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第四章:諸国漫遊Ⅱ

翼亜竜③

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 その頃、ヒトミは翼亜竜との戦闘が行われている場所からやや離れた岩の陰でステータス画面を見ながら頭を抱えていた。
 
「はあ、何回見てもひどす……アルスじいちゃんの馬鹿あ!!」
 
 ヒトミが嘆いている理由は、先程のピアスリックス戦で得た経験値により、ヒトミのステータスが以下の通りとなっていたからである。
 
Name:ヒトミ
Age:15
species:人族
Lv:35←up!
Job:上級剣士Lv28(STR+2、VIT+1、AGL+1)、上級大剣士Lv28(STR+3、VIT+1)、上級細剣士Lv28(STR+1、AGL+1、DEX+2)、上級軽戦士Lv28(STR+1、VIT+1、AGL+2)、上級軽戦士Lv28←new!
 
ステータス←up!
HP:1186 +-(32)
MP:329 +-(8)
STR:419 +-(5+8)
VIT:224 +-(4+4)
AGL:397 +-(5+6)
DEX:184 +-(3+2)
INT:228 +-(5)
MAT:186 +-(4)
MDF:235 +-(5)
Talent:武術の才能、剣術の才能
Skill:剣術Ⅳ、体捌きⅢ、目利き(植物)Ⅱ、交渉術Ⅱ、大陸共通語Ⅲ、鋭斬Ⅱ←up!、剛断Ⅱ←up!、パリイⅡ←up!、身体強化Ⅱ←up!、見切りⅡ←up!、瞬歩Ⅰ、空間把握Ⅱ←up!、格闘術Ⅱ←up!、威圧Ⅰ、裁縫Ⅰ、料理Ⅰ
 
Gift:アイテムボックスⅠ、【アルスの加護:隠蔽中】
残りポイント64
 
 Cランクのエレ・ピアスリックスの経験値についてはナタリアと朔が全力で倒しにいったため、ヒトミにはあまり経験値が入っていない。とはいえ、アルスの加護(経験値3倍)によりレベルが一気に10以上も上昇していた。
 ヒトミが損をした、そしてこれから損をするであろうステータスのことを考えていると、頭の中に聞き覚えのある声が響く。
 
《ヒトミよ、どうしたのじゃ?》
(あ!! じいちゃんひどいよ! ステータスめっちゃ損したじゃん!!)
 
 ヒトミは、開口一番アルスに文句を叫んだ。アルスはほっほっほと笑い、ヒトミに告げる。
 
《早く強くなりたかったのじゃろ? それに、jobレベルが最大になっておらんから、どちらにしろ転職できまいて》
(うっ……でも、Bランクなんて倒したらボクのレベルはどうなっちゃうのさ!?)
《ふむ、40は超えるじゃろうの。サク・アサクラに大分追い付けそうじゃ》
(複合職取る前にそんなにレベル上がったらダメなんだって!)
《仕方なかろう。まったく、いつまでたってもヒトミは我儘じゃの》
 
 ヒトミは念話で大声を上げるが、アルスはのらりくらりと話を躱す。叫んでもダメだと気付いたヒトミは上目遣いをしている雰囲気を作り、アルスに猫なで声で話しかける。
 
(じいちゃん、じいちゃん、あのさ──)
《──ダメじゃ》
(まだ何も言ってないじゃん!)
 
 アルスはヒトミの言葉を遮り拒絶した。ヒトミは再び声を上げるが、アルスは冷静に説明をする。
 
《ヒトミよ、jobレベルが最大になっているならばまだしも、職業を変えることはできん》
((ちっ)うん。でも、次の複合職だとHPの才能値が上がるんだよ? さっきのハニーみたいにワイバーンなんかに吹き飛ばされたら、ボクのHPだとすぐに死んじゃうよ?)
《心の中で舌打ちしたふりをしても聞こえとるからな。そのときは再びサク・アサクラのことをここから見守ることじゃな》
(せっかく会えたのにそれはないよ! じゃあさ……Bランクの経験値がボクに入らないようにできないかな? ここを管理してるの爺ちゃんだし、それならどうにかなるでしょ?)
《ふむ、それくらいであればできぬこともないが》
(ありがと爺ちゃん♪ 大好き!)
《まだやるとは言っていないのじゃが……仕方ないのう。今回だけじゃぞ?》
(モチロンダヨ。じゃあまたね、爺ちゃん♪)
 
 ヒトミは念話を切り、ステータス画面を閉じて息を吐く。
 
(ふう、爺ちゃんが一旦断ってくれて良かったー♪ ブリちゃんもそれなりの覚悟をしてこの旅に同行してくれてるし、爺ちゃんがあっさり職業変更なんてしてくれちゃってたらその思いを踏みにじっちゃうとこだったよ)
 
