだよ」
 
 皆はバステトの疑問に答えた朔の説明に同意し、タンザとミラを残して扉をくぐる。まだ混乱の最中にあるレ―ヴのメンバーもまた、決して出ようとしなかった外へと足を踏み出してしまっていた。ナタリアは痕跡がある範囲と無い範囲の境目を確認しながら移動し、目印代わりに彼らを立たせていった。
 
「サクさん、大凡この範囲ですね」
 
 ナタリアが周囲を確認し、朔へと報告した。朔も彼女から説明を受けながら建物に沿ってぐるりと周り、状況の推測を始める。
 
(大凡半径50mの正円……これは偶然じゃないな。ゲームのセーブ地点みたいに、魔物は寄って来ないようになってる気がする。六大迷宮はアルス様が管理してるっぽいし、十分あり得る設計かな。なら地下施設にしなくても大丈夫か)
「リア、ありがとう。堀の深さと壁の高さはどれくらいいるかな?」
「そうですね。この階層の魔物であれば10mは楽に跳べますので、防御面では効果が薄いのではないでしょうか」
「空飛ぶ魔物もいるしね。じゃあ、生活環境と壁に囲まれている安心感があればいいか」
「たしかに深く眠ることが出来る拠点があることは、今後の探索に大きく貢献すると思われます。安心感であれば周囲の砂漠が見えない程度の高さ……いつもよりも少し高いくらいで良いかと」
「了解。じゃあ始めようか」
 
 朔は魔物が入って来ない範囲の内側を移動しつつ、八回に分けて高さ3m、幅2mの岩壁と深く幅広い堀を造り出した。多少の疲労感を感じながらも、朔は作業を続ける。
壁の内側はサッカーのフィールド程度の面積があり、直射日光を遮る為の高い石壁や、その影に隠れるように長屋を造り出していく。また、魔法陣があった建物を補強し、その隣には分厚い岩壁を持つ大会議室兼食堂兼地下避難所を、さらにその隣には男女別れた浴場を造り出していた。やりたい放題である。
 
 翌日の夜遅くにアル達が帰還し、下層への階段と上層への階段を発見したとの報告を受けて話し合った結果、レーブのメンバーも朔の提案を呑み、出発に同意した。
 
 さらに翌日の朝。
 
「あははははははは! ハニー馬鹿過ぎるっ、お腹痛いっ」
「サクさん、この像はいったいなんでしょう?」
「バカ」
 
 朔たちは岩壁に造り出した門の外に集まっていたのだが、門の目の前には5mを超える高さの少年──ヒトミがアルスと名乗っていたときの姿──の石像が鎮座していた。ヒトミはお腹を押さえて笑い転げ、ナタリアは冷静に問いかけ、ミラはぼそりと呟く。なお、他の皆はその像を不思議そうな顔で見上げている。
 
「ん? あれは、標識だよ。右手が示す方向には下層に行く階段があって、左手が示す方向には地上に戻る階段があるの。手に持ってる旗にもそう書いてあるでしょ?」
「そういうことではないのですが……。情報も無料ではないのですよ?」
 
 ナタリアは、幾分困ったように朔を諌めようとするが、朔は笑いながら言い放つ。
 
「あはは、何も持ってなかった俺にタダでたくさんのことを教えてくれたリアが言ってもね。皆のおかげでこうやっていられるんだから、受けた恩のお裾分けだよ」
「まったくもう……サクさんらしくて素敵です。が、この階層の拠点を含めた地図の料金はきちんとギルドに請求しますので」
 
 ナタリアは少し照れくさそうにしながらも、顔を引き締めて断言した。その表情の変化に朔はくつくつと笑う。
 
「リアらしいね。次の像はリアの姿にしようかな。さあ、皆行こう」
「ひゃい!? ダメですよ! 絶対ダメですからね!」
 
 ナタリアが朔のマントをひっぱりながら懇願する中、朔たちは地上への脱出へ向けて一歩を踏み出した。
 
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