 ヒトミが思い通りにいったことにご満悦な表情でいると、シンが空から降りて来てヒトミの左肩に止まった。
 
「クックーッ♪」(ママー、そろそろ良いよー♪)
「シンありがと♪ 良い子良い子。懸念も払拭されたし、そろそろ行こっか!」
 
 ヒトミに撫でられたシンは目を細め、くるくると喉を鳴らす。シンは再度空へと飛び、上空からヒトミの先導を行う。ヒトミはシンの指示に従いつつ、翼亜竜の後方から徐々に近付いていった。
 
 
一方、朔たちは再び翼亜竜との戦いに突入していた。
 
「ダメ。凍らない」
 
 ミラは翼亜竜を飛ばさないために氷槍を何度も放っていたが、翼に当たりはするものの凍りつかせることはできないでいた。その度に朔はリスクを背負い、飛び立とうとする翼亜竜を地面に落としている。
 だが、朔はこれまで直撃を食らってはいなかった。そのリスクを低減させていたのはリトの存在である。
 
「フゴオオオオオッ」(こっちを向くのです!)
「GRYYYYYYYYY!!!」
「フゴオオオオオッ」(あっち向けですううううう!)
「グッジョブ、リト!」
「GRYYYYYYYYY!!!」
 
 朔が攻撃を当てた直後、リトは挑発で翼亜竜の意識を引きつけると、すぐに咆哮を使いほんの一瞬だけ翼亜竜を怯ませる。その僅かな時間のおかげで、朔は噛みつきや尻尾を躱すことができていた。
 少し距離を取った朔は、バトルスタッフを軽く掲げてミラに向けて叫ぶ。
 
「ミラ! 気にするな!」
「ん。氷槍」
 
 ミラは再度氷槍を放つものの、凍りつかせることはできない。膠着した状況に陥りそうになる中、ナタリアが動きをみせる。彼女は、いつもの小回りのきく短弓を収納袋に入れ、細い彼女には似つかわしくない無骨で大振りな長弓を取り出した。さらにマントを外し、胸当て、ゆがけを素早く装備する。
 
(この子は扱いにくいのですが、致し方ありませんね)
 
 ナタリアは長弓をぎりぎりと引絞り、矢を放つ。鋭い弦音とともに放たれた矢は空気を切り裂き、目にも止まらぬ速さで翼亜竜の飛膜を突き破った。
 
「GRYYYYYYYYY!!!」
(飛膜ではだめですね。狙うべきは……)
 
 翼亜竜は視線を矢が飛んできた方へと向けるが、そこにナタリアはおらず、別の場所から再度矢が放たれた。今度はナタリアの狙い通りに、固い鱗を突き破り翼の骨へと突き刺さる。ナタリアは姿を消しては現れて矢を放ち、数本は外したものの翼亜竜の左翼には何本もの矢が刺さっていく。
 
「ミラ! 翼に刺さった矢に氷を!」
「ん。リア、ありがと。最大氷槍×3!」
「GRYYYYYYYYY!!!」
 
 ミラの全力で作りだした巨大な氷槍が、翼亜竜の左翼に当たる。翼そのものを凍りつかせることはできないが、やじりを柱にした大きな氷塊が取り付いた。
 バランスを崩した翼亜竜はサクたちに怒りや焦り、そして強い脅威を感じていた。翼亜竜は再度魔法を放とうとしているミラを睨みつけ、息を大きく吸い込もうとするが、朔とリトがそれを許すはずもない。
 
「フゴゴゴゴッ!」(姉上を見るなです!!)
「砕けろおおおお!」
 
 リトが翼亜竜を引きつけた一瞬で朔は踏み込み、翼亜竜の首に渾身の一撃をぶち当てた。朔の一撃により翼亜竜の首の鱗は砕け散り、骨にひびが入る。
 しかし、そのことが翼亜竜を逆鱗に触れた。怒りに狂った翼亜竜はひびがはいっている首を振り、大振りの一撃を入れて体勢が崩れていた朔に頭突きを食らわせる。
 
「くそっ!!!」
 
 朔はガードしながらも再度吹き飛ばされた。運の悪いことに、飛ばされた方にはリトがおり、受けとめようとしたリトごと後方へ飛んでいく。
 
「(不味い!)サクさん、ブレスが来ます!!!」
「くっ、全力土壁!!!」
「GRAAAAAAAAA!!!」
 
 ナタリアはサクの方へと視線を向けてしまい、翼亜竜のブレスの兆候に気付くのが遅れてしまった。朔は全力で魔力を練り、分厚い岩壁を作りだしていく。

「うおおおおおっ!!」

 朔は、ブレスで削れていく岩壁を全力で再構築していく。砕け散った岩壁が土煙りとなり朔とリトを包んだ。ブレスを吐き終わった翼亜竜は、息を切らしながら朔たちがいた方を注視し、ミラもまた土煙りが晴れるのを心配そうに待っていた。
 ただ一人、ナタリアはほっと息をつくと、翼亜竜の右後方へと静かに目を向ける。静寂に包まれていたその場に、二つの黒い影が岩陰から飛び出した。
 
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